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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第五章 伊勢惣奉行編

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第六十八話 芋粥流長島対策開始

別の日。

秀政は、伊勢惣奉行の屋敷に主要な家臣を集めた。


その顔ぶれを見ただけで、

これから語られる話が軽いものではないと、

誰もが察していた。


松親、南條、荒木、そして神崎である。


「今日呼んだのは他でもない。

 芋粥流の長島対策を開始する。


 見ての通り、長島はもはや不可逆な状態で

 一揆に向かっている。


 一向一揆は他の土一揆と違うぞ。

 奴らは信仰を根に蜂起する。


 即ち、死を恐れない、引き下がらない」


松親が悪態をつく。


「実に馬鹿らしい。

 でも戦いたくはない」


「その通りだ、押さえつければ反発し、

 追い詰めれば死兵と化す。


 力攻めは愚策中の愚策」


眉間に皺を入れた状態で、

南條が続けた。


「滝川殿がそれをやろうとしておりますな」


「土一揆ならばそれが一番良い。

 だが、滝川殿は一向宗門徒を、

 正しく理解していない」


「なら殿は如何にして対策なされるので?」


「宗教門徒というものはな。

 大きく分けて、二種類しかおらん。」


「二種?」


「惑いなくその道を信じる、真の宗教家と……」


一拍置いて、皆の顔を見渡した。


「追い詰められて、仕方なく神仏にすがる弱者だ」


「なるほど……」


「今、長島に多く居るのが後者なのだ。

 弱者とはいえ、すがる以外、道がないのだ。

 そう簡単には信仰の骨は折れん」


松親は、しばし考え込むように顎に手を当て――

やがて、腑に落ちたように顔を上げた。


「なるほど、義兄上の意が見えました。

 義兄上の滝川流の締め付けの反対の道を行くのですね」


「そうだ」


意を得て、松親が続ける。


「つまり、伊勢を富ませる。

 そして私の嫌がらせ策で長島と切り離す。


 伊勢が富めば、不便な長島に留まる必要はない。

 神仏にすがる必要もない。


 多くの者は村に帰る」


秀政が嬉しそうに松親を見つめて、

続けた。


「その通りだ。だが、時間はかかる。

 滝川殿はこれを非効率だと断じている。


 だがな、力攻めで信仰の骨を折るのと

 どちらが時間がかかるか。


 やってみないと俺にもわからん」


(俺の知る限り、力攻めでは数年以上かかる)


皆が黙った。だが、その目は秀政を見つめている。


絶対の信頼と共に。


「本題に入るぞ。

 やることを整理する。


 まず第一だ。

 民心回復を最優先にする。


 つまり――

 北勢の農地改革だ。


 誰が腹案ある者はいるか?」


南條が真っ先に口を開いた。


「農地改革……さすれば年貢の再評価です。

 それも実質の減税を行うのです。


 現在、滝川様の締め付けで疲弊しております。

 ここで殿が"優しい年貢"を打ち立てれば、

 即座に民心が戻ります。


 具体的には……。


 荒地は年貢を半減とする。

 今年の凶作地は免除とする。

 年貢の"基準升"を統一し、不正を防ぐ。


 これらが挙げられます」


荒木も割り込んで提言した。


「代官の不正取り立てを即刻禁止しましょう。

 厳しく取り締まります」


「うむ、それは良いな。

 南條、荒木、すぐに実行せよ。

 お前達は得手不得手がある。


 郡を跨いで協力し合え。

 別に競う必要はない。


 お前達二人は、これからも昇り続ける身だ。

 けち臭いことで足を引っ張り合うなよ」


「はは!」


「他には案があるか?」


松親が手を挙げる。


「あります。

 長島、桑名は湿地帯で水害が多いです。

 用水路、堤防を緊急修繕し、

 治水を強化しましょう。


 具体的には、次のことが挙げられます。


 村ごとに用水路の詰まりを調査。

 利玄殿、盛恒殿の兵を動員した土木作業。

 千種屋からの資材調達。


 これらにて一気に仕上げれば、

 百姓の信頼は義兄上の物です」


「それも良い。

 松親と南條に任せる。


 松親、お前が総大将だ。

 利玄、盛恒を指揮せよ」


「はは!」


秀政は満足そうに微笑んだ。

少し考えこみ、次の話題を挙げた。


「農地改革はそんなところだな。

 次は物流改革だ」


南條がすぐに意見を出す。


「これは我が得手とする領域、お任せください。


 ここ、桑名は伊勢湾物流の中心です。

 桑名湊の大改修せずして、話が始まりません。


 湊の泥さらいを行いましょう。

 そして、船着き場の増設です。

 荷揚げ場の整備もやりましょう。


 そうすれば伊勢の富が戻ります。


 そして街道です。


 政成様が整えられた街道の治安を、

 万全といたしましょう。

 利玄殿の兵の一部を治安隊として、

 適宜配備されてはいかがでしょう?


 そして千種屋に"街道茶屋"を出させましょう」


秀政が笑顔で聞いていた。


「楽しそうだな、南條」


「あ……失礼いたしました。

 何分、この手の仕事は大好物でして……」


「いや、良い。南條、お前に任せる」


「はは!」


「しかし、治安隊か……。

 良いな。


 荒木、芋粥の兵とは別に百名常備兵を増やせ。

 そして利玄を治安隊大将にして、街道だけではなく、

 盗賊、山賊の類も取り締まれ。


 また長島門徒の密使も逃すな。


 それとは別に村ごとに自警団を組織させよ。

 金は援助してやれ。


 織田の伊勢は安全だと思わせるのだ」


「は!」


ひと通り意見が出揃い、

議論が落ち着いた、その時だった。


今まで黙っていた友清が、

遠慮がちに口を開いた。


「秀政様、私もご意見よろしいでしょうか?」


「構わぬ。申せ」


「はい、伊勢は郡ごとに文書形式が不統一です。


 年貢台帳を統一しましょう。

 状況の把握がしやすくなります。


 村ごとの人口、田畑、家畜の、

 これまでの調査資料もその粒度が違い過ぎて、

 全く使い物になりませぬ。

 各地の問題が見えねば、

 支援の内容も優先順位も定まりません。


 代官の報告書式も統一させれば、

 不正が出来ぬ仕組みを作れます。


 私に任せて頂ければ、それを統一させてみせます」


秀政が驚いたように目を見開いた。


(この若さで、そこに着目するか……。

 三十貫……、松親め。見る目はあるようだな)


「よかろう、友清。

 お前を伊勢惣奉行付きの文書奉行もんじょぶぎょうにする。

 松親、お前が精査せよ。


 友清、松親と共に見事やり遂げよ」


「は!」


「よし、まずは伊勢を富ます方針は決まった。

 長島を切り離すのはその次だ。


 各々、抜かりなくやれ!」


「はは!」


こうして、芋粥流長島対策が動き出した。

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― 新着の感想 ―
伊勢と切り離された長島、どちらかといえば煮詰まった過激派組織になりそうな気もしますが……ただ伊勢の空気を「日常」に返して「戦時」の空気の長島と心情的な断絶が生まれれば、人や物資の流れを断つ以上に分断で…
本日も投稿ありがとうございます。 信徒、桑名の引き剥がし策としての内政がスタートですね。 地味ながら今後支配地域で使える楽しげな物が多いのが尚の事良いですね(その時はデスマーチ確定ですが) 問題は…
農地改革も物流も全部に南條が指名されてブラック企業並みにヤバそう まぁ年貢再評価と物流は自ら手を挙げてるんだが
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