↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十六章 織田家宿老編(東方遠征編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

301/318

第二百九十六話 一騎打ち

本陣左右に展開した鬼兵二百へ向けて、赤備え騎馬が槍を構えて突撃した。


最初の衝突で――

鬼兵の前列の一部は馬体に弾き飛ばされ、地面へ叩きつけられて絶命した。

逆に、鬼兵の槍衾に突っ込んだ赤備えの馬が腹を貫かれ、騎馬兵が前のめりに投げ出されて首から地面へ激突し、そのまま動かなくなる者もいた。


衝突は一瞬だったが、双方に確かな損害が出た。


その直後、槍と槍がぶつかり合う突き合いが始まる。


鬼兵は必死に槍を突き入れ、赤備え騎馬は馬を横へ跳ねさせて槍を避け、馬上から槍を振り下ろして鬼兵を薙ぎ倒す。

赤鬼兵の槍は確かに鋭かったが、まるで馬を自らの足のように扱う武田の赤備えは、それ以上の速さと鋭さで鬼兵を襲った。


左右の鬼兵二百は、赤備え騎馬五百弱の突撃を受け止め、激しい突き合いの中で多くが倒れた。


ここを抜かれれば負ける。

その気合だけで、赤鬼兵たちはこの劣勢を耐え続けた。


しかし鬼兵の奮戦は確かに赤備え騎馬の勢いを削ぎ、赤備え騎馬の大半はここで足止めを余儀なくされた。


それでも――槍衾をすり抜けた残りの各二百弱が、左右から本陣へ向けて突撃した。


その赤い奔流を迎え撃つのは、

村瀬新陰流を学ぶ赤鬼剣豪隊百。


村瀬が軍配代わりの刀を掲げ、門弟たちへ声を張り上げた。


「気合を入れよ!

 ここが“武”の見せ場ぞ!」


「おおう!!」


赤鬼剣豪隊が左右へ散開し、本陣前に刃の壁を築いた。


*


赤備え騎馬が突撃してくる。


馬の蹄が地を叩き、赤い具足が陽光を弾き、槍先が風を裂く。

その勢いは、まさに戦国最強の騎馬隊のそれだった。


だが――

赤鬼剣豪隊は怯まない。


村瀬新陰流の剣士が一歩踏み込み、馬の胸元へ斬り上げる。


「はっ!!」


村瀬新陰流で鍛え上げた一閃が、騎馬兵の胴を斜めに斬り裂いた。

馬が悲鳴を上げて倒れ、騎馬兵は血を噴きながら地へ転がる。


その一方で――

赤備え騎馬も黙ってはいない。

剣豪にとって、普段相手にする徒歩の槍とは違う、馬上からの“上段の連続突き”が襲いかかる。


「ぐっ……!」


剣豪の一人が槍を受けきれず、肩口から胸へかけて深々と刺し貫かれた。


血が噴き、剣士はその場に崩れ落ちる。


赤備え騎馬は馬を横へ跳ねさせ、剣豪の死角へ回り込み、槍を振り下ろして次の者を薙ぎ倒す。

剣豪隊も赤備え騎馬も、互いに一歩も引かぬ。


ここはまさに――

武の頂上同士が命を賭してぶつかる場所だった。


村瀬は叫ぶ。


「押し返せ!!

 赤備えに“鬼伊勢”の武を見せてやれ!!」


赤鬼剣豪隊はその声に応え、次々と赤備え騎馬へ斬りかかる。


赤備え騎馬は槍で迎え撃ち、馬を操り、剣士の懐へ突っ込んで槍を突き入れる。


剣豪の刃が赤備えの鎧を割り、赤備えの槍が剣豪の胸を貫く。


刃と槍、馬と人、技と技――すべてが交錯し、本陣前は瞬く間に修羅場と化した。


*


赤備え騎馬の突撃を左右で食い止めた赤鬼剣豪隊。

その中央――村瀬新陰流の宗家・村瀬兼良が、芋粥伊勢守秀政として立ちはだかる。


そこへ土屋昌恒が一直線に突撃してきた。

馬上で槍を構え、赤い具足を翻しながら、村瀬へ向けて一直線に駆ける。


「伊勢守、覚悟ぉぉぉ!!」


土屋の怒号が本陣前に響いた。

槍先が村瀬の胸元を狙って突き立てられる。


村瀬は一歩後ろへ跳び、紙一重でその突撃をかわした。


馬の風圧が頬を切り裂くほど近い。

だが村瀬の目は揺らがない。


「ふっ……」


村瀬は刀を構え、反撃として“一拍子の太刀” を放った。


相手が構えた瞬間、その拍子ごと断ち切る村瀬新陰流の奥義。

村瀬は渾身の一拍子の太刀を土屋へ叩き込む。


(よし、その首、取った!)


だが――

土屋は剛腕で槍を引き戻し、鉄巻きの柄で村瀬の太刀を払いのけた。


ガンッ!!


火花が散るほどの衝撃。

村瀬の太刀は弾かれ、逆に拍子が奪われる。


土屋はすぐさま反撃に転じ、急所を狙った三連突きを見舞う。


槍先が喉、胸、腹へと連続して襲いかかる。


村瀬は無駄な動きを一切せず、後退しながら、寸でのところで槍をかわし続けた。


「ほぉ……伊勢守。

 まさに“鬼伊勢”の名に相応しい。

 この槍をかわすか」


「ぬしこそ……

 あの“一拍子の太刀”を受け止めるとは、ただの武者ではないな。

 名を名乗れ!」


土屋は槍を構え直し、堂々と名乗った。


「それは失礼した。

 土屋昌恒――

 貴殿の首を獲る者である!」


村瀬は笑った。


「覚えたぞ、その名を!」


村瀬は馬の首へ向けて一閃を放つ。


だが土屋は馬を巧みに操り、刃を紙一重でかわした。


「馬の扱いも……なかなかやるようだな」


土屋は馬を止め、その背から軽やかに降り立った。


「誰か!馬を守れ。

 伊勢守の首を獲ったあと、逃げる手段がないのは困る」


赤備えの一騎が馬を預かり、土屋は両足をしっかりと地面に踏ん張った。


槍を突きつけ、村瀬と真正面から向き合う。


村瀬も刀を構えた。


赤い具足と黒い鎧が向かい合った。

周囲の兵も、二人の戦いへ目を向けた。


*


土屋と村瀬――二人は互いの間合いを測りながら、槍と刀をぶつけ合い、何十合もの打ち合いを繰り広げた。


槍が風を裂き、刀が火花を散らし、踏み込みと跳躍が交錯する。


土屋の槍は重く、それでいて速い。

村瀬の太刀はその剛撃を受け流し、鋭く懐へ入り込む。


互いの技は、ただの武者のそれではない。

槍の柄が刀を弾き、刀の軌跡が槍の穂先を逸らす。


土屋は馬上の勢いを失ってなお、地を踏みしめた剛腕で槍を操り、村瀬は相手の拍子を読んで太刀を合わせ続けた。


どちらが勝ってもおかしくない。

どちらが死んでもおかしくない。


その激しい打ち合いは、なおも続いた。


*


激戦の最中、それでも周囲の兵たちは時折、二人の一騎打ちへ目を奪われた。


土屋が槍を大きく払う。

村瀬が刀を滑らせて受ける。


今度は村瀬が踏み込んだ。

土屋は半身でかわす。


そこへ土屋の三連突き。

村瀬が寸でのところで身を捻る。


村瀬が一拍子の太刀を狙う。

土屋が鉄巻き柄で弾く。


互いの技が、互いの命を削り続ける。


二人とも汗を流し、傷からは血が滲んでいた。

呼吸も荒い。

それでも、槍と刀の応酬は止まらなかった。


*


だが――

その静寂を破る者が現れた。


背後から、赤備えの一騎が奇声を上げて割り込んだ。


「ぬおおおっ!!」


槍が村瀬の背へ突き出される。


村瀬は咄嗟に身を捻ったが――

完全には避けきれなかった。


槍は背中、肋骨の外側寄りから脇腹へ斜めに突き刺さる。


「ぐぅ……!」


槍が抜けると同時に、鮮血が村瀬の脇腹から噴き出した。


土屋が叫ぶ。


「な、何をするか!!」


刺した赤備えは冷静だった。


「土屋殿、仕合うているわけではありませぬ。

 ここは戦場。

 間もなく織田の増援が参りまする」


土屋は一瞬だけ悔しげに顔を歪めたが、すぐに戦場の現実を思い出した。


「そ、そうであった……。

 伊勢守、これも乱世の倣いよ。

 いくらでも卑怯と罵るがよい。

 我らが欲するは貴様の首よ。

 ――死ね!」


土屋が槍を突き出す。


村瀬は重傷ながらも身を捻り、致命の突きを紙一重で避けた。


だが次の瞬間――

土屋の槍が村瀬の肩口、その外側から上腕へ突き刺さる。


「うぬぅ!」


村瀬の腕が血に染まり、刀を握る手から力が抜ける。


「しぶとい!!」


土屋が怒号を上げたその時――

武田本陣から法螺貝が鳴り響いた。


ボォォォォ――ッ!!


土屋が振り返る。


「滝川が来たか?!

 内藤殿は大事ないか!」


その一瞬の隙を逃さず、赤鬼剣豪隊が身を挺して村瀬の前へ飛び込んだ。


「殿を守れ!!」


剣豪たちが村瀬を庇い、赤備え騎馬の槍を受け止める。


土屋は舌打ちした。


「くそ……首は無理か。

 だがその傷では長くはあるまい。

 これは我らの勝利ぞ。

 退け!」


土屋は預けていた馬へ走り、一息で鞍へ飛び乗った。


「左右の穴は塞がれておるやもしれん!

 虎穴に入らずんば虎子を得ずよ!

 中央を突っ切って抜けるぞ!!」


赤備え騎馬の生き残りが隊列を整え、芋粥本陣から退却していく。


村瀬は血を流しながら、その背を睨みつけた。


「ふふふ、勝利は我らの方じゃ」


荒い息を吐きながらそこまで言い切ると村瀬は地に倒れ伏した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これで村瀬殿も逝くとなると戦働きが期待できる武将が本当に足りない感じがしますね しかも鬼兵も結構損害受けているから今後戦方面ではどう立ち回るつもりなんだろう? 芋粥家の家臣団ってそれこそ信長の野望で…
岳父殿、浅野に続いて老臣がバタバタと…。 頼りになる年上重臣が減ると心許ない。
しつこく「鬼伊勢」連呼は善意なのだろうけど、ありがた迷惑この上ないのが笑えるやらむなしいやら。 やっと鬼備前から逃れられて、これから穏健派としてイメージを作ろうとしているのにね。そもそも現代人の意識が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。