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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十六章 織田家宿老編(東方遠征編)

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第三百十二話 新たな鬼兵

坂木が慌てて秀政へ近づく。


「と、殿。

 いきなり侍大将にございますか?」


「ああ!」


「しかし、まだ仕官すら――」


「だから今頼んでおる!」


秀政は重秀へ向き直った。


「鈴木重秀。

 いや、重秀殿」


「は、はあ」


「ぜひ芋粥家へ来てくれ。

 侍大将として召し抱えたい」


重秀は困惑していた。


仕官を求めて試験を受けに来た。

鉄砲を撃ち、兵を動かした。

すると突然、伊勢の大名本人が近づいてきた。


足軽大将にすると言われたところまでは理解できる。

ところが名前を名乗った途端、なぜか侍大将になった。


「某は、まだ何の功も立てておりませぬが……」


「これから立てればよい!」


「はあ……」


(あの鈴木重秀だぞ!

 こんな奴が自分から仕官試験を受けに来ているのに、足軽大将で帰せるか!)


しかも未来の名声だけで決めたわけではない。

名前を聞く前から、秀政自身が足軽大将にしたいと思うだけの力量を見せている。


鉄砲の腕、地形を見る目、そして兵を率いる能力もある。

そこへ鈴木重秀という名前まで加わった。


逃す理由など一つもなかった。


「どうだ?」


重秀は少し考えた。

やがて頭を下げる。


「……そこまで買っていただけるのであれば。

 お仕えいたしましょう」


「おお!」


秀政の顔が輝いた。


「よし!

 これから頼むぞ、重秀!」


「は」


*


さらに重秀について調べてみると、今回集まった者の中には、他にも目を見張る者が何人もいた。


鈴木一門に連なる者もいれば、土橋、岡といった雑賀の有力な家々に連なる者もいる。

他にも、津田一門に連なり鉄砲衆を率いてきた者、根来で鉄砲衆をまとめていた者などだ。


最終選抜で兵を率いさせてみれば、その中にも使える者が次々と見つかった。


「……またか」


秀政が呟く。


「はい。

 この者は土橋一門に連なる者で、数十人の鉄砲衆を率いた経験がございます」


「組頭として採れ。

 こっちは?」


「岡氏の下で戦っていた者にございます。

 百人近くを預かったこともあると」


「足軽大将だ。採れ」


「は」


「こっちもだ。

 組頭で採れ」


「はっ」


「これは?」


「津田一門に連なる者にございます。

 鉄砲の扱いだけでなく、兵をまとめることにも慣れておりますれば、足軽大将でもよろしいかと」


「採れ!」


当初は鉄砲兵を集めるつもりだった。


それが蓋を開けてみれば、兵だけではない。

兵を率いる者まで一緒についてきた。


最終的に、足軽大将や組頭として使えると判断された者だけで三十人近くに達した。


しかも、その多くが実戦を経験している。


一から兵を集め、組頭を選び、足軽大将を育てる必要がない。

部隊として編成し直しさえすれば、そのまま戦場へ連れていける者たちだった。


そして肝心の兵も――。


「殿。

 最終結果が出ました」


「どうなった?」


「やはり六百ほどは採用してよろしいかと」


秀政は腕を組んだ。


「二百の予定だったのだがな」


「はい」


「……六百か」


「減らしますか?」


秀政は試験場を見渡した。


ここまで残った者は、誰もが鉄砲を扱える。

その多くが実戦まで経験している。


一から育てれば何年掛かるか分からない人材が、目の前に六百人もいる。


「いや」


秀政は首を横に振った。


「全員採る」


坂木が僅かに笑った。


「よろしいので?」


「ここまでの奴らを、定員が二百だったからという理由で四百人も帰したら、義父殿に馬鹿者と怒鳴られる」


「確かに」


「六百人全員、召し抱えろ」


「はっ!」


これで黒鬼鉄砲隊の損失は補える。

だが、秀政はそこで考え直した。


(待てよ)


旧黒鬼鉄砲隊。


そして新たに加わる六百人もの雑賀、根来の鉄砲撃ち。


しかも、その頂点には鈴木重秀までいる。


「……坂木」


「は?」


「これでは黒鬼の補充では収まらんな」


「と申されますと?」


秀政は重秀を呼んだ。


「重秀」


「は」


「お前たち雑賀の鉄砲撃ちは、野でも林でも、使えるものは何でも使って身を隠すのであろう?」


「はい。

 隠れられる場所があるなら、わざわざ姿を晒す必要はございませぬ」


「草むらにも潜むか?」


「無論にございます」


秀政は笑った。


「ならば、ちょうどよい」


「何がでございます?」


「緑鬼じゃ」


「……緑鬼?」


周囲の者が秀政を見る。


「黒鬼兵の内、鉄砲を専門にしたい者と、今回集めた雑賀、根来の鉄砲衆を合わせる」


秀政は言い切った。


「新たな鬼兵を作るぞ。

 鉄砲を専門とする鬼兵じゃ」


坂木が目を見開いた。


「黒鬼から鉄砲隊を分けるのでございますか?」


「ああ。

 秀文が言っておったではないか。

 何も全てを同じように鍛える必要はないとな」


南信濃で黒鬼鉄砲隊は、最後には槍へ持ち替え、赤備えと白兵戦を行った。

それだけの力を持っていたからこそ戦えた。

だが、それだけの兵を作るには時間が掛かる。


何より――。


「鉄砲兵は、鉄砲で戦えばよい」


もちろん、鉄砲以外にも働ける黒鬼を強制的に緑鬼に移すのではない。

黒鬼は今まで通りエリート集団だ。

鉄砲だけに絞られて、不服に感じる者もいよう。

鉄砲と槍の双方を扱う万能精鋭として残す。


その上で、鉄砲を得手とし、槍働きまで求められることに苦労してきた者には、緑鬼への移籍を認めればよい。


秀政は重秀を見た。


「敵に近づかれたなら、赤鬼や青鬼に任せればよい。

 お前たちは敵に近づかれる前に撃て。

 必要なら退いて、また撃て」


重秀が力強く答えた。


「それならば、某らの得意とするところにございます」


「そうであろう」


秀政は笑った。


「草木に紛れ、敵に見つかる前に撃つ。

 鉄砲に特化した緑の鬼兵――緑鬼鉄砲隊じゃ。


 くくく、緑鬼であれば特注の具足も要らんだろう。

 目立たぬ装束に、草葉を差した陣笠。緑の鉢金に鬼角を付ければ十分じゃ」


坂木もつられて笑う。


「具足が不要であれば、初期調達が省けて奥方様に怒られずに済みそうです」


「それよ!」


そして秀政は重秀を指した。


「重秀」


「は」


「お前が軍団長をせよ」


重秀が再び固まった。


「……某が?」


「ああ。

 緑鬼への移籍を望む黒鬼鉄砲兵と、新たに加わった雑賀、根来衆をまとめて預ける」


秀政は笑った。


「俺と一緒に、新しい鬼兵を作れ」


しばらく重秀は秀政を見ていた。


やがて深く頭を下げた。


「承知いたしました」


「うむ!

 もし、鉄砲隊として功を為せたなら、いずれは部将にもなれよう。

 芋粥の鉄砲を支えてくれ」


「は!」


これで一つ、鬼兵再建の目途が立った。


しかも、単に元へ戻すだけではない。

これまでとは違う形への進化でもあった。


南信濃で大損害を受けた黒鬼鉄砲隊は、これまでとは異なる鉄砲専門の鬼兵へ生まれ変わる。


しかも、一から育てる新兵ではない。


雑賀、根来で戦ってきた鉄砲撃ちに、その者たちを実際に率いてきた組頭や足軽大将までいる。

そして、その頂点に立つのが鈴木重秀だった。


新しく作った軍団でありながら、その中身は歴戦の者たちばかりだった。


秀政は満足そうに頷いた。


そして――。


ふと、六百人を超える鉄砲兵たちを見渡した。

旧黒鬼鉄砲隊に、新たな雑賀、根来衆もいる。

これからさらに緑鬼を増やしていくつもりである。


「…………」


秀政の顔から笑みが消えた。

坂木が首を傾げる。


「殿?」


「坂木」


「は」


「鉄砲も、たくさん買わねばならんな」


「……左様にございますな」


秀政は頭を抱えた。

兵が増えれば、当然それだけ武器も要る。


そして後日、黒鬼鉄砲兵に緑鬼への移籍希望を募った。

だが、実際に手を挙げた者はそれほど多くなかった。


かつて紀伊戦線では信雄のお守りをしながら戦い、雑賀衆とは狙撃戦で血を流し合った。

その雑賀衆の下につくことを潔しとしない者も大勢いた。


また、鉄砲も槍も扱える万能精鋭という黒鬼兵の立場から見れば、鉄砲に特化した緑鬼は自分たちより格下の兵にも見えた。

そのため、黒鬼から緑鬼へ移ったのは百名ほどに留まった。


政親率いる黒鬼隊には、七百名強の鉄砲兵が残った。

そして重秀率いる新設の緑鬼鉄砲隊は、七百名からのスタートとなった。


鬼兵再建は、まだ始まったばかりだった。

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― 新着の感想 ―
自衛隊のレンジャーか特戦か。 迷彩服で活躍しまくる未来が見える(笑
緑鬼結成、これだけ専門の精兵が揃うなら指揮も専門家に任せた方が効率いいですからね 後はできれば閲兵やパレードの際に他の鬼兵に見劣りしないよう、式典用の装備があった方がいいんじゃないかと 一つは緑鬼のプ…
緑鬼を格下発言な黒鬼さんがいて、お前の後ろにいるぞな流れからギリースーツ着た緑鬼に空砲撃たれて、実戦なら死んでいた会話があるとみた。草に隠れる臆病者発言とかありそうやな。
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