脇巻之五 芋粥二十四傑
飯田へ向かう道中。
芋粥軍六千は信濃へ向けて進軍を続け、その夜は山裾の寺――「松雲寺」にて野営することとなった。
兵は野営地で焚き火を囲み、将たちは寺の本堂に陣を敷く。
秀政と政親は、灯火の下で地図を広げていた。
灯火が信濃の山々を描いた地図に影を落とし、二人の顔を赤く照らしている。
そこへ鷺山が入ってきた。
二人が地図に夢中なのを見て何も言わずに近くへ座り、同じように地図を眺め始める。
しばらくして、鷺山が呟いた。
「敵は……内藤昌豊ですな」
秀政が眉をひそめる。
「ん?鷺山、いつから居た?」
鷺山が目を見開く。
「な!?そんなに集中して地図を見ておられたのですか」
秀政は笑った。
「うむ。敵は武田四天王にして、武田二十四将にも名を連ねる名将だ」
鷺山は興味深そうに地図を覗き込みながら言った。
「いいですね、四天王。
殿、芋粥四天王も決めませぬか?」
「ん?」
秀政が首を傾げる。
その横で政親が言った。
「利玄。
お前、自分が四天王に含まれると思っているようだが違うぞ?」
鷺山が振り向く。
「何だと?」
政親は指を折りながら言った。
「我が父、千種政成。
そして姉、芋粥悠。
今は亡き軍の要、浅野清隆殿。
そして私だ」
鷺山が慌てて手を振る。
「いや、待て待て」
政親は涼しい顔で続ける。
「不服か?
お前、この四人よりも自分の方が芋粥家に貢献していると?」
鷺山は口をつぐみ、
しばらく考えてから言った。
「むぅ……御台様は女子にございます」
政親は即答した。
「姉上は女子であるが、この芋粥家においてなくてはならぬと思うが?」
秀政が笑いながら言う。
「ふふふ、まぁそうだな。
鷺山、諦めろ」
鷺山は悔しそうに唸った。
「むぅ……では芋粥二十四将も定めましょうぞ!」
秀政は肩をすくめる。
「それなら、お前も含まれそうだな」
鷺山は身を乗り出した。
「殿は誰が二十四将だと思いますか?」
秀政は少し考え、笑いながら呟いた。
「武田と被るのは癪だな。
“芋粥二十四傑”としよう」
鷺山と政親が同時に頷く。
秀政は指を折りながら言った。
「千種政成。
芋粥悠。
浅野清隆。
千種政親。
この四天王は外せんな」
政親が静かに「はい」と答える。
秀政は続けた。
「芋粥長政。
鷺山利玄」
鷺山が嬉しそうに声を上げる。
「来た来たっ!俺も上位に含まれますな。
若も含めるのですね?」
政親が笑う。
「まぁ、赤鬼将でもあらせられるから、当然か」
秀政はさらに指を折る。
「芋粥明」
政親が頷く。
「おぉ、確かに。
姉上も芋粥の英傑の一人であるなら、明姫様もですな」
秀政は続けた。
「村瀬兼良。
井口長実。
ここも外せぬな」
鷺山が深く頷く。
「異論はござらぬ」
秀政はさらに続けた。
「そうじゃ、こやつらもだ。
泉川清允。
荒木重直。
南條利昌。
木曾与英」
政親が笑う。
「確かに。芋粥を語るには、政を司るこの者らは外せませぬな」
秀政は、ふと思い出したように言った。
「芋粥家を絢爛に飾るなら、こいつらも外せぬ。
綾芽。
凛。
霞。
朧。
雫」
鷺山が即座に頷いた。
「はい。女人騎馬鉄砲隊など、日ノ本広しといえど芋粥以外には居りますまい。
それに、強い!」
政親が横目で鷺山を見る。
「そうだな。利玄が尻に敷かれているくらいだ」
鷺山が跳ねるように振り向く。
「敷かれておらぬわ!」
秀政は笑いながら指を折った。
「これで十八人だな。
あぁ、あいつらが居たな。
水軍の双璧じゃ。
九鬼嘉隆。
白子潮勝」
政親が深く頷く。
「そうですね。水軍も芋粥を支える大きな柱です」
秀政はにやりと笑った。
「そしてあと四人は……あやつらだ。
誰かわかるか?」
政親は腕を組んだ。
「他に芋粥二十四傑へ名を連ねる者がおりましたかな……?」
鷺山も首を傾げる。
「誰じゃろう?」
秀政は笑った。
「千種屋松之助。
千種屋松之丞。
千種屋蘭」
政親が即座に頷く。
「確かに確かに。
千種屋なくして芋粥はありませぬ」
鷺山も納得したように言う。
「妥当ですな。
もはや“二十四将”とは呼べませぬが。
いや、“二十四傑”だからこそ、これもありなのか……」
秀政は最後の一人を告げた。
「最後はこいつだな。
ははは……ロレンソだ」
政親が吹き出す。
「はは……異色な芋粥らしい。
二十四傑に南蛮商人まで含めますか。
いや、面白い」
鷺山も笑いながら言った。
「確かに、あやつなくして今の芋粥はございませぬな」
秀政が満足そうに話を締めた。
「考え始めると面白いものだな」
秀政は笑いながら、心の中で呟く。
(いや、マジで深夜のノリでこういうのを考えるの、楽しいな。
後世、ゲームでこの異名が出てきたら思わず吹きだすぞ。
くくく、もっと考えるか。
おっさん三人が見事に中二病を発症しておるわ!)
秀政は再び指を折りながら言った。
「四天王があの四人であるならば――
この七人、浅野、政親、鷺山、村瀬、長政、井口、綾芽が“芋粥武威七柱”だ」
鷺山が目を輝かせる。
「おぉ!!」
政親も乗ってきた。
「ならば“芋粥治世八柱”はこの八人ですな?
父上、姉上、私、明姫様、泉川、荒木、南條、木曾」
鷺山がすかさず突っ込む。
「自ら身内と自身を八柱に連ねるあたり、お前は本当に性根が腐っておるのう?
いや、褒め言葉じゃ」
政親が即座に返す。
「黙れ!」
秀政は笑いながら続けた。
「ははは。“芋粥海威双璧”が九鬼と白子だな」
政親も笑う。
「はい。“芋粥商略四天王”が、兄上、松之丞、蘭姫様、ロレンソですね」
秀政は腹を抱えて笑った。
「確かにそうじゃ!
はははは!」
鷺山も楽しそうだった。
「おい、松!ほとんどが千種一派ではないか!
俺をもっと入れろ!
いや、待て。そうじゃ、綾芽じゃ!
芋粥五華が……」
松雲寺の本堂に、三人の笑い声が響く。
焚き火の明かりが障子越しに揺れた。
*
その様子を、少し離れた廊下の陰から見つめる二人の影があった。
明が呆れたように小声で言う。
「凛、どうして殿方はあんなくだらない話であそこまで盛り上がれるんでしょうね」
凛は口元を押さえて笑った。
「はは。そうですね。男とはあのような生き物です。
ですが、あれを可愛いと思えるようになれば、夫婦仲はさらに良くなりますよ」
明はため息をつきながらも、どこか楽しそうだった。
「はぁ……。理解できるように努力します」
松雲寺の夜は更けていく。
それでも本堂では、三人の異名談義がまだまだ続いていた。
なお余談であるが、この夜の議論は後世に伝えられ、やがて『芋粥二十四傑記』という伊勢芋粥家の公式史書の一つとしてまとめられることになる。
そして本当にゲームにまで登場することになるとは、この時の秀政は知るよしもない。




