↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十四章 織田家宿老編(長宗我部知略戦編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

250/282

第二百四十六話 山猿の先手

秀政が安土を発って伊勢へ戻ると、鈴鹿館の門前には、いつもの顔ぶれが揃っていた。

お悠、長政、政親の三人は寒風の中にもかかわらず、館の前で秀政を出迎えた。


秀政が馬を降りると、お悠が一歩進み出て、柔らかく微笑んだ。


「おかえりなさいませ。

 今年は……機嫌がよろしいようですね」


秀政は肩の力を抜き、軽く笑った。


「まぁな。特に問題はなかった。

 四国攻めは進んでいなかったが、松永を討った働きと荒木を落去させる一助となったことは認めてもらえた。

 今年こそ四国へ渡り、長宗我部を攻める足掛かりを築かねばならん」


政親が安堵したように頷いた。


「御働きを評価されたのであれば、何よりではありませぬか。

 あの大殿から直々に労われることなど、容易ではございませぬ」


秀政は館の中へ歩きながら、肩越しに言った。


「あぁ、そうだな。

 他の宿老も叱られておったわ。

 俺はまだ認められた方だ。

 佐久間殿など、しばらく立ち直れぬほど落ち込んでおったぞ」


長政が驚いたように目を丸くした。


「大殿は……恐ろしい方なのですね」


秀政は苦笑した。


「そうだな。

 あの鬼柴田殿でさえ震えておるからな」


長政は思わず声を上げた。


「そ、そうなのですか?

 柴田様とは北陸でお会いしましたが、私はその威厳に押しつぶされそうになりました。

 その柴田様が……震えるとは……」


政親が咳払いし、話題を戻した。


「それはさておき、四国攻めはどうなさいますか?」


秀政は廊下を歩きながら、迷いなく答えた。


「予定通り行う。

 二月には蘭の祝言がある。

 それを終えてから伊勢を発つ。

 三月の頭には岸和田へ入り、そこから淡路島を攻める」


政親はすぐに段取りを思案し始めた。


「は。淡路島には、今のうちから調略を仕掛けておくとよろしいかと。

 岸和田におり、淡路の内情にも通じている松浦殿が適任かと存じます」


秀政は頷きながら答えた。


「確かにな。松浦殿には俺から指示を出しておこう。


 兵についてだが……。

 新しく雇った常備兵三千は訓練と伊勢の防備だ。

 訓練はいつも通り浅野に任せる。


 陣容は去年と同じで良かろう。

 鷺山に出陣準備を急がせよ」


政親が一度頷き、すぐに返事をした。


「承知しました。浅野殿と利玄に伝えておきます」


「お悠は明と共に兵站の準備を頼む」


お悠がしっかりと頷いた。


「はい、お任せください」


「よし、ついに長宗我部と当たることになる」


秀政は歩みを止め、三人を見回した。


「三月末までに淡路島へ攻め入り、四国攻略の足掛かりとなる拠点を得る。

 忍びには島内の城と国人衆を探らせよ。

 どこを最初に狙うべきか、事前に見極めねばならん。

 政親、案をまとめよ」


政親は深く頭を下げた。


「御意。ひと月以内に、淡路の城と国人衆の動きをまとめて御報告いたします」


「うむ、任せたぞ」


こうして鈴鹿館では、蘭の祝言と並行して、淡路島へ渡るための出陣準備が始まった。



土佐・岡豊城。

冬の霜が石垣を白く覆う中、上段の間には長宗我部家の中枢が集まっていた。


長宗我部元親は上段に座し、静かに火鉢へ手をかざした。

その眼差しは鋭く、しかしどこか愉しげでもあった。


久武親直、香宗我部親泰、吉良親貞――

長宗我部家の軍事と政を担う三人が、膝を揃えて控えていた。


元親は火鉢から手を離し、ゆっくりと口を開いた。


「……四国に、織田が攻めて来るちゅう噂じゃ」


元親の声は低く、しかし揺るぎなかった。


「大将は、あの……芋粥とか言う新参の宿老じゃと聞いちゅう。

 なんでも妙な兵を使うらしい。確か芋兵とか言うてな。

 青芋、赤芋、黒芋と、色ごとに分かれちゅうらしいぞ」


親泰が鼻で笑った。


「まっこと弱そうな名じゃのう。

 わしら一領具足の敵になるとは思えんぜよ」


元親は軽く頷いた。


「まあ、芋兵とは一度槍を交えたき、よう覚えちゅう。

 本州の弱兵にしちゃあ、ええ面構えしちょったが……

 結局は一領具足に蹴散らされちょった」


親泰は満足げに笑った。

しかし久武親直は眉を寄せ、慎重に言葉を選んだ。


「殿。芋粥をあまり侮らん方がええかと存じまする」


元親が視線を向けると、久武は静かに続けた。


「芋粥は松永を討ち、荒木をも落去させたと聞きます。

 南蛮の大船を使い、村上水軍さえ打ち破ったとか」


元親は鼻を鳴らした。


「それは知っちゅう。

 雷神巨砲とかいう大筒を使うたらしいが……

 あんな胡散臭いもん、あるわけないろう」


吉良親貞が控えめに口を開いた。


「殿……どうやら、真に存在するようでございます」


元親の目が細くなる。


「岸和田城の三の曲輪に収められちゅうとか。

 櫓ほどの高さの大箱で、中には天守を吹き飛ばす大砲があると……

 諜報の者が申しておりました」


元親は呆れたように笑った。


「そんな化け物みたいな大砲があったら、今ごろ日ノ本は南蛮の手に落ちちゅうわ。

 戯言じゃ、戯言」


吉良は首を振った。


「戯言と笑うておれませぬ。

 石山本願寺では、顕如様と教如様の意見が割れちょります。

 顕如様は和睦を望み、教如様は徹底抗戦を叫びよります」


元親は黙って聞いた。


「本願寺には、まだ戦えるだけの兵も兵糧も残っちょります。

 それでも和睦の話が出るということは……

 巨砲を恐れちゅうからにございませぬか」


元親はしばらく沈黙し、やがて肩をすくめた。


「馬鹿馬鹿しい……

 じゃが味方じゃき、助けちゃらんといかんのう」


親泰が身を乗り出した。


「兄者、どうするつもりなが?」


元親はゆっくりと親泰を見た。


「……親泰。

 本州の弱兵どもが、わしのことを何と呼びゆうか知っちゅうか?」


親泰は少し考え、答えた。


「山猿……とか言いよったか?」


元親は笑った。


「そうじゃ。

 わしは知恵もない勢いだけで、猿山のてっぺんを取った山猿じゃと。

 姫若子の頃から、ろくな異名には縁がないきのう」


元親は火鉢の火を見つめた。


「……わしほどの知恵者が山猿なら、本州には野猿しかおらんぜよ」


親泰は豪快に笑った。


「確かにそうじゃ!」


元親は立ち上がり、三人を見渡した。


「知恵を見せちゃるとするか。

 親直、すぐに兵を集めよ。岸和田へ渡るぞ。

 三月末までには土佐へ帰るき」


久武は深く頭を下げた。


「農繁期の前に一働き……ということですな」


元親は頷いた。


「芋粥は、わしらが農繁期には戦えんと思うちゅう。

 だから去年は農閑期になれば早々に引き上げよった。

 その考えが甘いと、思い知らせちゃる」


久武は慎重に問う。


「殿……策をお持ちで?」


元親は口角を上げた。


「策と言うほどでもないが……

 わしが考えちゅう策は、こうじゃ」


元親は三人を近くへ呼び寄せ、声を潜めて策を明かした。

親泰はすぐに膝を叩いた。


「おもしろいのう! やっちゃろう、兄者!」


久武は即座に立ち上がった。


「出陣の準備、急がせまする!」


吉良は深く頭を下げた。


「本願寺への交渉は拙者にお任せくだされ」


元親は豪快に笑った。


「おう、やっちゃろうぜ!」


岡豊城の上段の間に、土佐の覇気が満ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
同じく、祝言中に攻められてパパ+千種一族激怒して、雷門完成させて長宗我部の拠点にぶっ放してそうやな(笑)
これはまさか娘の祝言に水を刺されたパパ大激怒フラグかな…?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。