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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十六章 織田家宿老編(東方遠征編)

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第二百九十九話 廻天連砲陣

凛の下知を受け、白鬼騎馬鉄砲隊が動き始めた。


五十騎を三つに分けた甲隊、乙隊、丙隊。

それぞれ十六、七騎の小隊が縦に並び、その後方には黒鬼鉄砲兵が待機している。


先頭に立つのは、甲隊隊長の霞だった。


「甲隊、参るぞ!

 狙うは雑兵ではない!

 赤備えの中でも腕の立つ者を狙え!」


「はいっ!」


霞が馬を蹴った。

十七騎の白鬼が一斉に飛び出し、中央で鬼兵と激突している赤備え徒歩隊へ向けて駆けていく。

その動きに、内藤昌豊がすぐさま気づいた。


「騎馬……いや、鉄砲を持っておるな」


白装束の女たちが、種子島を抱えて迫ってくる。

内藤は眉をひそめた。


「騎馬鉄砲か?

 だが、あの人数で何をするつもりだ」


白鬼甲隊は速度を落とさない。

赤備え徒歩隊の側面へ向かって十七騎が迫る。


霞は馬上から敵陣を見据えた。


雑兵を撃っても意味はない。

狙うべきは、戦列の中でも目立つ者。

鬼兵の槍を叩き落とし、周囲を鼓舞しながら戦っている赤備えの武者がいた。


(あれだ!)


霞が叫んだ。


「甲隊、あれを狙え!」


白鬼たちは馬を走らせたまま種子島を握る。

だが、騎射するわけではない。

十分な距離まで近づく。


そして停止し、馬上からしっかりと狙う――

黒鬼の立ち撃ちとは異なり、高い位置からの射撃である。

味方越しでも射線を取りやすい。


「放て!!」


ズドドドドン!!


十七挺の種子島が次々と火を噴いた。


先ほどまで鬼兵を押し返していた赤備えの武者が胸を撃ち抜かれ、その場に倒れる。

さらに二人、三人と、前線で奮戦していた赤備えが崩れ落ちた。


「退け!」


霞が馬首を返した。

甲隊はそのまま赤備えとの距離を取り、一斉に自陣へ戻っていく。

内藤はその動きを見て目を細めた。


「一撃離脱か。

 だが、一度撃てば終わりよ。

 馬上で種子島の弾込めなど――」


その言葉が止まった。

甲隊が退いた直後、その横をすれ違うように、別の白鬼騎馬隊が飛び出してきたからだ。


乙隊。


その先頭を、朧が走っていた。


「乙隊!

 甲隊が倒し損ねた腕の立つ奴を狙うぞ!」


「はい!」


凛は後方からその動きを見守っていた。


甲隊が戻る。

乙隊が出る。

そして自分が率いる丙隊は、すでに次の出撃に備えている。


(よし。乱れていない)


この戦術は、一隊でも動きを間違えれば途端に詰まる。


早すぎれば前の隊と重なる。

遅すぎれば射撃の間隔が空く。


撃つ者、戻る者、次に出る者。

三つの隊が絶えず入れ替わり続けなければならない。

そのために、白鬼は何度も同じ訓練を繰り返してきた。


そして、その基礎を叩き込んだのが、南蛮人のジョアンだった。


(あの胡散臭い南蛮人の教えが、本当に役立つ日が来るとはな)


凛は一瞬だけ、女好きで助兵衛なジョアンの顔を思い浮かべた。


*


乙隊が赤備えへ迫る。

朧は敵の戦列を見渡した。


「……あれだな」


槍を振るい、周囲の赤備えをまとめながら鬼兵を押し込んでいる武者がいる。

朧が種子島を向けた。


「撃て!」


ズドドドドン!!


再び十六挺あまりの種子島が火を噴く。


狙われた赤備えの武者が肩から血を噴き、倒れた。

周囲の兵も何人かが撃たれ、戦列が乱れる。


「乙隊、退け!」


朧たちはすぐさま馬首を返した。

そして、その後方では――


「丙隊、行くぞ!」


凛がすでに馬を進めていた。


甲隊が戻る。

乙隊が退く。

丙隊が進む。


三つの白い騎馬隊が、まるで輪を描くように入れ替わっていく。


*


自陣へ戻った霞の前には、五十人近い黒鬼鉄砲兵が待っていた。


「甲隊、銃を渡せ!」


白鬼たちは馬上から撃ち終えた種子島を次々と黒鬼兵へ預ける。


「受け取れ!」


黒鬼兵から代わりに渡されたのは、すでに弾丸と火薬を込め終えた種子島だった。


霞がそれを受け取る。


自分たちは装填しない。

撃った銃は黒鬼へ渡し、装填済みの銃を受け取るだけだ。


黒鬼兵は受け取った種子島をすぐに装填し始めた。

火薬を入れ、弾丸を落とし、槊杖で突き固め、火皿へ口薬を入れる。

芋粥は鉄砲を大量に保有しており、白鬼が使う分にも十分な予備がある。

このような回し撃ちができるのも、芋粥ならではであろう。


その間にも――


ズドドドドン!!


戦場から丙隊の銃声が響いた。

霞が振り返る。

凛の隊が撃ち終え、こちらへ戻ってくるところだった。


ならば次は――


「甲隊!

 再び出るぞ!」


「はいっ!」


装填済みの種子島を手にした甲隊が、再び駆け出した。


*


内藤昌豊は、その一連の動きを見てようやく芋粥軍の狙いを完全に理解した。


「……そういうことか」


甲隊が撃つ。

退く頃には乙隊が迫っている。

乙隊が撃つ。

その間に丙隊が進む。


丙隊が撃つ頃には、最初の甲隊が再び装填済みの鉄砲を持って迫ってくる。

馬上で装填しているのではない。

装填そのものを、別の兵にやらせているのだ。


「なんという……」


内藤の顔から余裕が消えた。


「鉄砲兵と騎馬兵を、別々に使っておるのか」


普通の騎馬鉄砲であれば、一度撃てば距離を取り、そこで次弾を用意しなければならない。

だが、あの白装束の女騎馬隊は違う。

戻れば次の鉄砲が用意されている。


その間も、別の隊が撃つ。

休む暇を与えない。


しかも――


「雑兵を狙っておらぬ……!」


内藤が歯噛みした。

白鬼の銃撃を受けて倒れているのは、赤備えの中でも特に働きの目立つ者ばかりだった。


槍働きに優れた者や周囲をまとめる者が狙われる。

腕の立つ者ほど目立ち、目立つほど危険に晒される。

一人、二人を失った程度なら、赤備えは揺らがない。


だが、それを意図的に繰り返されれば話は違う。

武田の力の源が削られていく。


「おのれ……芋粥め。

 面妖な兵を作りおって!」


*


再び霞の甲隊が迫った。

鎧をつけていない白鬼は、鎧武者よりも軽い。

ゆえに馬も軽快に進む。


今度の標的は、最前列で二人の鬼兵を相手に槍を振るう赤備えだった。


「見つけたぞ!」


霞が叫ぶ。


「甲隊!

 あの大男を狙え!」


白鬼たちが一斉に種子島を向けた。

赤備えの武者もこちらに気づいた。


「また来たか、白装束の女狐どもめ!」


だが、徒歩では逃げ切れない。

白鬼は騎馬である。

霞たちは十分に距離を詰めると――


「放て!」


ズドドドドン!!


大男の具足へ二発が命中した。

一発が胴を貫き、身体が大きく揺れると、そのまま後ろへ倒れた。


「よし、退け!」


甲隊はすぐに反転した。

そして入れ替わるように――


「乙隊、続け!」


朧の隊が迫る。

さらに後方では、凛が丙隊を整えている。


「慌てるな!

 甲、乙、丙の順を崩すな!


 我らは一度に敵を倒す必要はない!

 一人ずつでよい!

 赤備えの強い奴から削っていけ!」


「はいっ!」


甲隊が戻り、乙隊が撃つ。

その間にも丙隊が迫る。


甲隊は黒鬼から次の銃を受け取る。

そして再び甲隊が走り出す。


三隊の白鬼騎馬鉄砲隊は、途切れることなく回り続けた。


それこそが、かつて秀政が南蛮人ジョアン・デ・アゼヴェードから教わった騎兵戦術を元に考案し、白鬼が長い訓練によって身につけた特殊戦術――

《廻天連砲陣》であった。


*


白鬼騎馬鉄砲隊の《廻天連砲陣》によって、赤備え徒歩隊は確実に削られていた。

だが――それでも赤備えは崩れなかった。


強者を狙い撃ちされ、何人もの兵が倒れている。

それでも残った兵が穴を埋め、槍を突き出し、鬼兵を押し返す。

内藤昌豊は白鬼の動きを警戒しながらも、中央の戦況を見続けていた。


そして――

赤備え徒歩隊が一点だけ、鬼兵の槍衾を押し込んだ。


「そこだ!」


内藤が軍配を振り上げる。


「法螺を吹け!

 旗を振れ!

 騎馬隊を抜けさせろ!」


ボォォォォ――ッ!!


法螺貝が鳴り響き、武田の旗が大きく振られた。


*


その合図を見た土屋昌恒が叫んだ。


「道が開いたぞ!

 中央を抜ける! 続けぇ!!」


「おおう!!」


赤備え騎馬が一斉に馬を蹴った。

狙うは、赤備え徒歩隊がこじ開けた中央の一点。


その進路上には――

ちょうど射撃を終え、引き揚げようとしていた凛の丙隊がいた。


凛が異変に気づいて振り返る。


「なっ――」


すでに遅い。

赤備え騎馬が猛烈な勢いで迫っていた。


「敵騎馬だ!

 退け! 早く退け!!」


赤備えの槍が、最後尾の白鬼へ突き出された。


「ぐっ……!」


白い狩衣が、一瞬にして赤く染まる。

一人が馬上から転げ落ちた。

さらにもう一人。


その横では、赤備えが馬を巧みに操りながら白鬼の側面へ回り込み、すれ違いざまに槍を突き入れる。


「きゃあっ!」


白鬼が馬から落ちた。

先ほどまで赤備え徒歩を一方的に狙い撃っていた《廻天連砲陣》が、一瞬にして崩れた。


徒歩の赤備えと違い、相手は武田が誇る騎馬の精鋭である。

馬上での戦いとなれば、その強さは桁が違った。


「くっ……!」


凛は種子島を捨てた。

代わりに槍を取る。


「早く退け、退け!

 《廻天連砲陣》は終いじゃ!

 お前たちは先に行け!!」


「ですが、凛様!」


「早く行け!!」


凛が馬首を返した。

元より凛は、鉄砲より槍を得意とする女武者である。

迫ってきた赤備えの槍を自らの槍で弾き、そのまま横薙ぎに打ち返す。


ガンッ!!


槍と槍が激しくぶつかった。


「ぬぅっ!」


赤備えの騎馬武者が思わず馬を退かせる。

だが、その横から別の赤備えが凛へ槍を突き出した。


凛は身を伏せてかわし、すぐさま槍を突き返す。


「舐めるな!」


赤備えもそれを受け流す。


一騎、また一騎と凛の横を駆け抜けていく。

白鬼も必死に退き、六人ほどが討ち取られたところで、ようやく凛は残った白鬼を後方へ逃がし、自らが赤備えとの間に立つことに成功した。


「来るなら私が相手だ!」


槍を構えた凛が赤備えの前に立ちはだかった。


だが――

土屋昌恒は凛を一瞥しただけだった。


「女子など放っておけ!

 我らの役目はこやつらと遊ぶことではない!


 道は開いた!

 中央を抜けるぞ!!」


「おおう!!」


赤備え騎馬が馬首を翻した。

凛へ向かっていた騎馬までもが戦いを切り上げ、一斉に中央へ向かって駆け出す。


「なっ……待て!」


凛が追おうとする。

だが、赤備えは速い。


赤い騎馬の群れは颯爽と戦場を駆け抜け、赤備え徒歩隊がこじ開けた穴へ次々と飛び込んでいった。


そして――

ついに最後の一騎が、鬼兵の防衛線を抜けた。


*


その光景を確認した内藤昌豊が、力強く軍配を振り下ろした。


「よし!

 騎馬は抜けたぞ!」


内藤はすぐさま赤備え徒歩隊へ向き直る。

ここから先は、勝つための戦ではない。

兵を生きて甲斐へ連れ帰るための戦である。


「これより撤退戦じゃ!


 赤備えの真の強さ――

 織田の奴らに見せてやれ!!」


「おおおおおおっ!!」


赤備えの鬨の声が、千代・松尾の戦場に響き渡った。

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― 新着の感想 ―
止まって戦場を見てるのに、騎馬隊を通す為に歩兵が道を空け開いた状態で背中に旗立て集団で来る騎馬隊見逃がすかな。初期から鉄砲避ける為に回避運動と本陣急襲して赤備えの馬は大分足使っているだろうに、更に重い…
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