表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十四章 織田家宿老編(長宗我部知略戦編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

240/265

第二百三十六話 雷神巨砲

上段の間の重苦しい沈黙の中、それを破ったのは、鷺山利玄だった。

鷺山は地図の前へ進み、迷いなく指を置いた。


「はい、申し上げます。

 我々が攻めるべき点は、“ここ”です」


その瞬間、上段の間にいた全員が目を見開いて、息を呑んだ。

秀政も政親ですら例外ではない。


政親は小さく頷き、珍しく口元に笑みを浮かべた。

鷺山は恐る恐る続ける。


「我々は四国方面軍です。

 本来我らには関係のない場所です。

 事前に大殿様にも了承を頂く必要がありましょう。


 ですが、今この状況ではこれが最善策です」


秀政もはっきりと頷いた。


「そうだな。鷺山、よくそこに気づいたな」


鷺山は少しだけ照れくさそうに頭を掻いた。

そして、政親の方にも目を向けた。


政親はゆっくりと口を開いた。

だが表情は柔らかい。相手を認めた時の顔だ。


「なるほど。


 ……利玄らしい浅い考えだ。

 何の捻りもない。

 だが、その浅さこそが、ここでの解だ。

 

 見事だ、利玄。

 深く考える事が何も最良の策とは限らない」


鷺山は目を丸くした。


「ま、松……。ということは……」


政親は静かに言った。


「うむ。私も利玄の策が最善と考える。

 義兄上は?」


秀政は地図を見つめたまま、ゆっくりと息を吐いた。


「……うむ。目から鱗だな。

 自身の立場に拘り過ぎていた」


鷺山は胸を張り、声を強めた。


「殿……」


感無量と言った顔の鷺山に、いつもの調子で政親が話しかけた。


「利玄、その先の考えもあるのだろう?

 続けたらどうだ?」


「おう!」


力強く応じると、再び鷺山は地図の一点

――摂津の有岡城を指した。


「芋粥軍が全軍を引き連れて、まず落とすべきはここ、有岡城です!」


鷺山は勢いのまま言葉を重ねた。


「我々は四国方面軍です。

 しかし、この本州が安定しなければ、四国に目を向けることすら不可能なのです。

 先に荒木を討ち滅ぼし、摂津を安定させることこそ肝要!」


政親が頷いた。


「荒木さえ討ち倒せば、佐久間様、明智様が本願寺への圧力を再開します。

 そうなれば長宗我部も摂津や和泉へ侵攻することが難しくなりましょう」


鷺山は拳を握った。


「我らは満を持して淡路島攻略に当たれます!」


秀政は深く頷いた。


「そうだな。後顧の憂いを断つことこそ重要だ」


鷺山は声を張り上げた。


「殿がいつも言われている“急がば回れ”です!

 それに今なら荒木を一夜で打ち倒すことが出来ます。

 この芋粥ならば!」


長政が身を乗り出した。


「鷺山殿、大砲を使うということですか?」


鷺山は首を振った。


「使っても構わぬが、使わずとも一夜で落ちましょう」


長政は目を細めた。


「どのように?」


鷺山は振り返り、綾芽に声をかけた。


「綾芽!」


「はい!」


「伊賀者を使って、有岡周辺に噂を流せ。

 芋粥は南蛮人より巨大南蛮砲を買い付けたと。

 その巨砲は一撃で信貴山の天守を吹き飛ばしたと」


綾芽は口元を押さえた。

さらに鷺山は力を込めて続けた。


「その一撃は、“神仏の一撃”である。

 たったの一撃で城が粉砕したのだ。


 南蛮大砲ですら、まるで児戯と思えるような。


 そうだ!

 “雷神巨砲”だ。そう名付けましょうぞ。


 その“雷神巨砲”によって今度は有岡城を吹き飛ばすと噂を流すのです」


秀政が思わず噴き出した。


「はっはっは。……あれを芋粥の手と偽るか?」


鷺山は笑った。


「吹き飛んだのは事実です。

 遠目に見ていた敵方の忍びも多かろうと。

 ちょうど芋粥が大砲を放っておったのです。

 あれこそが芋粥の奥の手――雷神巨砲によるものと言い張るのです」


政親は感心したように息を漏らした。


「利玄、やるな。見直したぞ。

 その策は面白い。

 荒木村重は戦わずに逃げ出すやもしれん」


秀政は内心で呟いた。


(なるほど……逃げ出すか。

 大いにあり得るな。道糞どうふんの誕生か)


秀政は立ち上がった。


「鷺山、見事な策だ。

 俺は明日すぐに安土へ発つ。必ず殿を説き伏せてまいる。

 お前と綾芽は今すぐ流言を開始せよ。

 戻り次第、有岡に向けて発つぞ」


秀政は地図を叩いた。


「芋粥軍が動けば、有岡は落ちる。

 荒木攻めの功も我らが貰う」


上段の間にいた全員が秀政に深く頭を下げた。

そして顔を上げると「おう!」と叫んだ。


八方塞がりだった軍議は、鷺山の“浅い策”によって、ついに綻びを見せた。



安土城・二の丸御殿。

秀政は夜明け前に岸和田を発ち、昼過ぎには安土へ着いた。

道中の疲れも見せず、すぐに信長への拝謁を願い出る。


案内された広間には、信長が一人、香炉の前で静かに座していた。

薄く立ちのぼる香の煙が、天下人の静かな威圧を形づくっている。


秀政が深く頭を下げて、有岡城攻めを献策すると、信長は香炉の灰を箸でつつきながら言った。


「……四国方面軍でありながら、有岡を獲るか。

 貪欲な奴め」


その声音は叱責ではなく、どこか愉快そうだった。

秀政は顔を上げ、静かに言った。


「は。

 四国へ渡る前に、摂津の乱を断ち切ることこそ急務と考えまする。

 荒木村重を討ち滅ぼし、摂津を安定させれば――

 佐久間殿、明智殿も本願寺への目を向けることができましょう。

 我らも後顧の憂いを断てます」


信長は灰を払う手を止めた。


「ふむ。確かに……。

 今のままで四国へ手を出すのは得策ではないな」


秀政は一歩進み、地図を広げた。


「はい。

 摂津が安定すれば長宗我部とも正面から当たれます。

 淡路島攻略も容易となりましょう。

 そのためにも、有岡を一夜で落とす策がございます」


信長の目が細くなる。


「一夜で、か。

 面白い。申してみよ」


秀政は鷺山の策を簡潔に述べた。

信貴山城が吹き飛んだ事実。

芋粥軍が大砲を放っていた状況。

それを“雷神巨砲”と偽り、有岡城に流言を走らせるという策。


信長はしばらく黙っていた。

やがて、香炉の灰を払う手が止まり、口元がわずかに吊り上がった。


「……雷神巨砲か」


その声には、天下人特有の愉悦が滲んでいた。


「平蜘蛛の供養代わりに――それも良いな。

 芋、許す。


 日向守と右衛門にはこの後で伝えておく。

 見事荒木を討ち滅ぼしてみよ」


秀政は深く頭を下げた。


「は。

 芋粥軍、全軍を挙げて有岡へ向かいます。

 殿の御威光を損なうことなく、荒木村重を討ち果たしてみせまする」


信長は立ち上がり、部屋から去ろうとした。

そこで一度足を止めた。


「日向守も右衛門も不甲斐ない。

 芋、お前の爪の垢でも煎じて飲ませてやれ」


秀政は苦笑いしながら答えた。


「御意」


信長は一度鼻で笑って続けた。


「芋よ。

 お前の軍は、戦の度に面白いことをするな。

 次はどんな手を見せるか……楽しみにしておるぞ」


秀政は深く礼をし、そのまま広間を辞した。


安土城を出る頃には、秀政の胸の内に確かな手応えがあった。


(有岡は落とす。

 村重は追い詰める。

 その先に四国がある)


「ここからが本番だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
偶然の一致とは言え、イゼルローン要塞のあれが、この世界線で、荒木を奔らせるのか! 次回も期待しています!
そういや、この世界の黒田官兵衛は何処にいるんだろう? 本来なら城の地下牢にいるよね?
これにより、雷神巨砲が史実となり、後年、コーエーテクモさんの出すSLGゲームに雷神巨砲が登場し、ゲームバランスが狂うことになり、松永久秀の爆死説はマイナーになるのであった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ