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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十五章 織田家宿老編(本願寺決着編)

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第二百七十一話 四国上陸

時が遡り、三月末、淡路島。

長宗我部元親より譲られた洲本城を受け取るために進む軍勢がある。

関盛信だ。


洲本城の石垣が夕陽を受けて赤く染まる頃、関盛信は新兵五百を率いて静かに城へ入った。

老将らしい慎重さで城門を閉じると、まずは水の手を確かめ、兵舎の配置を見直し、土塁の補修を命じた。


「洲本は要衝じゃ。まずは守りを固めねばならん」


盛信はそう言いながら、同時に淡路南部の街道整備を始めた。

洲本から由良湊へ、さらに福良湊へ続く道を、荷車が通れるように広げ、橋を補修し、湊の倉庫を増築する。

村人には荷役の訓練まで施した。


盛信の腹心の辻嘉右エ門が近づいて不思議そうに問いかけた。


「殿、芋粥様からは洲本城の守りを任されましたが、四国遠征は命じられておりませぬが?」


「ふっ。その通りだ。この整備は命じられてはおらぬ。

 儂の一存よ」


「何ゆえに?」


「実際の四国攻めは長政殿、利玄殿が小松島から揚がる。

 だが、儂がここで道を整備したら長宗我部はどう考えると思う?」


辻は少し考えこんでから、はっきりと答えた。


「この洲本を拠点として、芋粥軍は四国へ攻め入ると考える」


「そうじゃ、由良湊から勝浦湊へ上陸すると踏むだろう。

 いや、そうするつもりだと、整備する人夫どもにあらかじめ流しておいても良いな」


「なるほど……そうすると長宗我部は兵を勝浦へ寄せ、小松島には上陸しやすくなる」


そこで盛信は一度苦笑した後で、辻に向けて語り掛けた。


「この策の味噌はな。

 儂が洲本城代であり、整備も儂が行わせていることにある」


辻は意図が分からずに問い返した。


「味噌ですか?どういう意味でしょう?」


「儂は元親にしてみたら東海の地侍にしか見えんだろう。

 名も知らぬ小物と映るだろうな。

 もし、これが芋粥殿や千種殿が行っていれば、元親も策を警戒するだろう。

 だが、儂の場合は、その額面通り受け取るというわけじゃ。


 儂とてこの歳まで戦場を駆け抜けてきたのだ。

 それくらいの知恵は回る」


辻が笑顔で返した。


「殿。四国の覇者とやらを、我ら“地侍”が出し抜いてやりましょうぞ」


*

一方、土佐、四月上旬。


長宗我部元親は洲本の動きを注視していた。

早馬からの知らせを受けては、状況を組み立てていく。


元親は地図を広げ、洲本から由良湊、そして勝浦湊へ至る海路を指でなぞった。


「洲本の芋粥が道を整えゆう……。

 ほいたら芋粥は、洲本から由良へ抜けて、勝浦へ兵を流す気じゃろう。

 道が整い次第、一万規模で攻め寄せてくる。

 勝浦の周りは、今のうちに固めちょかにゃいかんの」


元親は常備兵を勝浦へ集め、北東の海岸線を厚く守らせた。


*


岸和田では、長政と鷺山が九鬼水軍と合流した。

兵の乗船訓練が続き、松之丞と蘭は海城建設の資材集めに、そして明は遠征のための、兵糧など兵站整備に奔走していた。


そして、四月中旬。


岸和田の海風はまだ冷たかったが、九鬼水軍の黒い船体が並び、出航準備は着々と行われていた。


「長政様、兵糧の積み込みは終わりました!」


明が声を張り上げた。

その背後では松之丞と蘭が商人たちと交渉し、海城建設の資材を次々と運び込ませていた。


「松之丞、材木は足りるか?」


「はい!堺の千種屋支店からの荷も届きました。

 海城の骨組みなら、すぐにでも組めます!」


蘭も胸を張る。


「万兄、石灰と縄、それに柵材も揃いました!

 あとは現地で土塁を固め、柵を立てれば、まずは守れる形になります!」


長政は二人の働きに満足げに頷いた。


「心強いぞ。

 ……あとは、義父上の策を果たすだけだ」


鷺山が近づき、海図を広げた。


「若。殿のご指示は『海路で小松島を突け』という一点のみ。

 洲本は関殿が守っておる。

 我らは我らの判断で動けまする」


長政は海図を覗き込み、静かに息を吐いた。


「……元親は洲本に縛られておる。

 忍びによると勝浦に兵を集めているそうだ。

 義父上の狙い通りだ。


 ならば海から小松島に渡り、長宗我部勢が勝浦から小松島に移動する間に簡易の陣を張って守りを固める。

 そこで松之丞殿が築城を行う」


鷺山は口元を吊り上げた。


「若らしい、良き判断です。

 しかし、関殿も老獪な方ですね。

 洲本で道を整えてくださったおかげで、元親はおびき寄せられて勝浦に釘付け。

 小松島は手薄でしょう」


長政は頷き、海を見つめた。

紀伊水道の向こうに、まだ見ぬ四国の影が揺れている。


「鷺山殿、出るぞ。

 九鬼水軍とともに紀伊水道を一気に渡る。

 狙いは――小松島だ」


鷺山は力強く答えた。


「おう。我らも功を挙げようぞ!」


*


九鬼水軍の黒い船団が岸和田を静かに離れた。

海面を切り裂くように進む船の上で、長政は甲板に立ち、風を受けながら前方を見据えた。


「……四国の地に、芋粥の旗を立てる」


鷺山が隣で頷く。


「まずは上陸地点の確保。

 次に仮陣の構築。

 そして海城の建設。

 長宗我部が勝浦から急行してくる前に、守りを固めねばなりませぬ」


長政は静かに笑った。


「赤鬼と青鬼がいれば十分だ。

 簡易の柵と土塁を築けば、長宗我部軍とて、そう容易には突破できぬ。

 勝浦から急行してくる頃には、海城の骨組みも立っているだろう」


鷺山は海風に髪を揺らしながら言った。


「若。

 この戦は、殿の策と、関殿の働きと、我らの判断と、鬼兵の力――

 すべてが噛み合っておりまする」


長政は前方の水平線を見つめた。


「ならば勝つだけだ」


船団は紀伊水道を越え、阿波の海へと入っていく。

その先にある小松島は、まだ静かに海風を受けていた。


だが――その静けさは、まもなく破られる。

芋粥軍四千が、四国の地へ踏み込もうとしていた。


*


土佐・岡豊城。

四月中旬のある朝、長宗我部元親のもとへ早馬が駆け込んだ。


「殿――小松島に芋粥軍、上陸ッ!

 黒き船団が海より押し寄せ、鬼兵が陣を敷いちょりまする!」


元親は地図の上で指を止めた。

洲本から由良、勝浦へ至る海路をなぞっていたその指が、ぴたりと止まる。


「……小松島じゃと?」


早馬は息を荒げながら続けた。


「はっ!

 勝浦には敵影なし。

 芋粥軍は淡路を通らず、海路で一気に小松島へ……!」


元親の眉が跳ね上がった。


「馬鹿な……洲本は見せかけじゃったがか?!」


そこへ、勝浦を守っていた親泰からの報告が届く。


『兄者へ申す。

 小松島に敵、上陸仕り候。

 故に勝浦より急行仕るべく候。』


元親は書状を握りしめ、立ち上がった。


「待て、親泰!

 勝浦を空にするな!

 それこそ罠かもしれんぞ!

 まずは見定めよ。早計に動くな!」


側近たちがざわめいた。


「殿、いかがなさりまする!

 勝浦を守るべきか、小松島へ向かうべきか……!」


元親は地図を睨みつけた。

洲本の道整備――由良湊――勝浦。

すべてが「芋粥はここへ来る」と示していた。


だが現実は違った。


「……芋粥は一筋縄ではいかん奴じゃ。裏の裏かもしれん。

 小松島と見せかけて、勝浦狙いの可能性も捨てきれん。

 勝浦と小松島に兵を分けて備えちょけ。


 小松島は親泰に任す。

 久武親直は勝浦を守れ!」


「はっ!」


久武が返事をしてすぐに退室し、出陣の準備に取り掛かった。

元親は歯噛みした。


「勝浦を空にすれば、そこを突かれる。

 じゃが小松島を放置すれば、拠点を築かれる……!」


側近が震える声で言った。


「殿……いずれが本狙いでございましょうか……?」


元親は拳を握りしめた。


「わからんき。

 ……くそっ。

 芋粥め。早急に探りを入れろ。

 誤報にまどわされるな!」


親泰勢は勝浦防衛に残す兵と、小松島へ向かう兵の振り分けに追われ、さらに時間を取られた。

その頃、小松島では鬼兵が仮陣を固め、海城の骨組みが立ち始めていた。


長宗我部軍は――

勝浦と小松島の二つの判断の狭間で、完全に混乱していた。

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― 新着の感想 ―
長宗我部元親劣化
斉攻略で韓信と酈食其(れきしょくき)みたいに上(劉邦)からは開戦指示、方や和睦とどっちやねん!って現場が混乱することやってるなー、長宗我部も和議したいのに芋粥家は攻略指示のままやからグダグダになり和解…
この策で右往左往したら、信長様から「鳥なき島の蝙蝠」と揶揄されるよ! 畿内での威風堂々とした憎たらしい程の強さは何処に!
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