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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十五章 織田家宿老編(本願寺決着編)

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第二百六十六話 明智、奪う決意

摂津・明智陣。

夕刻の薄明かりが陣幕を透かし、光秀は無言で軍扇を握っていた。

その表情はいつもの冷静さを保ちながらも、どこか沈んでいた。


秀満が控えめに近づき、膝をついた。


「殿……芋粥殿が本願寺攻めへ参陣されると聞きました」


光秀は軍扇を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。


「うむ。上様が正式に許された。

 雷神の噂を背負っておる今、摂津では芋粥が最も兵の心を揺らす」


秀満は光秀の横顔を見つめ、静かに言った。


「殿は……思うところがあるように見えます」


光秀はしばし黙し、やがて口を開いた。


「……ある。

 思うところしかないと言ってもよい」


秀満は黙って待った。

光秀は軍扇を置き、秀満へ向き直る。


「まず――長宗我部元親よ」


光秀の声は低く、しかし怒りではなく、深い苦味を含んでいた。


「芋粥は、あれほどしてやられた元親を……わざと逃がした。

 わしは摂津であの男に散々振り回されたというのに、だ」


秀満は静かに頷いた。


「殿は元親の策に翻弄されましたからな」


光秀は苦笑した。


「翻弄どころではない。

 わしの陣形を読み、兵の心の揺らぎを突き、雷神の噂を逆手に取って本願寺と連携し……

 あの男は戦場で一時、“わしの上”に立った」


光秀の拳がわずかに震えた。


「それを芋粥は――

 “飼い犬にする”と言った。

 わざと逃がし、四国の番犬に仕立てると」


光秀はそこで一度言葉を切り、さらに続けた。


「そして――巨砲よ」


秀満の眉がわずかに動いた。


「殿は、あの件で……」


光秀は苦笑した。


「芋粥の巨砲管理の抜けが、今回の畿内の争乱を招いた。

 元親が洲本を落とし、岸和田を襲い、雷神の箱を奪い……

 わしも佐久間殿も、その後始末で散々苦労した」


秀満は静かに頷いた。


「殿も被害を受けましたからな」


光秀は目を閉じた。


「それなのに――上様は芋粥を罰せられなんだ。

 雷神の演出が気に入ったからだ」


「理不尽……ですな」


光秀は軍扇を握り直した。


「秀満……

 わしは雷神の幻術の仕組みを芋粥から聞いた」


秀満は静かに頷いた。


「殿は……驚かれたのですね」


光秀は苦笑した。


「驚いたどころではない。

 戦慄した。

 あれほどの幻術を、あの男は“思いついた”のだ」


光秀は続けた。


「凧を空色に染め、太鼓を段階的に鳴らし、煙幕の中で火薬樽を仕掛け、爆発と凧の表情を合わせて“雷神の怒り”を演出する……」


秀満は息を呑んだ。

光秀は再び苦笑した。


「ふはは。わしは……あの男の発想が恐ろしい。

 もしわしが同じ立場に立たされたとしても、あれは思いつかん。

 このわしでさえ、あの瞬間は“雷神が現れた”と錯覚した」


「芋粥伊勢守殿……恐ろしいお方です」


光秀は秀満へ向き直った。


「そして――焦りよ」


秀満は静かに頷いた。


「殿は……功を奪われるとお思いですか」


光秀はゆっくりと息を吐いた。


「……思うておる」


その言葉は、光秀の本音だった。


「わしは摂津を任されておる。

 だが摂津は難しい。

 国人は動かず、兵站は崩れ、荒木の余波も残る。

 わしは……決め手となる功を挙げられぬまま、時だけが過ぎていく」


秀満は黙して聞いていた。

光秀は続けた。


「そこへ芋粥が雷神を背負って戻る。

 木津に向かうという。

 あそこは難所よ。

 そこを落とせば、摂津の戦線を一気に動かすやもしれぬ」


秀満は光秀の目をしっかりと見つめた。


「殿。焦りは武将の毒にございます」


光秀は目を閉じた。


「分かっておる。

 だが――芋粥は殿の寵臣。

 わしは……置いていかれるやもしれぬ」


秀満は静かに言った。


「殿。芋粥殿は雷神を背負っております。

 しかし殿は――摂津の地を知り尽くしておられる。

 雷神ではなく、地の利を使うべきです」


光秀はゆっくりと目を開いた。

秀満の言葉は、光秀の胸に静かに落ちた。


「……そうだな。

 雷神は芋粥のもの。

 わしはわしの戦をするまでよ」


秀満は深く頭を下げた。


「殿が摂津を動かせば、芋粥殿も動きやすくなります。

 殿の功は必ず立ちます」


光秀は軍扇を握り直し、静かに呟いた。


「……置いていかれてたまるか」


光秀が静かに決意を述べたその瞬間、陣幕の外から斎藤利三の声が響いた。


「殿、申し上げたき儀が……」


光秀は軍扇を閉じた。


「入って申せ」


「は!」


利三が陣幕を押し開けて入る。

秀満が控えているのを一瞥し、すぐに報告へ移った。


「長宗我部より密使が参っております」


光秀の眉がわずかに動いた。


「……長宗我部か。この時期に摂津にまで使者を寄越すとはな。

 それもこのわしにか――通せ」


利三が頷き、一旦引き下がると使者を連れて再び訪れ、幕を開けた。


現れたのは、痩身でありながら鋭い眼を持つ武士。

その身なりは質素だが、立ち居振る舞いには武家の品がある。


吉良親貞――長宗我部元親の腹心である。


親貞は深く頭を下げた。


「明智殿……

 この度は、急な参上、まっこと失礼いたしまする」


光秀は軍扇を膝に置き、静かに親貞を見据えた。


「長宗我部の使者が摂津まで来る理由は一つだ。

 申してみよ」


親貞は丁寧に言葉を選びながら口を開いた。


「は……

 この度、我ら長宗我部は、織田家との和議を望んじょります。

 毛利、本願寺との縁は……切る覚悟にございます」


秀満がわずかに息を呑んだ。

光秀は表情を変えず、親貞の言葉を待つ。


親貞は続けた。


「ただし……

 四国安堵をいただけるのであれば、の話にございます。

 元親様は、四国の地を守り抜くことを第一に考えちょります。

 そのためならば、織田家に味方することも厭いませぬ」


利三が光秀の横顔を見た。

光秀は沈黙したまま、親貞の言葉を噛みしめていた。


親貞はさらに深く頭を下げる。


「明智殿……

 元親様は、明智殿、芋粥殿との戦で痛感いたしました。

 織田と敵対するは、得策にあらず、と。

 どうか……和議の仲介をお願い申し上げまする」


陣幕の空気が静まり返った。


秀満が光秀へ視線を送る。

光秀は軍扇をゆっくりと閉じた。


(……芋粥め)


光秀の胸に、複雑な感情が渦巻いた。


長宗我部をわざと逃がしたのも芋粥。

巨砲管理の失態を雷神演出で帳消しにしたのも芋粥。

それでいて――

摂津で功を奪いに来ているのも芋粥。


(芋粥はわしや佐久間殿の功を平気で奪う。

 もちろん織田の天下のために芋粥は動いている。

 それは分かっている)


光秀の胸に、苛立ちがじわりと広がった。


(だからといって摂津の功も、四国の功も……

 すべて芋粥にくれてやる必要もあるまい。

 犬は芋粥ではなく、わしに懐いてきたのだ)


その瞬間、光秀の目がわずかに細くなった。


(ならば――

 織田のためにわしがその功を奪ってやろうぞ。

 芋粥が摂津で功を挙げるなら――

 わしは四国を動かす)


秀満が光秀の変化に気づいた。


「殿……?」


光秀は静かに立ち上がり、親貞へ向き直った。


「吉良殿。

 和議の仲介――引き受けよう」


親貞は深く頭を下げた。


「かたじけのうございます……!」


光秀は続けた。


「元親殿が毛利・本願寺と手を切ることを――

 わしが直接、段取りし、確認する」


親貞は目を見開いた。

光秀は続けた。


「手切れの使者をどこへ出すか。

 どの寺社を経由し、どの国人を証人とするか。

 毛利へは誰を遣わし、どの文言で縁を断つか。

 本願寺へはどの時期に、どの形で知らせるか。

 その一切を――わしが握る」


親貞は深く頭を下げた。


「……明智殿が段取りくださるのであれば、元親様も安心して手切れできまする。

 まっこと、ありがたいことにございます」


光秀の目がわずかに細くなる。


(芋粥よ……

 四国の番犬化の功は、わしが奪う)

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― 新着の感想 ―
皆さんお馴染み本能寺ルートに軌道修正しつつレール接続、さてさてどうなるやら。 芋さん忘れてるよな絶対
信長長宗我部の力を残すのは認めたけど四国安堵とか欠片も言ってないからな 主人公に交渉指示どころか条件も言ってないからな相当削るつもりだと思うわ 織田の重臣より広い領土ってありえないし立地によるけど主人…
長宗我部「四国安堵」 信長「2カ国安堵」 光秀「…ビキビキ(# ゜Д゜)」 これに佐久間追放しようものなら光秀も自分も追放される?と思えばやっちゃうかもね
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