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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十四章 織田家宿老編(長宗我部知略戦編)

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第二百四十八話 元親の真の目的

岸和田城――。

冬の冷気が肌を刺し、白い息が城下に漂う中、長宗我部軍は城の外郭に張り付き、

籠城戦の初日を迎えていた。


土塁と柵の上には弓兵が並び、大量の矢袋が積み上げられている。

矢を尽きさせぬため、兵たちは矢束を背負い、射手が倒れてもすぐに交代できるように整然と配置されていた。


塀のそばには石や丸太が山のように積まれ、敵が梯子を掛ければ、上から叩き落とす準備が整っている。

火のついた藁束まで用意されており、梯子攻めを焼き払う算段もできていた。


門前と柵前には逆茂木さかもぎがびっしりと敷かれていた。

丸太に枝を逆向きに残したまま地面へ伏せたもので、踏み込めば足を取られ、破城槌の進行速度を奪う。

門を破ろうとすれば、矢の雨と石落としの中で逆茂木を踏み越えねばならず、相当な被害を覚悟する必要があった。


さらに、土塁の曲線を利用した“横矢”の射線が三の曲輪全体に張り巡らされていた。

正面から攻め寄せる敵に対し、左右の土塁から斜めに矢が飛び込む。

少ない兵でも効果的に敵を削れる、岸和田城が誇る防御の要であった。


誰が見ても、正面から攻めるのをためらうだけの備えであった。

松浦もまた、この守りを見せれば元親は包囲を選び、岸和田攻めは長期戦になると考えていた。



城の周囲には、土佐の旗が林立していた。

一領具足五千が槍を構え、静かに息を潜めている。

その前に立つ元親は、まるで獣のような覇気をまとっていた。


火鉢の前で見せた静けさはもうない。

ここにいるのは、四国を統べる若き虎――長宗我部元親その人だった。


元親は隣に立つ親泰へ声をかけた。


「……親泰。城攻めっちゅうんは、最初が肝心じゃき」


親泰は兄の顔を覗き込んだ。


「兄者、急にどうしたがよ?」


元親は城を見据えたまま、低く問うた。


「……普通、城攻めはどうするがじゃ?」


親泰は肩をすくめ、鼻で笑った。


「まぁ……包囲して、じわじわ圧迫するんが常道じゃの。

 見てみいや兄者、この岸和田は堅そうぜよ。

 門は分厚うて、土塁の上には弓兵がずらりと立ち並んじゅう。

 矢袋も山ほど積んじょって、石落としも丸太も備えちゅう」


親泰は槍の柄を軽く叩き、続けた。


「まぁ、普通なら――こんな城を無理攻めするがは、ど阿呆と罵られるじゃろうな」


そして、にやりと笑った。


「じゃがな、兄者とわしは、そのど阿呆をやるつもりながじゃろう?」


元親は口角を上げた。


「そうじゃ。初日から力攻めじゃ。

 今日一日で城を落とす気概で行くがぜよ」


親泰は不敵に笑い、それを見た元親が先を続けた。


「親泰……三日、五日と同じ勢いで攻め続けるんじゃ」


元親は声を出して笑った。


「ははは。敵は毎日、この猛攻が続くと思うて肝を冷やす。

 岸和田は広い割に籠った兵が少ない。

 そこを突くがじゃ」


元親は一歩前へ出た。


「……鼓舞して参るき、親泰。ついて来い」


親泰は豪快に頷いた。


「おう、兄者」



一領具足五千が整列し、その前に元親が立った。

冬の空気が張り詰め、兵たちの息が白く揺れる。


元親は大きく息を吸い込み、腹の底から声を放った。


「よう聞け!!

 土佐の――いや、日ノ本一の猛者どもよ!!」


兵たちの視線が一斉に元親へ向けられる。


「これより力攻めじゃ!!

 見よ、岸和田に籠る兵どもを。

 まるで草じゃ」


元親は城を指差した。


「踏めば倒れ、風が吹けば揺れる。

 こんな草っ葉の城を落とすのに……おまんらは五日も要るか?」


兵たちがざわめき、元親はさらに声を張り上げた。


「要らんじゃろうな!!

 おまんらほどの猛者なら――三日で落とすがじゃ!!」


一領具足たちの目が光った。

槍を握る手に力がこもり、ドンドンと石突を地面に叩きつけて応じた。


「さぁ、行くぞ!!

 はじめから力攻めじゃ!!

 四国の一領具足の恐ろしさを――草っ葉どもに見せつけちゃれ!!」


「おぉぉぉぉぉ!!」


大地が震えるほどの雄叫びが、岸和田城下に響き渡った。



初日から一領具足は、まるで今日一日で城を落とすつもりであるかのように、躊躇のない突撃を繰り返した。

その勢いは、城兵の誰もが予想していなかった。


松浦勢は土塁の上から雨のような矢を放ち、門前へ殺到する土佐勢を必死に押し返そうとした。

だが――その矢の雨を、一領具足はものともしていなかった。


破城槌を担ぐ兵たちを囲むように、前列の兵が巨大な竹盾を掲げて進む。

その竹盾は、一人で持つにはあまりにも大きく、分厚い竹板を幾重にも重ねた、並の兵では持ち上げることも難しい大盾だった。


だが、一領具足はそれを軽々と肩に乗せ、矢を受けるたびに盾が鈍い音を立てても、一歩も止まらず前へ進んだ。


矢は突き立ち、石は弾かれ、竹盾の表面には瞬く間に傷が刻まれていく。

それでも土佐勢は進む。

盾の影に隠れた破城槌の担ぎ手たちが、門へ向けてじりじりと距離を詰めていく。


破城槌には、通常より一回り太い巨木が使われていた。

先端には鉄板が巻かれ、二十名の一領具足が筋骨隆々の腕でしっかりと担ぎ上げている。


親泰が前線で声を張り上げた。


「撞木を構えちょけ!!

 門をぶち抜くがぜよ!!」


その声に呼応するように、一領具足は逆茂木を踏みしめながら前へ進んだ。

逆茂木の枝が脛に食い込み、足を取られても、土佐勢はそれを踏み倒し、強引に道をこじ開けていった。



堅固な備えを見せれば、元親もまずは包囲に移ると考えていた松浦勢は、土塁の上で矢を放ちながらも、その勢いに明らかに動揺していた。


「な、なんという突撃だ……!」

「初日からこれか……!」


守兵たちの声が震えた。

守りの堅さを見せれば敵は足を止める。その前提が、最初の突撃だけで崩されていた。


物見櫓に立つ松浦肥後守の顔は青ざめていた。


「な、なんだと……!?

 ど阿呆か、あいつら……。


 この岸和田に真っ向から力攻めするか?

 これは無理攻めじゃ。いくら長宗我部と言えども続かぬ!」


松浦は必死に声を張り上げた。


「耐えよ!耐え抜け!

 いずれ関殿が兵站を崩す。

 あやつらも、この勢いを最後まで続けることは叶わぬ。

 今が正念場ぞ!」


檄を受けた守兵たちは命を懸けて防戦した。


一日目――

門は軋んだが破られず、日暮れとともに一領具足は引き揚げた。


あれほどの無理攻めをしておきながら、一領具足の被害は思ったより少ない。

怪我人こそ出たが、討ち取れたかどうかさえ松浦には判断がつかなかった。


その夜、守兵たちは疲れ切った体を引きずりながら門の補修を行い、終えるとその場に倒れ込むように休んだ。


松浦は不安を胸に押し込みながら、次の策を考えていた。


「……なんという圧だ。あれが四国を制した者どもか。

 いや、相手も無理をしておるはず……。

 この勢いは明日までは続くまい……」



翌日――

一領具足は再び猛攻を開始した。

昨日の疲れなどどこへ消えたのかと言うほどの苛烈な攻めだった。


松浦軍も必死に防戦した。

こちらも死に物狂いだ。


初日の攻撃を耐えたはずなのに、城兵の顔には勝ち残った者の安堵がなかった。

対する一領具足は、岸和田の守りを押し切れると確信し、初日以上の声を上げていた。


初日と同じ激戦を繰り広げ、二日目の夜を迎えた。

守兵たちは疲れ切って項垂れ、門は補修ができないほど損傷していた。

明日には打ち破られるだろうと誰もが思った。


松浦は三の曲輪の惨状を見た後、二の曲輪へ移動した。


「こ、このままでは三月まで持ちこたえられん……。

 いや、三の曲輪を捨て、二の曲輪で守る。

 あそこは門までの道が狭く入り組んでおる。

 そこへ引き込んで長宗我部勢を打ち破れば、三の曲輪より守りやすかろう。


 戦線を小さくすれば兵を一点に集められる。

 休みながら戦うこともできよう。

 いかに一領具足が化け物といえども、何れは疲れも見えよう……」


松浦は家臣に対し、城門が破られた際の退路を事細かに指示した。

混乱なく二の曲輪へ退き、継戦するためだ。


そして三日目――

一領具足は初日と変わらぬ勢いで力攻めを繰り返した。


遂に門が軋み、打ち破られようとしていた。

松浦は全軍に指示を出した。


「退け!二の曲輪に退けぇ!

 まだ負けてはおらんぞ!

 二の曲輪が長宗我部の墓場だ!」


門が突き破られ、一領具足が雪崩れ込む直前――

松浦軍は整然と二の曲輪へ退却した。



その様子を見届けるや、元親は槍を掲げて叫んだ。


「おう、やっと退いたか!

 雪崩れ込めぇ!!」


親泰も声を張り上げる。


「おう!行けぇ!!

 そして探せぇ!!

 あれを見つけるがぜよ!!」


一領具足が三の曲輪へ突入し、瓦礫と血の匂いが混じる中を駆け回る。

やがて、兵の一人が叫んだ。


「ありましたぁ!!」


元親と親泰はその声を聞くや、すぐさま駆け寄った。

三の曲輪の奥、蔵が立ち並ぶ陰――そこに、分厚い木箱が鎮座していた。


元親は箱を見上げて鼻で笑った。


「開けぇ。壊しても構わんき」


兵が大槌で箱を叩きつける。

板が割れ、金具が飛び散り、箱は勢いよく崩れた。


だが――

中には、何もなかった。


空虚な闇だけがぽっかりと口を開けていた。


親泰が目を見開いた。


「……空かよ、兄者」


元親はふんと鼻を鳴らした。


「ふん、やっぱりじゃ。

 芋粥め、よう考えちゅう。

 まぁええ。目的は達したき」


元親は振り返り、三の曲輪を占拠した一領具足へ声を張り上げた。


「全軍、撤収じゃ!もう用はないき!


 儂らぁは三月になりゃ田を耕さにゃならんがぞ。

 忙しゅうて、こんな城――端から要らんわ。


 芋兵ども、欲しゅうなった時に、またもらいに来るき。

 それまでに、よう磨いちょけぇ!!」


「おぉぉぉぉ!!」


土佐勢の雄叫びが、岸和田の空に響き渡った。



元親の狙いは、岸和田城ではなく――雷神巨砲の“箱”だった。


この箱は芋粥にとってはただの空箱。

だが、反織田勢からすれば恐怖の象徴であり、「織田は巨砲を持っている」という噂を支える根拠だった。


松浦は三日間の激戦で疲弊し、長宗我部の異様な強さに意識を奪われていた。

その結果――

この箱の存在を、守るべき重要物として扱うことを失念してしまった。


それが、岸和田防衛における最大の失策となる。

そして元親の目的は、見事に果たされた。


「芋粥よ、この箱……わしが好き勝手使わせてもらうき。

 わしの猿知恵は、ここからが本番じゃ!」


元親は、崩れた箱の残骸へ顎を向けた。


「板一枚、金具一つ残すな。すべて持ち帰るがじゃ」


一領具足たちは割れた外板を担ぎ、梁を肩へ載せ、地面へ飛び散った釘や金具まで拾い集めた。

原形を失った巨大な箱は、幾つもの荷へ分けられ、土佐勢の隊列の中央へ運ばれていく。


その様子は、二の曲輪からもはっきり見えた。

まるで討ち取った敵将の首を掲げるように、長宗我部軍は箱の残骸を戦利品として誇示していた。

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― 新着の感想 ―
巨大な箱を持ち帰って、芋粥の作った幻想を楯に自分たちが利用しようって訳ですか これは猿知恵と言うにはあまりに狡猾(褒め言葉
一領具足は実際はそこまで精強ではないから、ようは「持ち出し」だから、装備がばらばらだし小領主の寄せ集めだから組織運営が出来ないし兵糧の揉め事が多かった 鎌倉武士の様に一所懸命防衛戦は強かったが 所領か…
史実と違って反織田勢力が強すぎて、完全に膠着つみ状態の織田家なんだよねぇ 強すぎて進まないし爽快感がまったくない、このまま戦国時代終わらないエンドかな
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