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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十四章 織田家宿老編

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第二百二十話 宿老

第十四章 織田家宿老編 開幕

挿絵(By みてみん)

虎王丸が瀬戸内を駆けたあの日から、織田家の海は一変した。


九鬼水軍は虎王丸を従え、伊勢・志摩・摂津を結ぶ海路を護衛し続けた。

虎王丸のおかげで、堺周辺に配した九鬼水軍は村上水軍との争いを避けることができた。

不戦勝である。


毛利の密航船は、闇に紛れて本願寺へ兵糧を運ぼうとしたが――

そのたびに九鬼の小早が影のように迫り、容赦なく叩き落とした。


虎王丸が瀬戸内に座している間、村上水軍は反撃に出られない。

一部の海は織田のものとなり、本願寺の兵站にもついに翳りが見え始めた。


もちろん完全ではない。やっと一本串を通した程度だ。

だが――膠着していた摂津の冬は、確かに動き始めていた。



そして年が明けた。


天正七年正月三日。

安土城・大広間。


新年の軍議にふさわしく、広間には織田家の中枢が勢揃いしていた。


織田信忠。

柴田勝家。

丹羽長秀。

明智光秀。

羽柴秀吉。

滝川一益。

佐久間信盛。

そして――芋粥秀政。


秀政は列の端に控えながら、静かに息を整えた。

虎王丸の功は確かに大きい。

だが、信長が機嫌良く軍議を始めるなど、誰も思っていない。


やがて、信長が入室した。

その足音だけで、広間の空気が張り詰める。


信長は席に座ると、冬の冷気のような声で口を開いた。


「皆、よく集まった。

 ……皆の働きを振り返る」


広間の空気がさらに重くなる。


「去年は織田にとって正念場であった。

 本来なら今年が飛躍の年となるはずだったが――

 結果は例年と大して変わらぬ。情けなき話よ」


信長はまず北陸へ視線を向けた。


「北陸。あの上杉謙信が死んだ。

 待ちに待った絶好の機会であった」


柴田勝家がわずかに身を正す。


「だが、謙信の養子・上杉景勝が跡を継ぎ、盤石な継承を行った。

 今は柴田、丹羽の軍勢が上杉を押している。

 しかし――思ったほど崩れておらぬ」


信長の声は低く、鋭い。


「景勝という男、謙信とは質が異なるが侮れぬぞ」


丹羽が黙って頷いた。


信長は次に信忠、滝川の方へ視線を移す。


「武田攻めは良い。

 三郎たちが確実に武田を押しておる。

 徳川殿が南から武田領を食いちぎるように侵しているため、武田は徐々に弱っておる。

 織田も負けてはおれぬぞ」


信忠と滝川が軽く頭を下げた。


そして――信長の視線が西勢へ向いた瞬間、広間の空気がさらに冷えた。


「西が悪い」


佐久間信盛と明智光秀の肩がわずかに強張る。


「右衛門と日向守が亀のように縮こまり、本願寺攻めに何一つ進展がない。

 挙句の果ては憎き荒木村重の反乱だ」


信長の声は怒気を含んでいた。


「羽柴、明智の両軍団をもってしても、未だ荒木を落とせていない。

 荒木村重がしぶといことは分かっているが――いい加減に何とか致せ!」


秀吉が深く頭を下げ、光秀は静かに目を伏せた。


「右衛門も縮こまっておらずに、本願寺に対して何かしら出来る手を打て。

 語るも愚かしい状況よ」


広間の空気は重く沈む。

だが――信長は次の言葉で空気を一変させた。


「……だが、筑前守、伊勢守の両将は目を見張るものがある」


秀政はわずかに息を呑んだ。


「筑前守は荒木攻めで奴を追い詰めながらも、背後で播磨の調略を完成させつつある。

 二つの仕事を一つずつこなすは誰でも出来る。

 だが二つを同時にこなすは器用なものよ。褒めてつかわす」


秀吉は驚いたように目をぱちくりさせ、慌てて深く礼をした。


信長は続けた。


「そして伊勢守」


秀政の心臓が一度強く跳ねた。


「本願寺攻めが膠着するなか、織田水軍を完成させて、一気に毛利水軍を打ち破った。

 あのガレオン船――虎王丸の見事な戦いぶりは褒めて余りある」


広間の視線が一斉に秀政へ向く。

秀政は静かに頭を下げた。


信長はゆっくりと立ち上がった。


「よって、今年の目標を定める前に、一つ行うことがある」


広間の空気が張り詰める。


「既に中国攻め軍団長ではあるが、筑前守にその責に見合う格を与える。

 本日より羽柴筑前守を織田家宿老に加える」


秀吉は目を丸くし、次の瞬間、畳に額がつくほど深く礼をした。


「は、ははっ! ありがたき幸せにございまする!!」


信長は秀吉の礼を受け流し、次に秀政へ視線を向けた。


「そして――伊勢守」


秀政の背筋が自然と伸びた。


「お前も織田家宿老に格上する。

 より難しい任を与える故、覚悟致せ」


広間がざわめいた。

秀政は深く、深く頭を下げた。


「……はっ。身命を賭してお応えいたします」


虎王丸の海戦は、ついに秀政を織田家宿老へ押し上げた。



秀政への宿老任命が告げられた瞬間、広間の空気がわずかに揺れた。


既に宿老格である右衛門と日向守が、互いに視線を交わしながら複雑な表情を浮かべる。


下から二人が昇ってきたこと――そして自分たちが信長から「亀」と断じられたこと。

その両方が胸に刺さっていた。


だが信長は二人の心中など意に介さず、今年の目標を淡々と告げ始めた。



「まず北陸勢」


信長の声が広間に響く。


「能登を完全に治めよ。

 越中を切り取り、越後へ迫れ。

 上杉景勝はいずれ強大になる。

 今のうちに削れるだけ削れ」


「「お任せあれ!」」


柴田と丹羽が応じて、深く頭を下げた。


「次に武田勢」


信長は信忠と滝川へ視線を向けた。


「勢いに乗って信濃を切り取れ。

 徳川殿に任せるな。

 織田だけで武田を潰せると見せつけよ。

 織田が武田を取る意志を示し、徳川には北条を切り取るように仕向けよ」


「「はっ!」」


信忠と滝川は力強く返事をして、頭を下げた。


信長は続けて西勢へ視線を移す。


「筑前守、日向守」


秀吉と光秀が身を正す。


「さっさと荒木村重の首を持ってまいれ」


秀吉は深く頭を下げ、光秀は静かに目を伏せた。


「筑前守はその後、再び中国攻めに戻り、播磨を完全に手中に収めよ」


秀吉は不敵に笑って頷いた。


「“宿老の”猿めは一味違いますぞ!

 お任せくだされ!」


「筑前、調子に乗るな!」


鼻で笑いながらそう告げた後、信長はすぐに右衛門へ鋭い視線を向けた。


「右衛門。今すぐ本願寺に圧をかけよ。

 日向守が荒木攻めから戻ったら、すぐに本願寺を降せ」


佐久間は苦い顔で頭を下げた。


そして――信長の視線が秀政へ向く。


「伊勢守」


秀政は膝を正し、深く頭を垂れた。


「四国方面軍団を新設する。

 長宗我部と全面対決する。

 伊勢守、お前がその軍団長だ」


広間がざわめいた。


「織田家宿老として、この大任、果たしてみよ!」


秀政は胸の奥が熱くなるのを感じながら、深く礼をした。


「……はっ。身命を賭してお応えいたします」



その瞬間、右衛門が驚いたように声を上げた。


「お、恐れながら……!

 伊勢守は我が本願寺西方軍団の副将にて……!」


信長はピシャリと否定した。


「右衛門。お前では伊勢守を扱いきれぬ」


広間が静まり返る。


「伊勢守が抜けた穴には、副将として松永久秀を付ける。

 あいつは摂津をよく知る男だ」


秀政は心の中で呟いた。


(あ……松永久秀、まだ生きていたのか。

 まぁ、佐久間のお守から俺は逃げられたわけだが……

 可哀想に。松永にはきっと耐えられまいな。


 あいつは攻めの将。

 守りの右衛門殿とは水と油……ご愁傷様)


佐久間は顔を引きつらせたが、信長の言葉に反論できるはずもなかった。



「以上だ。皆、今年も全力で働け。

 今年こそ、織田が天下を握る年とせよ!」


そこまで言い切ると、信長は立ち上がり颯爽と立ち去った。

広間の空気が一気に緩んだ。軍議は終わった。


秀政は静かに息を吐いた。


虎王丸の功は、ついに自分を宿老へ押し上げ、

四国方面軍団という新たな戦場を与えた。


(……どうやら高野山は避けたな。しかも四国遠征。

 大舞台、腕が鳴る。


 だが、相手にするのは土佐弁のあの男だ。

 かつて対峙した姿が脳裏から離れない。

 手放しでは喜べないな)


秀政はそう心の中で呟きながら、安土城の大広間を後にした。


その背中を見つめる三つの目があった。


同時に宿老に出世した秀吉。

改めて秀政を脅威と認識した光秀。

自身を支えると信じていた者に見捨てられた信盛。


織田家重臣の思惑が交差する。

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― 新着の感想 ―
ここの長宗我部さん強いから副将も気になりますね。 そういえば明智(斎藤)との婚姻はないのかな? となると、長宗我部、波多野関連のプラグはなさそうですが、明智君より、佐久間さんにビンビンに立っている気が…
秀政は、まさか山内一豊の真似して相撲大会を開催して種崎浜の一領具足虐殺なんてしないですよね でも、秀政、幕末維新の頃の土佐藩を知っていたら、わざとどぎつい上士,下士、郷士の制度作るかも そうしないと坂…
殿様直々の配置換えなのに〝見捨てられた〟ってw 佐久間さんの逆恨み案件か?
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