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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十四章 織田家宿老編

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第二百二十六話 平蜘蛛

急遽、四国攻めから大和攻めへ――。


秀政は軍議を開き、関父子も連れて、芋粥全軍で進路を信貴山へと切り替えた。

その判断は迅速で、迷いがなかった。


だが、信貴山城の主・松永久秀は、すでに長期戦の準備を整えていた。


山道の封鎖にはじまり、兵糧の大量備蓄、矢弾の補充、国人への密使も抜かりない。

毛利、本願寺、長宗我部、そして荒木との連携も万全を期している。

その上、摂津国人の調略工作も同時に行っており、籠もる者としての隙は全くなかった。


現在の摂津・大和の情勢は流動的で、この籠城戦一つで戦局は大きく変わり得た。

籠城疲れが見え始めていた荒木でさえも、一気に息を吹き返し、それが連鎖して毛利・長宗我部の侵攻に追い風を吹かせた。


織田は荒木の乱を鎮圧できず、本願寺包囲も長年膠着している。

その現実は、摂津・大和の国人たちの織田離れを加速させた。


池田知正をはじめとする摂津国人衆、大和の地侍、尼崎・大物の国人、兵庫津の商人たち――。

彼らは皆、「毛利、長宗我部が来れば織田は負ける」と理解し始めていた。


国人は噂に弱い。


「毛利が動くらしい」

「長宗我部が摂津に来るらしい」

「佐久間が動かぬのは両家を恐れているからだ」


その噂の大元は、もちろん松永である。


加えて本願寺の下間頼廉が動いた。

中川清秀、高山右近といった織田派勢力拠点を門徒衆、国人衆を率いて襲撃した。


彼らは包囲戦をやるどころか、自分達が門徒衆によって狩られる立場に変わっていることを悟った。

尼崎・大物の国人、兵庫津の商人に対しても、下間頼廉は圧力をかけた。


完全に毛利・本願寺派に兵庫が落ちた。

痩せ細った本願寺の補給線が一気に回復する。


秀政を強く警戒する下間頼廉は、松永が大和の国人に強い影響力を持つことを利用して、大和国人に対して「松永側の後方支援」を指示した。

芋粥軍が大和へ入ると、大和国人たちは松永につくべきか、秀政につくべきかで揺れた。


だが秀政は、「戦わずに通る」ことを選んだ。


芋粥軍は国人領を荒らさず、ただ淡々と進む。


国人は判断できず、松永へ援軍を送ることもできない。


どっちつかず――その曖昧さが、今は秀政にとって都合が良かった。



やがて芋粥軍は信貴山城の南側に本陣を敷いた。

秀政は陣中から、山上の城を見上げた。


(俺の知る史実では、松永は包囲されて数日で、援軍がないことを憂いて自爆した)


秀政は頬を指で掻き、静かに俯いた。


(だが、さすがに今回は状況が違う。

 俺が松永でも、まだ悲観するような段階ではない)


信貴山城は、本来なら一年でも二年でも籠れる堅城である。

援軍が来る可能性も高い。

あるいは織田が勝手に自滅する可能性すらある。


秀政はそれを理解していた。



城内では、松永久秀が秀政の本陣を見下ろして笑っていた。


「討ちに来たは、あの小憎たらしい芋粥か。

 せいぜい囲っておるが良い」


松永は山風を受けながら、ゆっくりと城壁を叩いた。


「儂は一年でも二年でも籠ってやる。

 さすれば毛利も長宗我部も来る。

 摂津は落ちる。

 国人は離反する。

 織田は崩れる」


そして、その先にある未来を確信するように言った。


「――儂は勝って、大和を手に入れる」


その声は、信貴山の山肌に吸い込まれていった。



四月上旬。

秀政は念のために、松永に向けて降伏勧告を行った。


「平蜘蛛茶釜と信貴山城を手放せば命は助ける」


信長から受けた意向をそのまま伝えた。


信貴山城の天守で、松永は勧告の文を読み終えると鼻で笑った。


「……平蜘蛛を渡せば命を助ける、とな?」


文を握りつぶし、城壁を指で叩く。


「芋粥よ。

 儂がこの城を捨てると思うか?

 この平蜘蛛を、信長や其方に差し出すと思うか?」


松永は城内の家臣たちに向けて声を張った。


「返答は一つでよい。

 ――断る、だ」


そして、秀政に届くように、山風へ向けて言葉を放つ。


「儂は何年でも籠る。

 毛利も長宗我部も来る。

 摂津は落ち、国人は離反し、織田は崩れる。

 その時、天下の笑い者となるは――お前だ!」


平蜘蛛を撫でながら、松永は呟くように続けた。


「この茶器は儂の命より重い。

 儂は茶器を捨てて生き延びるほど安い男ではない。

 欲しければ奪いに来い。

 ただし――そう易々と奪い取れると思うなよ」



松永からの返答――「断る」。


その一言を読んだ瞬間、秀政は紙を静かに折りたたみ、深く息を吐いた。


(……まあ、そう来るよな)


「殿は平蜘蛛を諦めて下さるだろうか……」


(史実の松永は“孤立”していた。

 だが今の松永は“孤立していない”。

 だから降伏する理由がない)


秀政は指先で机を軽く叩いた。


(つまり――この世界線の松永は、史実よりずっと強い。

 史実よりずっと自信がある。

 史実よりずっと諦めない)


秀政は苦笑した。


(……いや、だが、なぜかお前は平蜘蛛と共に爆死する気がする)


秀政は文を机に置いた。


「……歴史は、やっぱり簡単には変わらないか。

 長政、政親、鷺山を呼べ」



三人が秀政のもとに現れる。


「なぁ、この状況をどうすると良いと思う?」


秀政がぼそりと呟いた。

その表情を読み取り、政親が苦笑した。


「ふふ、義兄上はどうするかは既に心に決めておられますな」


秀政が怪訝そうに返す。


「ん?分かるのか?気持ち悪い奴だな。

 人の心を読むな」


政親が黙って手を広げて困った顔をした。


「まぁ、策はあるにはある。

 長政、鷺山、お前ならどうする?」


急に振られて長政と鷺山が困った顔をした。


長政は困った顔をしながらも、秀政の問いに真正面から向き合う。


「……まずは、城を締め上げるべきかと。

 山道を封じ、兵糧を断ち、松永が援軍を待つ余裕を奪うのが常道でしょう」


少し考えて、続ける。


「それと、摂津の国人を揺さぶる。

 池田殿や中川殿が松永に付けば厄介です。

 逆に彼らが動かなければ、松永は孤立します」


長政らしい、“正攻法+国人対策”という堅実な答え。


だが秀政は内心で思う。


(……まぁ、そうだよな。普通はそう考える)


一年でも二年でも籠る松永を、真正面から攻めるつもりか。


一方、鷺山は腕を組み、信貴山城を見上げながら静かに言う。


「……松永殿は援軍を確信しておられる。

 毛利、本願寺、長宗我部、荒木……

 どれか一つでも動けば、摂津は崩れます」


秀政が頷く。


鷺山は続けた。


「ゆえに、援軍を“来させぬ”ことが肝要かと。

 毛利には摂津が既に包囲されたと流し、本願寺には松永落城の噂を流す。

 長宗我部には四国攻め延期の情報を与える」


政親はうっすらと笑った。「甘い」とでも言いたげだ。


「そして、松永殿の心を折る。

 援軍が来ぬと悟れば、あの爺さんは必ず動揺します」


鷺山らしい、“情報戦+心理戦”の回答。


秀政は内心で思う。


(……鷺山はやっぱり頭がいいな。

 でも、今回はそれすら間に合わないんだよな)


「俺の策は――こうだ」

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― 新着の感想 ―
以前は仏罰ということにしたものの、大砲で吹っ飛ばしたら済む話なのでは。
松永と荒木、史実より強力な分末路もド派手に……いや二人とも史実で大分酷い結末してたっけ…芋殿が深入りしなかった方面は大体史実寄りに落ち着く感じでしょうか 松永討伐に時間をかけられないとすると、松永が…
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