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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十六章 織田家宿老編(東方遠征編)

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第二百九十二話 それぞれの狙い

長政と鷺山が偵察から戻ってきた。

二人の鎧には山道の土がつき、息は少し荒かった。

秀政は本堂に地図を広げ、三人を迎えた。


「さて、長政、鷺山。地形を見てきたな?」


二人は同時に頷く。


秀政は地図の上に手を置き、軍議を始めた。


「内藤がどこに陣取るかを予想する。

 あるいは、こちらの思う場所へ引き込む。

 いずれにせよ、先回りして馬防柵を築く必要がある。

 各々策を述べよ」


長政が一歩前に出た。


「それでは私から。

 私は飯田城西――鼎(かなえ)周辺での決戦が望ましいかと。

 そこへ敵を誘い出します」


秀政が問う。


「理由は?」


長政は地図の西側を指した。


「現状、西街道は鬼兵が押さえました。

 そこを戦場にすれば補給路を完全に断ったまま戦えます。

 それに西は山が近く、敵の騎馬が動きにくい。

 赤鬼の本領は槍を用いた徒歩戦です。

 武田の赤備えを槍で押し返せるでしょう」


秀政は頷いた。


「うむ、一理ある。

 鷺山は?」


鷺山が前へ出る。


「飯田城南の上飯田から下久堅にかけてがよろしかろう」


秀政が問う。


「理由を申せ」


鷺山は胸を張った。


「は!南の商流を押さえた状態で戦えば、武田の兵糧を断てます。

 武田は長くは戦えなくなるでしょう。

 南は谷が多く、伏兵を置きやすい。

 此度、待ちの戦術をとるならそれは利点です。

 谷間で赤備え騎馬を横撃して倒します」


秀政は頷いた。


「ふむ、これも一理ある。

 だが、俺は違う策を思っている。

 政親、お前はどうだ?」


政親は一歩進み、地図の北側を指した。


「はい、私も違う策でした。

 飯田城北東、松尾から千代へ通じる一帯です」


秀政は頷き、長政と鷺山へ視線を向けた。


「うむ。では長政、鷺山の策に対して申すことがあるか?」


政親は答えた。


「はい。まず長政殿の策ですが……」


長政が身構える。


政親は地図の西側を指しながら続けた。


「山が近すぎて、赤備え騎馬は封じられますが、赤備え徒歩の槍襖が最大限に活きるでしょう。

 赤鬼は確かに槍さばきが得意ですが、それは武芸の槍。

 赤備えは戦の槍です。

 戦に戦を重ねて練り上げた赤備えの方に、有利に働く可能性があります」


長政は眉をひそめた。


「鬼兵を削る方向に働くと?」


政親は頷く。


「左様。

 それにあの地は馬防柵を十分に展開できませぬ。

 赤備えの馬術をもってすれば、狭い道でも武田は突き進んで参りましょう。

 逆に黒鬼騎馬の機動力を削ります」


鷺山が息を呑む。

政親がさらに続けようとすると、秀政が手を上げて制した。


「長政の策については分かった。

 鷺山の策にも何かあるか?」


政親は頷いた。


「はい。利玄の策ですが――」


政親は地図の南側へ指を滑らせた。


「谷が多く、伏兵と申しますが、この地は武田の地。

 内藤は地の利を知る国人衆を多く連れています。

 逆に我らが伏兵に苦しめられましょう」


鷺山が眉をひそめる。


「た、確かに……」


政親は続けた。


「谷が多すぎて赤備え騎馬は確かに動きにくい。

 しかし、赤備え弓隊が高所を取れば、鬼兵が一方的に削られる恐れもあります。

 そして南もまた、馬防柵を展開しにくい地形です」


秀政が頷く。

政親はさらに言葉を重ねた。


「武田はやはり騎馬です。

 そして生半可な策では内藤の赤備え騎馬には通じないでしょう。

 こういう時には馬防柵のような小道具の方が効くものです」


鷺山は悔しそうに唸った。


「くっ……またしても俺では思慮が足らぬか」


秀政は笑いながら続けた。


「いや、長政や鷺山の策も悪くはない。

 だが――俺も千代・松尾を考えていた」


政親が頷く。

秀政は地図の北側を指した。


「平地と段丘が混ざる地形で、赤備え騎馬の突撃力を馬防柵で弱められる。

 黒鬼鉄砲や白鬼騎馬鉄砲隊が撃ち逃げできる広さもある」


鷺山と長政が地図を覗き込む。

秀政は続けた。


「内藤は押し引きを得意とする戦上手だ。

 政親が言う通り、そういう輩を相手にする場合は、馬防柵が地味に効く。

 そして一番の決め手は――」


秀政は指で北街道をなぞった。


「滝川殿が美濃から刺す場合に、最も挟撃しやすい」


政親が頷いた。


「御意」


秀政は地図を閉じ、三人を見渡した。


「戦場は――千代・松尾とする。


 それまで近辺を荒らし回れ。

 小細工を考える余裕を与えるな。


 すぐに食いついてくるように仕向けよ。

 あの地に誘い込むぞ」


「「は!」」


*


一方その頃――

南信濃へ向けて進軍する武田勢。

赤備えの旗が風を裂き、槍先が陽光を反射する。


そんな中、土屋昌恒が馬を寄せ、内藤昌豊の横へ並んだ。


「内藤様、芋粥勢が千代・松尾に陣取りました。

 馬防柵を築き始めており、あの地を決戦場に選んだようです」


内藤は前方の山並みを見据えたまま答えた。


「そうか……やはり千代・松尾か。

 芋粥はよく見ておる」


土屋が続ける。


「馬防柵は赤備え騎馬の勢いを大きく削ります」


内藤は頷いた。


「うむ。それに織田は鉄砲を多く持つと聞く。

 あの地なら撃ちながら移動されるやもしれん。

 厄介だ」


内藤の表情が険しくなった。


「芋粥秀政……奴は赤備えの突撃だけを恐れておるのではない。

 わしの“揺らし”――

 兵を縦横無尽に動かし、敵の陣形を崩して隙を作る。

 その我が采配をも殺すための地形を選んだのだ」


土屋は槍を握り直しながら言う。


「馬防柵を壊しながらの突撃となれば、騎馬隊は十分な力を出し切れませぬ」


内藤は首を横に振った。


「昌恒、柵を壊すなど下策だ。

 鉄砲の餌食になるぞ」


土屋は息を呑む。

内藤は地図を指でなぞりながら続けた。


「揺らす方向を変える。

 前ではなく、左右だ」


内藤は土屋に向けて、自らの考えを事細かく伝えた。


「……なるほど。

 これならば奴らの裏もかけましょう」


内藤は頷いた。


「鉄砲はわしがなんとかする。

 此度の勝ち負けは――昌恒、お前が如何に赤備えを上手く扱うかにかかっている」


土屋は胸を張り、力強く答えた。


「お任せください。

 武田の意地を見せてやります」


内藤は短く「うむ」と返した。

赤備えはそのまま南信濃へ向けて進軍を続けた。

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― 新着の感想 ―
内藤さん、土屋さん、金山衆の土竜攻めで、馬防柵の裏をとり、調子に乗った芋粥二人の裏をかいて、吠え面みせてください 願望はさておき、いよいよ、赤備えの戦、楽しみにしております!
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