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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十四章 織田家宿老編

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第二百三十二話 乱世の華

ドォンッ!!


信貴山城が揺れた。

天守の柱が軋み、壁の土がぱらぱらと落ちる。


「父上ッ!? これは……地震か!?」


久通が叫んだ瞬間、二発目が落ちた。


ドォンッ!!


天守の床が跳ね、障子が外れ、家臣が悲鳴を上げる。


「違う……これは地震ではない」


久秀は低く呟いた。

その声は、戦場を知る者だけが持つ“確信”だった。


三発目が落ちる。


ドォンッ!!


城門の方角で火花が散り、石垣が崩れ落ちる音が響く。


久通は震えた。


「父上! 城が……城全体が揺れております!

 地震ではないとしたら、一体何が起きているのです!?

 敵はどこから攻めているのです!?」


久秀は久通の肩を掴んだ。


「天守へ上がるぞ。状況を見ねばならん」


「は、はい!」


砲撃は続く。


ドォンッ!!

ドォンッ!!


階段の壁に亀裂が走り、瓦が落ちて足元で砕ける。

久通は息を乱しながら駆け上がった。


久秀は一度も振り返らなかった。

その背中は、すでに“答え”を知っている者の背中だった。


二人は天守最上階へ辿り着いた。


そして――外を見た。


久通は息を呑んだ。


「……な……なんだ、これは……!?」


その瞬間、四発目が落ちた。


ドォンッ!!


城門の上部が砕け、瓦が宙に舞った。

門扉がぐらりと傾き、木片が雨のように散る。


「父上! 城門が……!」


久通が叫ぶ間に、五発目が落ちる。


ドォンッ!!


曲輪の壁の一角が大きく裂け、

石が滝のように流れ落ちた。


「壁が……崩れていく……!」


六発目。


ドォンッ!!


櫓の屋根が吹き飛び、

柱が折れ、見張り台が崩れ落ちる。


七発目。


ドォンッ!!


石垣の一部が崩れ、

本丸へ続く道の脇に巨大な穴が開いた。


砲煙が夜風に裂かれ、

火花が散り、石が転がり落ちる。


久通は震えた。


「父上……これは……何の攻撃なのです!?

 こんな……こんな破壊、聞いたことがありませぬ!」


久秀は黙って外を見つめた。

その表情は驚きではなく、“理解”だった。


「……これか」


久秀は吐き捨てるように言った。


「これが、筒井城を一夜で焼け原にしたという“仏罰”の正体か」


久通は父を見た。


「父上……これは……まさか南蛮の大筒……?」


「そうよ。芋粥が筒井に使ったのは、この南蛮大筒じゃ。

 そして今、この儂に向けても放っておる!


 おのぉれぇ、芋粥!!

 ふざけた真似をしおってからに!」


八発目が落ちる。


ドォンッ!!


本丸脇に砲弾が落ち、火花が散る。

天守の床が揺れ、久通は思わず柱に手をついた。


久秀は口元だけで笑った。


「はっはっは……どこまでも小憎たらしい男よ。

 あの芋粥とやらめ。

 わしの策を尽くしても届かぬところへ、平然と手を伸ばしおる」


久通は震える声で問う。


「父上……如何なさいます?

 このままでは……!」


久秀は首を横に振った。


「如何も何も……何もできぬ」


久通は言葉を失った。

久秀は続けた。


「砲撃が止めば突撃が来る。

 城門は崩れ、曲輪の壁は落ち、櫓は沈黙した。

 兵も最早役には立つまい。

 信貴山城はもう守れぬ」


久通は唇を噛んだ。


「では……父上……この城は……松永は?」


久秀はゆっくりと久通を見た。

その目は、戦国の修羅場を生き抜いた男の目だった。


「わしは松永弾正久秀。

 織田に屈して首を差し出すほど、安い生き方はしておらぬ」


久通は言葉を失った。


久秀は天守の奥――平蜘蛛が置かれた部屋へと歩き出した。


「終わりは、わしが決める。

 芋粥に奪われるのではなく、わし自身の手でな」


その足音が、天守の床を震わせる。



天守の床が揺れ続けていた。

外では砲撃が止まらず、ドォンッ、ドォンッ――

その度に天守の柱が軋み、瓦が落ちる。


久秀は、天守奥の一室へ入った。

そこは、彼が誰にも触れさせぬ“宝物の間”だった。


久通も続くが、久秀は手で制した。


「久通。ここは儂だけでよい」


久通は唇を噛み、黙って下がった。


久秀は静かに部屋へ踏み入れた。

砲撃の轟音が響く中、そこだけは奇妙なほど静かだった。


棚の上に、名物が並んでいる。


久秀は一つずつ手に取った。


「紹鴎茄子は信長へ献じてしもうたが……お前は残ったな、紹鴎薄雲。

 師の名を負う、もう一つの文琳よ」


久秀はしばらく黙って眺めると、そっと畳の上に置きなおした。


「そして松永瓢箪に続いて、儂の名を継ぐ名物茶入。

  “松永尻張”……こいつには儂の供をさせよう。


尻張形の茶入を手で覆うように持つと、感慨深げにつぶやいた。


続いて棚の奥から大海茶入を取り出した。

荒々しく流れた釉景色から名付けられた名物である。


「 "荒磯大海ありそたいかい”……儂が初めて手に入れた名物よ。

 最後まで残ったのも、何かの縁であろう。

 最初の一つなら、最期の供にも不足はない」


最後に、部屋の中央。

布をかけられた台座がある。


久秀は布を静かに外した。


そこにあったのは――名物・平蜘蛛茶釜。


黒く重く、見る者を圧する茶釜。


久秀は両手で抱え上げた。

砲撃の衝撃で天守が揺れるが、茶釜は微動だにしない。


「……平蜘蛛よ」


久秀の声は、砲撃の轟音よりも静かだった。


「わしの生涯は、乱世そのものだった。

 策を巡らし、裏をかき、人を欺き、人に欺かれ……それでも、わしはわしの道を歩んだ」


平蜘蛛の縁を指でなぞる。


「最期に残るのは、名物とわし自身。

 ならば――共に散るがよい」


久秀は茶釜を台座へ戻し、

火薬を詰めた袋をそばへ置いた。


その時――天守の外で、兵の叫び声と足音が近づいてきた。


「本丸まで一直線だ! 押し上がれ!」


「天守へ突撃せよ!!」


鷺山の声が響く。

長政の号令が重なる。


久通が駆け込んできた。


「父上ッ! 芋粥軍が天守へ迫っております!

 もう時間が――!」


久秀は振り返らなかった。


「久通。

 お前は生きよ」


「父上……!」


「松永の名は、お前が継げばよい。

 わしはここで終わる」


久秀は平蜘蛛の横に座り、静かに火薬袋へ手を伸ばした。

砲煙の向こうで、芋粥軍の影が天守の階段へ現れ始めていた。


久秀は、静かに微笑んだ。


「さて……名物と共に散るとしようか」


久秀は平蜘蛛の縁を撫でた。

砲撃で崩れかけた天守と違って、その手は最後までぶれなかった。


「久通。

 儂はな……この平蜘蛛を手放すくらいなら、死んだ方がましなのだ」


久通の目に涙が滲む。


「父上……!」


久秀は静かに笑った。


「最期は、わしが選ぶと言うたであろう」


その時――天守の階段から、鷺山の声が響いた。


「天守まであと少しだ! 押し上がれ!!」


久通は刀を抜いた。


「父上……わたしは、生きられませぬ。

 松永の名は……父上と共に散らせてください」


久秀は初めて振り返った。

その目には迷いがなかった。


「……馬鹿者が」


久通は涙を流しながら笑った。


「父上こそ……わたしの父上こそ……この乱世で、誰よりも美しく生きたお方です」


階段の下から、芋粥兵の影が現れた。


「敵だ! 天守に松永がいるぞ!!」


久通は刀を構えた。


「父上……どうか、先にいってください。

 わたしは……松永の嫡男として、ここで果てます」


久秀は目を閉じた。


「……久通。

 ならば、せめて武士らしく散れ」


「はい……!」


久通は階段へ駆け出した。


「来いッ!!

 松永久通、ここにあり!!」


芋粥兵が殺到する。

久通は狭い階段口に踏み止まり、先頭の兵を斬り伏せた。後続は前の兵につかえ、一時に二人とは登れない。


そのまま一人で斬り結び、一太刀、二太刀、三太刀――

敵を斬り伏せながら、血を浴び、それでも前へ出た。


「父上……どうか……!」


最後の兵が久通の胸を貫いた。


久通は崩れ落ちながら、天守の奥――久秀の方へ手を伸ばした。


「父上……松永は……ここで……」


そのまま動かなくなった。

久秀は静かに目を閉じた。


「松永久通、討ち取ったり!」


その声を聞いた久秀は火薬のつめられた袋に手を伸ばした。

砲撃を受けたあと、久秀はその時すでに覚悟し、兵達に城内の火薬袋全てを運ばせておいた。


「……よくやった。

 わしの息子よ」


芋粥兵が天守へ雪崩れ込む足音が響く。

久秀は落ち着いた表情で呟いた。


「儂こそは乱世の華。

 その散り際を見せてくれる」

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― 新着の感想 ―
昔読んだ「平蜘蛛を渡して降伏すればいいのに」に対する答え「ロビンマスクにアノアロの杖をよこせと言って渡すと思うのか」
いつもの裏切りの末路。 ただまあこの松永はちょっと可哀想なところもあるよね。大体佐久間が悪い……
ここで爆死する前に松永久秀を討ち取ったら面白いだろうな、どのなろう系でもボンバーマンする久秀を討ち取って平蜘蛛釜及び松永久秀コレクションを信長に献上したら どんな褒美があるのやら
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