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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十三章 伊勢太守編(本願寺膠着編)

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第二百七話 軍議を動かす者

評定の間に重苦しい沈黙が落ちていた。

佐久間と光秀の言い争いは、もはや互いの意地と面子のぶつかり合いに変わり、

軍議は完全に停滞していた。


その空気を切り裂くように、政親が静かに膝を進めた。


「主・秀政に代わって、発言をお許しください」


その声音は落ち着いていたが、

場の全員が自然と耳を傾けるだけの重みがあった。


政親はまず佐久間へ向き直り、恭しく頭を下げた。


「まず、関所について申し上げます。


 門徒のすり抜けが出るのは……

 これは、どれほど優れた将であっても避けがたいことでございます」


佐久間の眉がわずかに動く。

責められるのではない、と察したのだろう。


政親は続けた。


「そもそも総大将たる佐久間様が、

 関所一つ一つの位置まで逐一ご覧になるのは不可能にございましょう。


 総大将には総大将にしか見えぬ“高みの視点”がある。

 末端の細事まで気を配られていては、

 本来の大任を果たせませぬ」


秀政は内心で舌を巻いた。


(なるほど……そういう論点か。

 “佐久間殿の責任ではない”と明確に言っているようなものだ)


案の定、佐久間の表情はわずかに和らいだ。

自尊心を傷つけられていないと分かったのだ。


政親は今度は光秀へ視線を向ける。


「明智様の仰る“改善点”も、確かに理に適っております。


 しかしそれは佐久間様が、

 “末端まで手が回らぬほどの重責”を担っておられるからこそ、

 生じた隙でございましょう」


秀政は心の中で頷いた。


(明智殿の正しさを認めつつ、

 佐久間殿の責任ではないと再度強調したな)


光秀はわずかに目を細めたが、敢えて反発はしなかった。

少しのひっかかりはあるが、

これで佐久間が動くなら些事に拘らぬと決めたようだ。


政親はそこで、ゆっくりと場を見渡した。


「そこで一案にございます」


評定の間の空気がわずかに動く。


「これより先、

 関所の配置・巡邏の増強・村々への触れといった“実務”は……」


政親は秀政を一度見た後、はっきりと言い切った。


「我ら芋粥家にお任せいただけませぬか?


 佐久間様には、総大将として“全軍の統御”という大任に、

 専念していただきとうございます。


 末端の調整は、我らが責任をもって遂行致します」


その言葉は、佐久間の面子を守りつつ、

光秀の正論を実行に移すための“唯一の道”だった。


佐久間はしばし黙し――

やがて、ゆっくりと息を吐いた。


(なるほど。

 自らの落ち度ではない。


 総大将ゆえ目が届かなかっただけか。

 芋粥家が手伝うというなら、任せればよい。


 そして何より――

 総大将としての格は守られる)


そのことに気づいた佐久間の表情は、

先ほどまでの険しさを少しだけ解いた。


「よかろう。任せる」



さらに政親は続ける。


「明智様、外郭攻めに関してです。


 佐久間様の仰ること、もっともにございます。


 門徒の反撃は確かに脅威。

 西方軍団がその矢面に立つこと、

 我らも重々承知しております」


佐久間は満足げに頷いた。


「しかしながら、外郭を放置すれば、

 本願寺は永遠に締まりませぬ。

 

 海路補給がある以上、陸路を完全に封じ、

 外郭を削るほかございませぬ」


怪訝な顔をした佐久間へ、明智が侮蔑の視線を向ける。


「そこで一案。

 外郭攻めは“明智殿が主力”となり、

 西方軍団は“押さえ”に徹していただく。

 反撃があれば、我らが援軍として駆けつけましょう。


 明智様は丹波にて、

 このような状況で見事なまでの戦果を挙げられております。

 此度もお任せすれば、必ずや果たされましょう。

 

 佐久間様のご負担は最小限に、しかし戦線は確実に動く。

 いかがでしょうか?」


「良かろう、危険を全て東方が見るならやってみるが良い。

 自らの浅慮を思い知るには、一度失敗してみるのが、

 最も学びの種となろう」


光秀はその物言いに不快感を隠さなかったが、

ようやく得た許可に黙って頭を下げた。


「果たして見せまする」


今が畳み掛ける好機と見て、政親はさらに国衆についても意見した。


「明智殿の攻略に沿って、佐久間様は国衆の調略を進めてください。

 一気に外堀を埋めることができます」


「いや、それはやり過ぎじゃ。

 先にも言った通り、国衆を引き抜いての力攻めは最終段階だ。

 まずは締め付けをやるまでよ。


 伊勢介、おぬしの戦略眼はなかなかのものであるが、まだ若い。

 血気盛んなるは若さの特権ではあるが、

 少しは自重せよ」


「は、出過ぎた真似を申しました。

 肝に銘じます」


そこで秀政もようやく口を挟んだ。


「これにて大筋は決まりましたな。

 明智殿、外郭の奪取をよろしくお願い致す。

 そして高山殿・細川殿による京方面の封鎖も抜からず実施いただきたい」


明智は幾分表情を緩めて答えた。


「もちろん心得ておる。

 任されよ。


 伊勢守殿の参陣によって、ようやくこの戦線にも動きが出せそうだ。

 腕が鳴る」


「惟任、あまり無茶はするなよ。

 東方の不備は我ら西方にも被害を及ぼすことを忘れるな?」


「承知した。

 西方には一切、迷惑はかけぬ。

 好きにやらせてもらうぞ」


「ふん」


二人の間はまだまだ冷たい壁が反り立っている。

だが、ようやく一手、進んだ。



そして流れに乗って、秀政も提案に回る。


「皆々様、もう一つだけ申し上げたいことがございます。


 外郭攻めが動き、陸路封鎖が整うのであれば……

 次に必要なのは“兵站の整備”にございます。


 戦は兵糧が尽きれば、

 どれほどの名将であろうと動けませぬ」


佐久間が眉をひそめる。


「兵站は既に我らが管理しておるが?」


秀政は柔らかく微笑む。


「もちろん存じております。

 しかし此度は、外郭攻めの主力が明智殿。

 陸路封鎖の実務は我ら芋粥家。


 であれば、

 兵站も“攻める側”が一元的に握った方が、

 戦線の動きが格段に良くなりましょう。」


光秀がわずかに目を見開く。


(攻める側が兵站を握る……丹波攻めと同じだ)


秀政は続ける。


「幸い、我らは兵站が得意な家。


 湊の物流、兵糧の集積、

 船手の調達に至るまで熟知しております。


 外郭攻めを円滑に進めるためにも、

 我が芋粥を兵站奉行として置き、

 明智殿の軍へ優先的に兵糧を回す体制を整えとうございます」


(今回は明を連れてきている。

 明ならば間違いなく、ここの誰よりも上手くやれる。


 この戦、長引くのは必定。

 ならば出費を抑えねばならん)


明智がすぐに同意する。


「それは名案でござる。

 伊勢守殿の兵站の実力はこの織田一、

 いや、日本一といっても過言ではあるまい。


 佐久間殿、いかがであるかな?」


佐久間もこれには反対せずに同意した。


「儂も伊勢守のことは買っておる。

 伊勢守であれば、何一つ心配はない。


 任せる」


「は、ありがたき幸せ。

 お任せあれ」


そして佐久間が軍議を締める。


「かくの通りだ。

 各々、今年こそは本願寺を落とす。

 

 力を尽くせ!」


「「は!」」


(政親、でかした!

 お前の功績は大きい。

 あの状況でここまで結論だせたのは奇跡に近いぞ)

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― 新着の感想 ―
政親、外回りさせた甲斐がありましたね。 だいぶ利害調整で苦労したのではないかな。 芋粥にいたら一度の会議で即決できるのに、ダラダラとのばされたり、面子のために否決されたりしたのかな。 調整能力にも秀で…
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