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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十三章 伊勢太守編(本願寺膠着編)

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第二百六話 噛み合わぬ歯車

軍議は、総大将・佐久間信盛の低い声から始まった。


花隈城の評定の間。

冬の冷気がまだ残る空気の中、

佐久間は上座にどっしりと腰を下ろし、

集まった武将たちを見渡した。


「よく集まってくれた。

 伊勢守が参陣したことで、戦略の幅が広がろう。

 そのことについて論じたい」


その言葉に合わせて、秀政が静かに前へ進み出る。


「皆々様、お待たせ致した。

 早速ですがご確認したい。

 この本願寺攻め、為すべきことはそう多くはござらぬ。

 いきなり攻める訳にはいかぬ。

 そうなると、まずやらねばならぬのは……

 陸路の完全封鎖と外郭の切り取り――すなわち兵站圧迫です」


秀政は周囲を見渡し、まず光秀へと視線を向けた。


「明智殿。

 京都側の陸路を封鎖し、高山殿・細川殿と連携して

 大坂から京都の物流を断つ

 ――これが上策と心得ますが、状況は如何に?」


光秀は苦々しい表情で答えた。


「やるべきことは理解している。

 だが……佐久間殿の制止で何も進んでおらぬ」


秀政は眉をひそめた。


「制止……?」


佐久間が腕を組み、鼻を鳴らす。


「下手な陸路封鎖は門徒を刺激する。

 長島と同じ轍を踏むか?

 奴らに海を制されている以上、海からの流れは止められぬ。

 つまり物流を完全には断てぬのだ。

 よく毛利の動きを見てからにせよと申しておる」


光秀は冷ややかに言い返した。


「お分かりかな?

 そのため封鎖とは名ばかり。

 全く物流は止まっておらぬ。

 高山殿も細川殿も動きづらくて、困り果てておる」


秀政は心の中で舌打ちした。


(案の定だが……最悪だな)


「それでは何も進みませぬな。

 ならば明智殿、外郭の切り取りは?」


光秀は鼻で笑った。


「これもだ。何も進んでおらぬ。

 佐久間殿の許可が出ぬ」


秀政は思わず問い返す。


「な、何ゆえ?」


佐久間は当然のように答えた。


「外郭を攻めれば門徒が反撃する。

 西方軍団が矢面に立つことになる。

 海路補給がある限り無意味だ。

 無意味な損害ほど馬鹿らしいことはあるまい」


秀政は心の中で深く息を吐いた。


(動かぬことの方がよほど馬鹿らしい。

 損害を出して殿から叱責されるのを怯えておるな……

 これでは光秀殿の得意分野が、

 味方によって完全に封じられているようなものだ)


その時、政親が静かに膝を進めた。


「御無礼仕る。

 伊勢守の義弟、副将の千種伊勢介政親にござる。

 発言をお許しいただきたい」


佐久間が顎をしゃくる。


「申せ」


政親は落ち着いた声で続けた。


「それならば、摂津国衆の調略が上策かと考えますが、如何に?」


光秀がすぐに答えた。


「それも進んでおらぬ。

 佐久間殿の御意見だ。

 “国衆を刺激するな”と。

 攻め手が見つかった時に調略すればよい。

 仮に今、調略が成功したとしても、

 攻めあぐねている織田の姿を見せればすぐに寝返られる。


 そういうことだそうだ」


佐久間は頷いた。


「その通りだ。奴らは強さを見せ続けねば織田に付かぬ。

 半端な調略は逆効果よ」


政親は一歩踏み込み、佐久間へ向き直る。


「それでしたら佐久間様はいかがでしょうか?

 大阪平野側の陸路を封鎖していただければ、

 門徒の出入りは止まり、物資の流入を圧迫します。


 これは戦の常。そこまで門徒に刺激は与えますまい。


 海上補給があるのも仰る通りですが……

 やらないよりはましと存じます」


佐久間は鼻で笑った。


「伊勢介よ、その策は既に取っておる。

 我が方は大坂平野の要所に番所を置き、

 門徒の往来を厳しく改めておるわ。

 出入りは大いに減ったはずだ」


光秀が冷たく告げた。


「……佐久間殿。

 その“番所”とやら、

 門徒は皆、夜陰に紛れて抜けておりますぞ」


佐久間の目が見開かれた。


「なに?」


光秀は淡々と続ける。


「番所の位置が悪い。

 街道筋に置いても意味がない。


 門徒は堤防沿いや農道を使っております。

 あれでは封鎖とは申せませぬ」


秀政は心の中で呻いた。


(正論だ……だが言い方が悪い。

 これでは佐久間殿には通じぬ。

 いや、逆効果だ)


光秀はさらに畳みかけた。


「封鎖を名乗るなら、

 堤防の要所に柵を設け、夜間の巡邏を倍に増やし、

 村々に“門徒を匿えば処罰”と触れを出すべきです。


 今すぐ堤防沿いに三つ、農道に二つ、

 追加の番所を置かれよ。

 これでようやく封鎖と呼べる」


秀政は頭を抱えたくなった。


(明智殿……こういう場合、命令してはいかんのだ!

 上の者を動かすには“コツ”が要る)


案の定、佐久間は不機嫌に顔を歪めた。


「……ふん。

 光秀殿は口では何とでも申せる。

 堤防沿いは湿地が多く、兵を置けば病を出す。

 農道は細すぎて番所を置く意味がない。

 それに村々を脅せば反発を招くわ」


秀政は心の中でため息をつく。


(ほら、みろ。

 屁理屈で拒否してきた……。


 人とはそういうものなのだ。

 特に“身分だけを持った男”に、

 上から物を申すのは下策も下策)


光秀は冷たく言い放った。


「病を恐れて封鎖ができぬとは……

 それでは永遠に落ちませぬぞ」


佐久間も負けじと返す。


「そなたの言うように、

 無茶をして兵を死なせるわけにはいかぬのだ。


 我らは畿内警固の任もある。

 軽挙は許されぬ」


二人の空気が一気に険悪になる。


秀政は慌てて割って入った。


「いや、お二方は共に正しきことを言っておる。

 今はその案をさらに磨くために、

 良い所取りをしようではありませんか」


光秀が眉をひそめる。


「ん?

 佐久間殿の案のどこに良い所があると言われる?」


佐久間も噛みつく。


「おい、無礼であろう。

 そなたの案こそ無謀極まりない。

 勇知と蛮勇を混同しているにすぎぬ」


秀政は両手を軽く上げ、二人をなだめた。


「まぁまぁ、熱くなってはなりませぬ。

 それではお二方の良策が下策に成り下がりますぞ」


しかし秀政の心中は冷や汗でいっぱいだった。


(これは……思ったよりも酷いな。

 この争いに巻き込まれれば、

 俺ですら“追放”の憂き目に遭うぞ……?)


評定の間には、

冷たい空気と、重苦しい沈黙が落ちていた。


政親は手で顎を撫でながら、必死に思考を巡らせている。

おそらく彼もこの状況が想定していた中での最悪だったと理解しただろう。


(確かに……長政を連れてきてもどうしようもなかった。

 だが政親であれば、あるいは折衷案を見出せるか?)


期待しつつ、政親の方を流し見る。


それに気づいて、政親は小さく頷いた。

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― 新着の感想 ―
光秀の言い方も直球過ぎるのかもだけど、こんだけ 「僕ちん何もしたくないでごじゃる~」 って言われてるとそりゃキレますよね…
政親君腹の内以外は本当に優秀なんだよなぁ… よくないイベント起こしそうなのは分かってるんだけど現状を乗り切る為に使わざるを得ないんだ
これは、人の悪意を良く知り、性格が終わっている政親(褒め言葉)の得意分野でしょうな。
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