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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十七章 織田家宿老編(本能寺編)

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第三百四十話 疑心の種

「仰せのとおり、ここ一月ほど、吹いては消えるような噂を村井殿の周辺に流しておきました」


神崎は、政親の顔を見ながら報告を始めた。


「明智殿や長宗我部殿の耳にも、いずれ入ることでございましょう」


「うむ。どのような噂を流した?」


「上様が長宗我部家の処遇について、再びお考えを変えられるかもしれぬ、というものでございます」


神崎は、落ち着いた口調で続けた。


「阿波と讃岐の領有を認めたのは、あくまで当面の措置。

 毛利との戦いが片づけば、両国を召し上げるおつもりだと。

 さらに、先月と比べて東方の情勢が落ち着いたことも、上様のお考えが変わる後押しになったという話を加えております」


「なるほどな」


政親は、満足そうに頷いた。


「もっとも、今の段階でそのような話を聞いても、明智は笑い飛ばすだろうな」


「はい。上様の真意については、すでに明智殿も承知しておられるはず。

 今さら、その程度の噂を信じるとは思えませぬ」


神崎は、そこで一度言葉を切った。


「しかし、長宗我部殿は違いましょう」


「うむ」


政親は、腕を組んだ。


「長宗我部も、噂を耳にしただけでは信じまい。

 明智から上様の真意は重々伝わっておるだろうからな」


「そのとおりにございます」


「だが、一度は疑ったことのある話だ。

 完全に忘れることもできまい」


長宗我部元親は、織田家との関係を維持するため、明智光秀を通じて信長との交渉を重ねてきた。

その結果、現在は四国における長宗我部家の立場も、ひとまず安定している。


しかし、信長の意向が今後も変わらないという保証はない。


信長が新たな方針を示せば、長宗我部家はそれに従うか、織田家と対立するかの選択を迫られることになる。

政親は、その不安を利用しようとしていた。


「それで、毛利の方はどうなっておる?」


政親が尋ねると、神崎は頷いた。


「はい。毛利家にも、すでに噂を流してございます」


「ほう」


「こちらには、より具体的な内容を伝えております。

 上様が長宗我部家から阿波と讃岐を召し上げようとしていること。

 そして、その話が織田家中で再び持ち上がっていることを」


「具体的……とは?」


「そもそも長宗我部は毛利を裏切って織田に従いました。

 上様はそのような不義理者を好まぬと。


 つまり、信用の置けぬ長宗我部を切り捨てる覚悟を、上様が固められたというわけです。」


「なるほど。

 九州加増を言い分として、先に阿波・讃岐を召し上げるとでもしたか?」


「そのとおりにございます」


「長宗我部が素直に従えばよし。

 九州をあわよくば切り取れば、言葉通り九州の三ヵ国を褒美として与える。

 だが、その頃には長宗我部は満身創痍となろう。

 弱体化に繋がる。

 九州攻略を果たせねば、それこそ大打撃を受けた上に四国の二ヶ国を召し上げられて、もはや織田には逆らえなくなろうな」


「はい、もちろん上様は素直に従うとは思っておらぬ。

 だからこそ長宗我部の天敵である芋粥を西方に派遣し、明智と共に四国を平定する所存だと」


「上様らしい合理策よ。

 で、流言の出所は?」


「毛利に対しては、村井殿の周辺だけではございませぬ。

 明智殿の周辺から漏れた話とも、芋粥家に近い者が耳にした話とも受け取れるようにしております」


政親は、感心したように笑った。


「なるほど。出所を一つに絞らせぬわけか」


「はい。毛利家が調べようとしても、異なる筋から似た話が聞こえてくるようにしてございます」


「良い。

 噂の真偽よりも利用価値を重んじる毛利にとって、複数の筋から似た話を掴んだこと自体が、長宗我部を説得するのに有利に働く」


「はっ」


「毛利は今、織田家との戦いで苦しんでおる。

 長宗我部が再び織田家に背を向ければ、それだけでも毛利にとっては大きな助けとなる」


政親は、指を折りながら説明した。


「長宗我部が織田家に従っている限り、毛利は四国方面にも気を配らねばならぬ。

 しかし、長宗我部が離反すれば、その心配は減る。

 場合によっては、織田家に対抗する味方にもなろう」


「まことに、そのとおりにございます」


「そのためなら、毛利は多少怪しい噂でも利用するはずだ」


政親は、口元に笑みを浮かべた。


「我らが長宗我部を説得する必要はない。

 毛利に噂の種を与えてやればよいのだ」


神崎は、黙って頷いた。


「毛利には知恵や口の回る者が多い。

 長宗我部を再び寝返らせるためなら、勝手に尾ひれを付けて話を広げてくれるだろう」


「はい。すでに毛利方でも、長宗我部家との接触を強めようとする動きが見られます」


「ほう。早速か」


「まだ大きな動きではございませぬが、噂を利用するつもりはあるようにございます」


政親は頷いた。


「それでよい」


毛利家が噂を利用して長宗我部家に働きかければ、元親は織田家の真意を改めて確かめようとするだろう。


その相手は、当然ながら明智光秀になる。

光秀は、これまで長宗我部家との交渉を担当してきた。

信長の意向を元親へ伝え、両家の関係を取り持ってきたのも光秀である。

しかし、毛利家から異なる話を聞かされた元親が、光秀の説明を素直に信じるとは限らない。


「長宗我部殿も、明智殿から何度安心だと言われようと、心のどこかでは疑うようになりましょう」


神崎が言った。


「明智殿も、所詮は織田家中の一人にございます。

 上様が本当にお考えを変えられたなら、それを止められる立場ではございませぬ」


「うむ」


「そうなれば、長宗我部殿は明智殿に何度も問い合わせることになりましょう」


「そして、明智も再び不安になるというわけだな」


「はい」


神崎は、静かに頷いた。


「長宗我部殿から繰り返し疑問をぶつけられれば、明智殿とて、上様のお考えが本当に変わっておらぬのか、確かめずにはいられますまい」


政親は、しばらく考えた。


「なるほど。明智自身が信じておらぬ噂でも、長宗我部が疑い続ければ、無視できなくなるか」


「そのとおりにございます」


「しかも、毛利から話が伝われば、明智も単なる家中の噂として片づけにくくなるな」


「はい。毛利が何を掴んでいるのか、気になるはずにございます」


政親は、愉快そうに笑った。


「よく考えたものだ」


神崎は、頭を下げた。


「恐れ入りまする」


「しかし、あまり時間はかけられぬぞ」


政親は、表情を引き締めた。


「この先、一月《ひとつき》か二月《ふたつき》のうちに、明智が決心してくれると助かるのだがな。」


「はい」


「我らは秋までに中国方面軍へ合流するよう命じられておる。

 今なら、中国攻めの準備という名目で兵を集めることができる」


政親は、神崎を見た。


「もし明智が謀反を起こせば、我らは真っ先にその討伐に向かえばよい。

 義兄上が率いる芋粥軍ならば、明智勢を討ち破ることも難しくはあるまい」


「まことに、ごもっともにございます」


「だが、時機を逃せば、我らも中国へ向かわねばならぬ。

 そうなってからでは、思うように動けぬからな」


政親は、腕を組んだ。


「明智には、できるだけ早く動いてもらいたいものだ」


神崎は、深々と頭を下げた。

政親は、神崎に向き直った。


「……して、その頃合いとは?」


「実は、面白いことを調べ上げました」


「何だ?」


神崎は、少し身を乗り出した。


「現在、徳川殿を上様がお招きになっていることは、ご存じでございますな?」


「うむ。武田征伐の働きをねぎらうため、安土へ招かれたのであろう」


「はい。そして、その歓待役を務めているのが、明智殿にございます」


「ほぉ?」


政親は、興味を示した。


「明智が徳川殿の歓待役か」


「左様にございます」


神崎は、声を落とした。


「ところが、明智殿は、またしても上様のご機嫌を損ねてしまったようでございます」


「何があった?」


「度重なる不安からか、明智殿は再び長宗我部家の処遇について、上様の真意を確かめようとされたそうです」


政親は、思わず笑った。


「ははは。やはり気になっておったか」


「はい。すでに何度も確認した話を、また持ち出したのでございます」


「義兄上ならともかく、上様に同じことを何度も尋ねるのは危ういな」


政親は、苦笑した。


信長は、決断が早い。

一度決めたことについて、家臣から繰り返し確認されるのを好まない。


まして、自分の意向を疑われていると感じれば、機嫌を損ねることもある。


「それで、上様は何と?」


「明智殿を厳しく叱責されたそうでございます」


「それだけか?」


「いえ……。

 徳川殿の歓待に関わる些末な不手際を咎められ、皆の前で明智殿を足蹴になされたとか」


「ほう……」


政親は、目を細めた。


「皆の前でか」


「はい。居合わせた者たちの前で、厳しくお叱りになったと聞いております」


「ふふ……なるほどな」


政親は、しばらく笑っていた。


光秀は、織田家の重臣である。

その光秀が、人前で信長から足蹴にされたというのであれば、面目を失ったことになる。


しかも、光秀は長宗我部家との交渉について、以前から不安を抱いていた。

そこへ今回の叱責が重なったのである。


政親は、神崎を見た。


「しかし、それくらいでは明智は謀反には至らぬぞ?」


「はい。拙者も、そう考えております」


神崎は、あっさりと認めた。


「明智殿は、上様に長年仕えてきた重臣にございます。

 叱責を受けたからといって、それだけで謀反を決意するような方ではございますまい」


「うむ。そこは俺も同感だ」


政親は頷いた。


「不満を抱くことと、謀反を起こすことは別だからな」


「はい」


神崎は、政親の顔を見つめた。


「そしてもう一つ決め手が」


「何だ?」


「羽柴殿が上様に中国地方攻めの援軍を求められました。

 援軍と申しましても、羽柴殿が自身の活躍を上様の目前で示したいだけでしょう。

 上様は来月京に向かわれます。

 そしてそれに合流するため、中将様もお越しになられます」


「上様と中将様が一所《ひとところ》に集われる……」


「だからこそ、ようやく毒を含ませる頃合いと申し上げたのでございます」


政親は、黙ったまま神崎を見た。


やがて、その口元に笑みが浮かんだ。


「……なるほどな。

 俺自身が明智殿の見舞いにでも行くか……」

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家康の伊賀越えって三重の白子浜から船でしたよね、徳川家康と本多忠勝ら重臣根こそぎ始末出来るよね伊勢白子浜ですから…しかも家康は嫡男信康が亡くなって跡継ぎが秀康と秀忠で割れる可能性が これ主人公が徳川家…
これで主人が本能寺の救援に間に合って信長延命ルートとかに行いったらおもろい
神崎と政親、黒幕なのか、黒幕気取りなのか? 神崎、梯子外されないように気をつけや いよいよ、山場が近づいてきましたね 更新楽しみにしております
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