↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十六章 織田家宿老編(東方遠征編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

299/323

第二百九十四話 内藤の揺さぶり

左右の馬防柵――

その両端へ、武田の国人衆・農兵が千ずつに分かれ、突撃した。


段丘の上から見れば、左右の斜面に黒い波が一気に押し寄せるようだった。


「来たぞ!左右だ!」


農兵たちは柵へ取り付き、杭を揺らし、縄を切り、命を捨てる覚悟で破壊にかかった。

鬼兵は農兵を次々と討ち取る。槍が胸を貫き、盾が叩き割られ、血が段丘の斜面を染める。


だが農兵は諦めない。

討たれながらも次々と後続が柵へ取り付き、破壊を続けた。


左右の柵は、徐々に軋み始める。


*


段丘の上から煙が上がり始める中、伝令が内藤昌豊の元へ駆け込んだ。


「敵左翼、右翼、共に半数の兵を、我ら赤備え徒歩隊への増援として中央へ向かわせておりました!

 ですが、赤備えが足を止めたことで陽動と判断。

 現在、慌てて増援部隊を両端へ戻しております!」


内藤は静かに頷いた。


「両端の柵を破壊せよ。多少の犠牲は厭わぬ。

 褒美ははずむと伝えよ。

 たとえ死したとしても、その家族に褒美をたんまり渡してやる。

 武田の勇を示せ!」


伝令は走り去り、農兵たちはさらに勢いを増して柵へ取り付いた。


鷺山は槍を振り上げ、怒号を飛ばす。


「むぅ、押し返せ!

 百歩譲って赤備えに押し負けるのは仕方ない。

 だが、農兵ごときに鬼兵が侮られるな!

 まもなく中央に派遣した兵が戻る。

 倍の兵で押し潰せ!」


時を同じくして長政も叫ぶ。


「騙された!だが、まだ我らの方が優勢ぞ!

 中央にやった兵がまもなく戻る!

 今、柵を崩されるわけにはいかん!

 赤鬼の意地を見せよ!」


鬼兵は農兵を圧倒していた。

だが農兵は諦めない。

討たれながらも、次々と詰め寄り、馬防柵の破壊に全力を尽くした。

左右の柵にいくつかの隙間が出来ていく。

もし、ここに赤備え騎馬が突撃してきた場合、突破されてしまうだろう。


*


その頃、中央では――

赤備え徒歩隊が突然、左右へ割れた。


その隙間から、赤備え騎馬が姿を現した。

赤い具足が陽光を反射し、騎馬の蹄音が地を震わせる。


すぐに左右の陣へ、小母衣衆が駆け、状況が共有された。

鷺山が目を見開き、叫んだ。


「ま、待て!

 隠れていた赤備えの騎馬どもは中央だ!

 このままでは中央を抜かれて、殿が危ない!

 戻れ!再び増援に向かえ!急げ!

 殿を守れ!」


中央から戻った青鬼千は、休む間もなく、再び中央へ向けて走り出した。


長政も同時に気づいた。


「まずいぞ!両端への攻撃こそ囮だ!

 敵の狙いはやはり中央だぞ!

 戻ってきた兵に伝えよ!

 急ぎ中央に戻り、義父上をお守りせよ!」


赤鬼千は息を整える間もなく、来た道を戻る。


*


中央の政親が目を見開いた。


「赤備え騎馬はあそこか!

 黒鬼鉄砲隊、構えよ。


 もし突撃してくるなら逆に好都合だ。

 青鬼が耐える間に至近にて鉄砲の餌食にしてやる」


そこへ小母衣衆が駆け付ける。


「申し上げます!

 まもなく、両翼より各八百余の増援が参ります!」


政親の顔が歪む。


(は?長政も利玄も、馬鹿か!)


政親は思わず主筋の長政まで心の中で馬鹿呼ばわりした。


「これ以上、踊らされてどうする!

 まだ中央に対して赤備え騎馬が突撃してくるとは限らん。


 両翼から赤備えが迫る可能性とて、まだ捨てきれないのだぞ!

 左右から本陣を挟撃される方がよほど悪いわ。


 ただただ、走り回らされて体力を奪われていれば、いざという時に戦えぬ!


 ここには黒鬼二千と私が居るのだ!

 仮に赤備え騎馬の狙いが中央であったとしても、そう簡単には崩れぬ!

 それを見てから動くべきであろう!

 焦る必要など皆無だ!


 小母衣衆!

 両軍の増援部隊へ伝えよ!


 中央はまだ援軍不要!

 その場に留まり、体を休め、次の指示を待て!」


怒りを露わにする政親に恐れを感じた小母衣衆は、慌てて両陣へ向けて駆けた。


政親が怒りを隠さず、敵中央を睨みつける。

その時、中央に姿を見せた赤備え騎馬に違和感を覚え、軍配を投げ捨てた。


「黒鬼兵!

 中央と左右に均等に分かれよ!


 敵は三方からくるぞ!」


政親が睨む中央の赤備え騎馬隊。


赤備え徒歩隊に囲まれて、よく見なければわからないが、馬の数が少ない。

おそらく前面に十騎ほど姿を見せてはいるが、その後ろに見えるのは赤備え徒歩隊が掲げる軍旗であろう。


政親は頭を抱えて、呟いた。


「敵の真の狙いは左右両端の砕けた馬防柵だ。

 そこからおよそ五百の赤備え騎馬隊が柵を越えて本陣を挟撃する。


 中央からは二千の赤備え徒歩隊だ。


 両翼の守備が七百程度であれば、鬼兵であれど抜かれるぞ」


政親は小母衣衆を三騎呼び寄せた。


「左右の増援部隊に伝えよ。

 敵騎馬隊が左右両端より馬防柵を越えて、本陣を狙う恐れがある。

 警戒を厳重に行い、槍衾で少しでも赤備えを止めよ!」


二騎の小母衣衆が分かれて駆け出した。


「……最悪だ。このこと、兄上にも伝えよ!」


三騎目の小母衣衆が本陣にも駆けた。


*


土屋昌恒は、赤備え騎馬隊を半分に分け、左右それぞれの馬防柵の端に近い林へ潜ませていた。

多くの農兵の犠牲によって、左右の馬防柵の両端はすでに大きく崩れ、穴がいくつも開いていた。


その穴は、赤備え騎馬が突入するために用意された“口”としては十分な広さだった。


*


中央から法螺貝が鳴り響く。


長政、鷺山、そして両端付近を守る鬼兵たちが、一斉に中央へ気を向けた。


「くっ……突撃が始まったか。

 増援部隊は間に合っただろうか……?」


鷺山は本陣の方向を見つめ、秀政の安否を案じた。


長政も同じだった。

赤備えの恐ろしさを目の当たりにし、秀政が中央突破される未来が脳裏をよぎる。


中央では兵が前進し始めた。

だが――騎馬隊は動かない。


弓隊の一部も槍に持ち替え、突撃部隊は千五百に膨らんでいた。


赤備え徒歩隊は竹盾を構えてゆっくりと、中央を守る青鬼五百に向けて迫った。

黒鬼鉄砲隊が槍衾を構える青鬼の頭上から鉄砲を構えた。


*


鷺山も長政も、その異変に気づく余裕はなかった。

中央に気を向けた、その一瞬の油断を、土屋昌恒は見逃さなかった。


「今だ!」


法螺貝が再び鳴り響く。


左右の林に潜んでいた赤備え騎馬隊――

各五百が、槍を構えて一斉に飛び出した。


*


左翼側の先頭に立つのは土屋昌恒。


槍を構え、馬を蹴り、赤い具足を翻しながら疾走する。


「行け!蹴散らせ!!」


赤備え騎馬隊が、崩れた馬防柵の穴へ一気に流れ込んだ。

武田農兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ散る。


鬼兵は慌てて槍衾を構えようとするが間に合わない。


赤備え騎馬隊が突入し、槍で突き、あるいは馬で轢き殺した。

鬼兵の叫びが段丘に響く。


赤備え騎馬隊は鬼兵へ次々と槍を突き入れ、芋粥勢が怯んだ隙を逃さず、一気にその場を駆け抜けた。


左右の柵は完全に破られ、赤備え騎馬隊は段丘の上へと雪崩れ込む。


「まずい!抜かれたぞ!!」


長政と鷺山が、ほぼ同じ瞬間に叫んだ。


左右の防衛線は破られ、赤備え騎馬が本陣へ向けて突進を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。