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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十三章 伊勢太守編(本願寺膠着編)

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第二百四話 一段高みから見る者

その夜、秀政は政親を鈴鹿館の奥の間に呼んだ。

今度の戦いの大方針を決める高度軍議のためである。

学ばせるために長政も呼ばれていた。


障子が閉め切られ、外の気配すら届かぬ静寂の中、

秀政・政親・長政の三人だけが膝を突き合わせていた。


秀政は湯飲みを置き、低く切り出した。


「……秀吉が言うには、本願寺は今年は落ちぬ。

 明智殿も佐久間殿も攻めきれん。

 ならば俺は長宗我部で功を挙げ、

 本願寺攻略の“消極的”という悪評は二人に押し付ける――

 そういう手もある」


長政は目を丸くした。


「本願寺を攻めるためには、

 その背後に控える長宗我部を追い返す必要がある。

 西方の副将として、違和感なき動きと俺は考える。

 そして一万の兵があれば、長宗我部とも戦えるだろう」


政親は目を閉じ、しばし沈黙した後、静かに口を開いた。


「義兄上……一つ、申し上げたいことがございます」


秀政は顎を引いた。


「申せ」


政親は姿勢を正し、淡々と語り始めた。


「長宗我部は、にわかでは落ちませぬ。

 功を稼ぐという点では悪くありませんが、

 泥沼に足を踏み入れることになります。


 長宗我部は毛利と連携して動く気でおりますが、

 単独で泥をかぶってまで本願寺を救うほどの忠義はない。

 むしろ――毛利と対等を主張しようとしている」


秀政の眉がわずかに動く。


政親は続けた。


「毛利は表向き対等を認めておりますが、

 内心では長宗我部を下に見ております。

 両者は一枚岩ではないのです。

 もし義兄上が今、長宗我部に挑めば――

 蜂の巣をつつくようなもの。

 時期尚早にございます」


長政は息を呑んだ。

秀政は腕を組み、政親の言葉を噛みしめる。


政親はさらに踏み込んだ。


「それに、長宗我部戦は二年、三年の長期戦は避けられませぬ。

 勝てぬ戦ではない。

 しかし――兵糧の出費で伊勢が痩せ細る。

 これは芋粥家にとっても望む所ではありません」


秀政の目が鋭くなった。


政親は一歩、秀政へ身を乗り出す。


「ならば、毛利を羽柴殿が抑えている今こそ、

 長宗我部が来るようで来ないこの時期。

 その間に――

 本願寺を黙らせる策を練るべきです」


「明智殿と佐久間殿を動かす、

 ……その方法を第一に議論すべきか」


「はい。

 佐久間殿は動かぬ。

 ならば動かす舞台を作る。

 明智殿は優秀だが、東方だけでは手が足りぬ。

 義兄上が“西方の実質指揮”を握れば、

 本願寺は今年中に揺らぎましょう」


「それはもっともな意見だ。

 いつもお前は一段高みから物を見ることができるな。


 だがな、全てが佐久間だけの原因ではないぞ。

 足を引いているのは、明智殿も同じだ。

 あの方も何を考えているか分からぬところがある。

 優秀ではあるが、周囲との折り合いを付けるのは上手くない。


 事はそう簡単な話ではない」


長政はただ圧倒されていた。

二人の会話は、武勇の世界とは別次元の高さだった。


「そうですか。確かに難しい調整になりましょうな。

 最後の決断は義兄上にお任せします」


秀政は長く息を吐き、静かに頷いた。


「……いや。別にお前の考えを否定しているわけではない。

 長宗我部は落ちぬ。

 伊勢が痩せる。

 ならば本願寺を動かす方が早い。


 お前の考えには目から鱗が落ちたのも確かだ。

 秀吉め、もしかすると我らに長宗我部を牽制させて、

 毛利と連携されるのを防ごうと考えたのやもしれん。


 大きな方向性としては、まずは本願寺に当たろう。


 そして行き詰まった際に我らは長宗我部を討つという、

 逃げ道を残しておく」


政親は深く頭を下げた。


「はい。

 義兄上の武名は長宗我部でも上がりましょう。

 しかし家の利益を考えるなら、

 今は本願寺を動かすべき時にございます。

 

 全てを否定せずに美味い所を選ぶ……

 その義兄上の柔軟性は流石にございます」


秀政はしばし沈黙し――

やがて、静かに笑った。


「まずは本願寺攻めだ。

 佐久間殿を動かし、明智殿と連携し、

 西方戦線を俺が実質的に握る。


 難しいことだがこういう点では、

 政親、お前が頼もしいな」


「ご期待に添えるように全力を尽くします。

 では、まずあの二人の状況を把握するためにも、

 義兄上は一つ軍議で提案をしてください。


 これであの二人がどう動くかが見えます」


「正攻法の提案だな?

 陸路の完全封鎖と外郭の切り取り、兵站圧迫あたりか?」


「話が早くて助かります。

 佐久間様には大阪平野側の陸路を封鎖してもらい、

 門徒の出入りを止め、物資の流入を遮断してもらってください。


 その間に私が摂津国衆の離反を促します。


 明智殿には京都側の陸路を封鎖し、

 高山殿、細川殿と連携して大坂から京都の物流を断ちましょう」


秀政が渋い顔で返す。


「それくらい明智殿ならもう既にやっていそうだが?」


人を小馬鹿にするような笑顔で政親もそれに答えた。


「はい、それすらできていなかったら、この戦線は重症ですね。


 明智様には、さらに外郭寺院を一つずつ落としてもらいましょう。

 門徒の士気を削り、包囲網を狭める効果があります。


 そして佐久間様です。

 兵站路を断ち、本願寺の消耗戦を誘発します」


秀政も頷いて続ける。


「佐久間は攻める武将ではないが、

 押さえとしては優秀だからな。


 毛利の援軍は秀吉が遅らせてくれる。

 現時点で海路の補給線を押さえるのは厳しいが、

 陸路を封鎖すれば、それなりに締め付けられよう」


「はい、義兄上の仰る通りです。

 海路補給がある限り、本願寺は“焼き討ち”では落ちない。

 今は締め付けるしかないです」


「分かった。この提案で今の状況を探ってみよう」


政親は満足げに頷いた。



長政はこの会議では一言も声を発せられなかった。

それに気づいた秀政が優しく声をかける。


「どうした?」


「申し訳ありません。

 圧倒されております。私では役に立ちませぬ」


秀政は長政の肩を叩いた。


「長政。

 武勇だけでは足りぬ。

 

 これが大名の考え方だ。

 侍大将に比べて、もう一段上にある。

 

 ゆっくりで良い。お前も学んでいけ」


政親は無表情に続ける。


「まずは現場を見てみましょう。

 佐久間様と明智様がどれほど足を引きあってるか分かりませぬしな」


秀政は立ち上がり、二人を見渡した。


「そうだな。出発までしっかり準備致せよ」


三人の影が、

鈴鹿館の灯火の中で静かに揺れた。

あとがき


感想の返信用に芋粥家臣団を整理してみましたが、ネームドだけでも結構厚いですね。

20万石相当の大名家にしては十分すぎるほどだと思います。

文官の方が多くて有能そうなのが芋粥らしいです。

武官も軍団を任せられる部将格以上が少ないですが、下は育ってきていますね。


◆文官

=侍大将=

家老 千種政成

家老 芋粥悠

部将 千種政親

部将 南條利昌

部将 泉川清允

部将 荒木重直

部将 木曾与英

侍大将 神崎友清


=一般=

足軽大将 竹内秀明

足軽大将 田丸行房

足軽大将 市川雄一郎

足軽大将 杉野考太郎


役外 芋粥明

役外 芋粥蘭

役外 千種屋松之助

役外 安濃院 玄道(軍師僧)


◆武官

=侍大将=

家老 浅野清隆

家老格 村瀬兼良 (村瀬新陰流師範、兵法指南役)

部将 芋粥長政

部将 鷺山利玄

侍大将 日根野正勝

侍大将 白子潮勝

侍大将 河村正次

侍大将 大野清景

侍大将 ジョアン・デ・アゼヴェード

侍大将 浅野綾芽

侍大将 加治田正勝


=一般=

足軽大将 佐治政勝

足軽大将 火野正種 (鉄砲指南役)

足軽大将格 比自山実綱(一条流槍術師範、兵法指南役)

足軽大将 山田行重

足軽大将 堀田清友

足軽大将 森川頼武

足軽大将 中根正孝

足軽大将 員弁継正

足軽大将 霞

足軽大将 朧

足軽大将 凛

足軽大将 雫



◆伊賀忍 (ネームド)

阿拝清常

耀

聞き耳の市助

目利きの弥平

影潜りの霧隼

影走りの小太郎

薬師の於菟

艶狐のお凪

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