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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十六章 織田家宿老編(東方遠征編)

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第二百八十五話 秀文の嫁

天正九年一月三日。

安土城・大広間。


新年の冷気が張り詰める中、織田家の重臣たちが静かに座していた。


信忠、柴田勝家、丹羽長秀、明智光秀、羽柴秀吉、滝川一益――

そして芋粥秀政。


例年と変わらぬ顔ぶれである。

ただ一つ、決定的な違いを除いて。


佐久間信盛の席が、空いていた。


その空白は、広間の空気をわずかに沈ませていた。

誰も口には出さぬが、

「織田家は新しい段階へ入った」

という事実を、全員が理解していた。


やがて襖が静かに開き、織田信長が入室した。


その瞬間、広間の空気が一変する。

諸将は一斉にひれ伏した。


「ははぁ――!」


信長は上座へ進み、扇を手に取る。

ゆっくりと座り、諸将を鋭く見渡した。


そして、年始の言葉を発した。


「皆、よく集まった。


 まずは――去年の総括を述べる」


広間が静まり返る。

信長は扇を軽く開き、語り始めた。


「まず中国よ――羽柴筑前守秀吉」


秀吉が膝を正す。


「播磨一国を完全に押さえた。

 姫路・三木・英賀、いずれも揺るがぬ。


 去年申し付けた役目を、見事に果たした働きである。


 今年は美作、備前、備中へ進め。

 毛利の背骨を折るのは、そなたの役目よ」


秀吉は深く頭を下げた。


信長の視線が秀政と光秀へ向く。


「四国は――伊勢守と日向守の働きが大きい。

 伊勢守が長宗我部を武力で追い詰め、日向守が和睦へ導いた。


 これにより長宗我部は織田へ靡き、毛利は四国との連携を完全に失った」


光秀は静かに礼をし、秀政は背筋を伸ばした。


「そして――本願寺よ」


信長の声がわずかに低くなる。


「十年に及ぶ戦も、日向守と伊勢守の働きによって終わった。

 長宗我部がこちらへ靡いたことで、本願寺は孤立し、ついに石山を明け渡した」


広間に重い沈黙が落ちる。


「この戦の終結は、織田が天下へ向かう道を大きく開いたと言える。

 両名とも大儀であった」


再び明智と芋粥が深く頭を下げた。


信長は扇を軽く開き、日向守へ鋭い視線を向けた。


「日向守」


光秀が膝を正す。


「本願寺の後始末を急げ。

 石山の跡地を整え、堺・大坂の治安を揺るがせるな。


 近畿の内政もそなたの役目よ。

 年貢の取り立てを滞らせず、街道を整え、軍勢の通行を妨げるな」


光秀は静かに頭を下げた。


「ははっ。」


信長は扇を閉じ、最後の指示を与える。


「春には馬揃えを行え。

 兵の規律を整えたことを天下に知らしめよ」


光秀は深く礼をした。


「御意」


信長は柴田勝家と丹羽長秀へ視線を向けた。


「北陸は――柴田、丹羽の両名が能登を固め、三湊を押さえた。

 これでようやく、越中から上杉へ圧力をかけられる。

 今年は越中を揺らし、上杉の息を奪え」


二人は深く頭を下げた。


最後に信忠と滝川一益へ視線が向く。


「武田はまだ健在よ。


 だが信忠、一益が信濃へ侵攻し、国境線を揺さぶっておる。

 勝頼は強い。

 だが国力は織田に及ばぬ。

 揺らし続ければ、いずれ折れる」


信忠と一益は静かに頷いた。


「伊勢守」


信長に視線を向けられ、秀政は背筋を伸ばす。


「徳川殿の領を通り、南信濃へ入れ。

 飯田、伊那――武田の補給線を断ち、村々を揺らせ。


 勝頼の足腰を折るのは、そなたの役目よ。」


秀政は深く頭を下げた。


「ははっ……!」


信長は大広間を見渡した。


「去年――天正八年は、織田が四方を固めた年である。


 中国、四国、北陸、信濃。

 いずれも“攻勢の形”が整った」


そして、ゆっくりと言い放った。


「今年――天正九年は、天下へ向けて動き出す年だ」


*


信長が立ち上がり、退室しようとした。

その瞬間、ふと秀政の方へ視線を向ける。


「伊勢守、話がある。ついてまいれ」


秀政は慌てて膝を正した。


「はは!」


信長の後を追い、奥の間へ向かう。

襖を開けると、そこには既に三介信雄が座していた。


信長が上座に腰を下ろし、秀政は三介の隣に控え、深く頭を下げた。


静寂が落ちる。

秀政は恐る恐る口を開いた。


「殿……お話とは、いかなることでございましょうか?」


信長は扇を軽く開き、秀政を見た。


「芋。昨年末、おぬしの嫡男・松丸を元服させたそうだな」


秀政は背筋を伸ばす。


「はい。芋粥弥次郎秀文と名を授けました」


「秀文か。良き名だ」


秀政は胸の奥がざわつくのを感じた。


(ん……こ、これはどういう状況だ?)


信長は続けた。


「嫡男を元服させたことを聞いた三介が、おぬしに話があるそうだ」


「三介様が……?」


三介信雄が満面の笑みで身を乗り出した。


「秀政殿!お久しゅうござる!息災だったか?」


「はい、三介様もご健勝のご様子」


三介は嬉しそうに頷いた。


「いや、此度、父上に仲介いただいてな。秀政殿に頼みたいことがある」


秀政は姿勢を正した。


「何にございましょう?」


三介は少し照れたように笑い、言った。


「我が娘、燈(あかり)を――秀文殿に嫁がせたいのです」


秀政は一瞬、呼吸を忘れた。


「ほぉ、燈様を秀文の……は、はぁぁっ!?」


三介は真剣な眼差しで続けた。


「秀政殿とは今後も縁を深めたい。

 我が娘はまだ四つじゃ。

 ゆえに、まずは婚約という形になる」


信長が静かに口を開く。


「三介がどうしてもというのだ。

 芋、秀文に相手が決まっておるのか?」


秀政は慌てて首を振った。


「い、いえ!三介様の姫君を頂けるのであれば、これほど名誉なことはございませぬ!」


しかし心の中では嵐が吹き荒れていた。


(待て待て待て、どういうことだ?

 頭が回らんぞ……!

 もし小牧長久手の戦が起きた場合、ここで三介と縁を深めたらどうなる?

 家康と共に秀吉を打ち倒すことになるのか?

 いやいや、本能寺の変すら起きるかわからん。

 織田家の一門になるなら、これは大きい……!

 問題は三介の子であることだが……いや、待て。信長公の才が隔世遺伝することもありうる!

 芋粥、千種、織田の血を引く子……

 それは、もしかすると凄いことなのか?)


信長が秀政を見据えた。


「芋、どうする?返事を致せ」


秀政は深く頭を下げた。


「は!有難き幸せにございます!」


信長は満足げに頷いた。


「そうか。三介、良かったな。後は好きにいたせ」


三介は嬉しそうに頭を下げた。


「はは、父上。ありがとうございました」


秀政は震える心を必死に抑えた。


(秀文の嫁が……信長公の孫娘――!?)


その衝撃は、雷のように秀政の胸を打った。

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― 新着の感想 ―
長政本人は譲る気だし現状子供いないからこのままなら秀文が継ぐのが良さそう 丹波も信長直々に孫娘嫁がせた相手に文句とか言えないだろうしな
お家騒動待ったなし ただ鈴鹿芋粥家譜ってあるし他にも〇〇芋粥家譜として分派する? 今後の展開を楽しみにしています
血筋は信忠と同腹三介の娘、直系であり三法師に1番近い従兄弟になるわけですね またまた芋粥の跡目争いに血筋として嵐がおきそうですね
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