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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十四章 織田家宿老編(長宗我部知略戦編)

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第二百三十五話 八方塞がりの軍議

岸和田城の本丸。

秀政と政親、長政が案内されると、松浦肥後守信俊が静かに座していた。


年の頃は四十前後。

痩身で、目は鋭く、しかしどこか商人のような計算高さを宿している。

甲冑よりも海図を持っている方が似合う男だった。


秀政は信俊の前へ進んだ。

信俊は深く礼をし、そのまま上座を譲るように身を引いた。


「伊勢守様。

 本日より、それがしは二の丸御殿へ移りまする。

 この戦の間、本丸は――殿の御城の如く、お使いくだされ」


その言葉は丁寧で、誠意もある。

だが秀政は眉をひそめた。


「松浦殿」


信俊が顔を上げる。


秀政は静かに、しかし強い調子で言った。


「武士たるもの、例え相手が俺であっても、軽々しく本丸を渡すと言うな」


信俊は息を呑んだ。


秀政は続けた。


「武士は一所懸命。

 我が城を守るために命を懸けるべきだ。

 本丸は譲らぬという気概でおれ」


信俊は言葉を失い、しばし口を開けたまま固まった。


秀政は肩をすくめ、軽く笑った。


「俺は二の丸御殿を自由に使わせてもらうぞ」


信俊は慌てて言葉を探した。


「それでは……その……本丸をお渡しせぬとなると……」


秀政は手をひらりと振った。


「くどいぞ」


信俊は背筋を伸ばし、深く頭を下げた。


「はぁ! 御意のままに!

 いささかの御不便もおかけしとうございませぬ!

 何かございましたら、何なりとお申し付けくだされ!」


その声は先ほどよりもずっと大きく、

その姿勢は先ほどよりもずっと武士らしかった。


政親が横で小さく笑った。


「義兄上は……本当に人を掴むのがお上手でございますな」


長政も感心したように頷いた。


「松浦殿、この芋粥家では女子も武将にございます。

 我が妻の明も兵站を担っております。

 今後ともご協力いただきたく、お頼み申します」


信俊は胸に手を当て、長政へも深く礼をした。


「はは、備前様や奥方様の御為、この力、尽くさせていただきます」


秀政は満足げに頷いた。


「よい。

 では、ここ岸和田を拠点に、四国をどう攻めるか――軍議を開こうぞ」


こうして秀政は松浦信俊の面目を守り、その心を掴んだ。



岸和田城の上段の間。

秀政が上座に座り、政親、長政、鷺山、綾芽、関親子、松浦――芋粥軍の主だった将と軍務を担う者たちが居並んだ。


「これより四国攻めについて論じる。

 敵は長宗我部――あの一領具足どもだ。

 まずは攻め手の拠点を敵領内に作りたい。

 皆、忌憚なく意見を述べよ」


淡路・四国の地図を広げ、秀政は指しながら、次々と候補地を挙げていった。


「まずは淡路島じゃ。洲本を押さえれば渡海が容易になる」


政親は即座に首を振った。


「洲本は安宅河内守の勢力が強うございます。

 そう易々とは落ちませぬ。

 時期が悪うございますな。

 まもなく稲の刈入れが終わり、一領具足どもが血に飢える頃合いです。

 義兄上が安宅との戦いで摂津を手薄にしている間に、一領具足が海を渡ってくるやもしれませぬ」


秀政は眉をひそめた。


「では鳴門辺りの海城を取るのはどうじゃ?

 阿波へ手が伸びる」


今度は政親ではなく、松浦がそれに答えた。


「鳴門は潮流が速く、補給船の往来が安定いたしませぬ。

 兵站を維持できぬ恐れがございます」


秀政が唸りつつ、次案を挙げた。


「では……讃岐の引田はどうじゃ。

 三好残党と長宗我部は争っておる。

 織田が来れば、三好はこぞって味方するであろう?」


「義兄上。

 それは長宗我部と全力で正面衝突することを意味します。

 よろしいでしょうか?」


秀政は眉をひそめた。


「今なお、長宗我部の大軍が引田に展開しておりまする。

 三好残党狩りのためでございます」


政親は渋い表情を浮かべて続けた。


「そこへ織田の軍が現れれば――

 長宗我部にとって最大級に警戒すべき事態となりましょう。

 『織田が三好と連携して讃岐へ侵攻してきた』と見なされまする」


秀政は黙り込み、政親は淡々と締めた。


「一領具足の本隊と、真正面から戦うお覚悟はお持ちか?」


秀政は肩を落とした。


「……いや。

 あまり上策とは言えんな」


秀政は地図をずらし、伊予の端を指した。


「では……伊予の川之江はどうだ?

 四国の端で、土佐から離れておる。

 長宗我部の備えも薄かろう」


政親は首を振って即座に否定した。


「川之江は“端”ゆえに危険なのです」


そのまま四国と中国を線で結ぶように指でなぞった。


「毛利と長宗我部は、密な軍事同盟を結んでおりまする。

 川之江は、その同盟の“接点”でございます」


秀政もその時点で、政親の言いたきことを察して視線を落とした。


「毛利からの兵糧、鉄砲、船団、情報――

 これらは瀬戸内を渡り、川之江で長宗我部へ受け渡されまする。

 川之江は、両家の同盟を支える“結節点”。

 ゆえに長宗我部はここを絶対に失えませぬ」


さらに政親は淡々と説明した。


「芋粥が川之江へ上陸すれば――

 長宗我部は『織田が毛利との同盟線を断ちに来た』と見なしまする。

 これは長宗我部にとって最悪の事態」


「……毛利との同盟線を断つと思われるのか。

 それは大事になるな」


政親は頷いた。


「ええ。

 川之江は毛利、長宗我部同盟の“喉元”。

 芋粥がここへ兵を入れれば、長宗我部は毛利との協力が絶たれることを恐れ、四国全軍を集結させて殿を包囲いたしまする」


秀政は肩を落とした。


「……これも上策とは言えんな」


今まで黙って聞いていた長政も、ついに諦めたように口を開いた。


「八方塞がり……ということですね」


「はい、若の仰る通りです。


 ゆえに、義兄上。

 もっと別の切り口が要りましょうな」


長政が恐る恐る案を述べた。


「義父上。ならば、いっそ大殿様から虎王丸を借り受けるのは?」


政親が固まる。


「若……まさか……?」


長政は一瞬の間を置いたが、そのまま勢いで言い切った。


「虎王丸なら土佐まで一気に航行できます。

 岡豊城にカルバリン砲でも撃ち込めば、長宗我部も震え上がるかと思いますが!」


秀政が黙って、少しだけ考え込む。

綾芽が目を丸くして、そのまま鷺山の方を向いた。

しかし鷺山は長政の案には反応せず、先ほどから地図のある一点を睨んだままだった。


そして秀政はゆっくりと首を振った。

その意を受け、深く息を吐いた政親が代わりに答えた。


「……若。お薦めしません」


長政が眉をひそめた。


「虎王丸の大砲なら十分威嚇にはなるかと――」


政親は淡々と、しかし強い調子で言った。


「そんなことをしても土佐は獲れませぬ。

 それよりも――長宗我部の逆鱗に触れますよ」


言葉を失った長政を横目に、政親は続けた。


「誰しも本城に大砲を撃ち込まれたら憤慨しましょう。

 しかも、土佐の者は気性が荒うございます」


秀政もその意見には頷いた。


そこへ今まで黙っていた鷺山が顔を上げた。


「殿、俺に策があります。

 松に浅いと笑われるやもしれませぬが、今はこの策しかないかと」


いつもなら勢いに任せて話し始める鷺山が、この時ばかりは秀政の返答を待ち、慎重に言葉を選んでいた。


「鷺山、申してみよ」

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― 新着の感想 ―
方面軍だけで当たらないといけないから全面対決する訳にもいかない感じですか 相手も状況見て撤退を選ぶ余地があるように仕掛けなきゃいけないのはシンプルに面倒ですねえ……長年小競り合い続けてるような関係なら…
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