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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十三章 伊勢太守編(本願寺膠着編)

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第二百話 伊勢守凱旋

第十三章 伊勢太守編(本願寺膠着編) 開幕

挿絵(By みてみん)

九鬼嘉隆の船団が白波を切り裂きながら志摩の海へ入ったのは、

秋風が涼しさを帯び始めた頃だった。


紀伊遠征を終えた秀政一行は、

志摩で一日だけ休息を取ると、

すぐさま鈴鹿へ向けて足早に進軍した。


七ヶ月ぶりの帰還である。



鈴鹿へ到着すると、

城門前には家族と家臣たちが勢揃いしていた。


お悠が先頭に立ち、

明と蘭、そして松丸が並んでいる。


秀政が馬を降りると、

家族の顔が一斉にほころんだ。


「今戻った」


お悠が深く頭を下げる。


「おかえりなさいませ」


明と蘭が揃って声を上げた。


「「父様、おかえりなさいませ!」」


松丸も駆け寄ってくる。


「父上!」


秀政はその頭を順に撫で、

久しぶりの家族の温もりに目を細めた。


「皆、元気そうでよかった。

 無事、務めを果たして参ったぞ」


お悠が微笑む。


「はい、お疲れでしょう。鈴鹿館へ急ぎましょう」


「うむ」



鈴鹿館の上段の間に入ると、

城代として留守を預かっていた長政と、

補佐役の政成が控えていた。


長政が深く頭を下げる。


「義父上、おかえりなさいませ」


秀政は頷き、息子の肩に手を置いた。


「ただいま戻った。

 よく鈴鹿城を守ってくれたな」


長政は謙遜して首を振る。


「いえ、義父上に比べれば、

 私はまだまだにございます」


秀政が上座に座ると、

お悠や子供たち、浅野、鷺山ら重臣が次々と集まり、

部屋は温かな空気に包まれた。



秀政は皆を見渡し、口を開いた。


「此度の遠征で三介様は紀伊の大名におなり遊ばされた。

 その功で俺にも褒美をもらえたわ」


政成が目を細める。


「それはおめでとうございます。

 何を頂きましたか?」


秀政は満足げに頷いた。


「うむ。紀伊の勝浦の飛び地一万石を頂いた。

 義父殿、早速代官を派遣し、

 湊を南蛮貿易の拠点といたせ」


政成は思わず笑みを漏らした。


「それはそれは……勝浦ですか。

 この芋粥にとっては願ってもありませんね」


「うむ。それだけでも紀伊を切り取りにいった甲斐があるというもの。

 だがな、それだけではないぞ」


お悠が首を傾げる。


「そうなのですか?

 よほどの大功をお挙げになられましたのね」


秀政は胸を張った。


「まぁな。俺は従五位上の伊勢守に任ぜられた。

 今は芋粥伊勢守秀政だ」


政成が目を見開く。


「おぉ、それはようございます。

 これで伊勢の安定化が計れましょう」


村瀬が腕を組んで唸る。


「むぅ……鬼備前改め、鬼伊勢ですか?」


秀政は笑って首を振った。


「いや、俺は鬼を名乗らんよ。

 鬼備前は鬼備前のままだ。


 備前守は長政に継承することをお許しいただいた」


長政が驚きの声を上げた。


「は? 私が備前守ですか!?」


村瀬がにやりと笑う。


「若か……まぁ、見込みはあるな。

 鬼備前を名乗れるよう、

 稽古をもっときつくせねばいけませんな」


長政は村瀬を制し、秀政に向き直る。


「いや、村瀬。それはどうでもいい。

 それよりも私が父上の備前守を引き継いで良いのでしょうか?」


秀政は穏やかに頷いた。


「うむ、構わぬ。

 松丸はまだ元服もしていないしな。

 お前が一番相応しい」


松丸が不満げに手を挙げる。


「父上、俺は?」


秀政は笑って答えた。


「お前にはいずれ伊勢守をやるよ。

 俺はその頃には関白か内大臣にでもなるかな、ははは」


松丸は目を輝かせた。


「それは凄い! 父上ならなれまする!」


秀政は軽く手を振った。


「まぁ、よいよい。

 長政、伊勢の石高はどうなった?」


長政は帳面を開きながら答える。


「はい、二十七万石にはなりました。

 義母上が帳尻を合わせて、

 大殿には十四万石で報告してあります」


秀政は満足げに頷いた。


「そうか。引き続き石高を増やしてくれ。

 鬼兵や常備兵の数を増やすにはまだまだ心許ない。


 それでだ。

 来年にはおそらく石山本願寺攻めに参陣することになろう。


 十四万石ともなれば、

 一万四千の兵を要求されるやもしれん」


浅野が低く唸る。


「大軍ですな」


秀政は静かに言った。


「準備を今の内からしておいてくれ。

 米も集めておかねばならん。

 実際は兵一万ほど連れていくことになる。

 一万も一万四千もそう見栄えは変わらんだろう」


お悠が心配そうに眉を寄せる。


「とはいえ、一万ですか。

 それは大変です……」


秀政は肩をすくめた。


「皆には苦労をかける。

 俺はその代わりゆっくりできそうだがな。

 まぁ、勝負は年明けだ。それまで頼むぞ」


「「は!」」



言葉の通り、天正五年は大きな事件もなく、

ゆっくりと過ごしながら暮れようとしていた。


秀政が紀伊遠征で胃を痛めていた間、

織田家と芋粥家では様々な出来事が起きていた。


まず、信忠総大将と滝川軍団による武田攻めである。


滝川は千五百挺もの最高品質の鉄砲を揃え、

木曽福島の狭隘地帯で武田赤備えと対峙した。


秀政は長篠の再現を期待していたが――

結果はそれを裏切ることになった。


武田勝頼は史実よりも強固な体制で家督を継ぎ、

山県昌景、馬場信春ら重臣が健在であり、

穴山ら一門衆との均衡も崩れていない。


武田家中は史実より遥かにまとまっていた。


三段撃ちは大きな効果を上げたものの、

勝頼や、山県と馬場たち名臣たちの采配により、

武田軍は壊滅を免れ、秩序ある撤退に成功した。


この戦いでは一部の赤備えと、

山県、馬場を討ち取るという戦果を得た。


織田家中はこの二将を討ち取るという大勝利に沸いたが、

武田は兵力と威信を失いきることなく、

再び織田に向けて向き直った。


長篠を知る秀政だけは浮かない顔をしたという。



だが、悪い知らせばかりではない。


鷺山利玄の嫡男・道丸、

千種政親の嫡男・桂丸。


芋粥家の次世代を担う命が相次いで誕生した。

鷺山が大喜びしたことは言うまでもない。


十一月、政親が九州より帰還した。

島津への援助が成立し、

九州の勢力図に大きな影響を与えたためである。


帰還と同時に長政生存の報を聞いた政親は、

複雑な表情を浮かべたが、

自らの子・桂丸の誕生を聞き、

何とか溜飲を下げたという。


最後の大きな出来事として、

期間限定で伊勢に配属されていた、

羽柴秀長一行、加藤清正、福島正則は、

その役目を終えて、播磨の秀吉の元へと帰っていった。


そして年が明け――

天正六年が幕を開けた。



一月三日。

正月の岐阜城は、凛とした冷気に包まれていた。


城下の喧騒は遠く、奥の間へ続く廊下には、

新年の軍議に集まった武将たちの気配が静かに満ちている。


秀政は、年始の軍議に参加するため岐阜城に登城していた。

廊下を歩きながら、ふと見知った背中を見つける。


――明智光秀。


背筋を伸ばし、眉間に皺を寄せ、

何やら思案しているような表情だ。


秀政は小さく息を吐いた。


(ん? 光秀殿か。

 先に挨拶くらいしておくか)


軽い足取りで近づき、穏やかに声をかける。


「光秀殿」


光秀は振り返り、わずかに目を見開いた。


「ん? おぉ、これは備前殿。

 ……いや、今は伊勢殿でしたな」


秀政は軽く頭を下げる。


「明けましておめでとうございます。

 内々で殿から聞いておりまする。

 俺は副将として、石山本願寺攻めに参加すると」


光秀の眉がぴくりと動いた。


「副将?」


秀政は一瞬きょとんとした。


「ん? 聞いておりませぬか?」


光秀は首を横に振った。


「いえ、何も。

 儂の副将は細川藤孝殿と高山右近殿で、

 既に決まっておりますが」


秀政は固まった。


「は?」


光秀は困惑したように秀政を見る。


「伊勢殿……

 何か、違う話を聞かされておられるのでは?」


秀政の背筋に、冷たいものが走った。


(え?

 何やら話が違うぞ……

 嫌な予感しかしない!)


光秀はさらに言葉を続けようとしたが、

その瞬間、奥の間から家臣が顔を出し、声を張った。


「明智殿、芋粥殿、軍議の刻限にございます!」


二人は顔を見合わせた。

光秀はわずかに眉を寄せ、

秀政は胸の奥に不穏な予感を胸に、

奥の間へと歩みを進めた。

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― 新着の感想 ―
ノブ特有の合理でまた面倒な事態になるのかな? 本能寺フラグ&光秀からの敵対視とかなら、芋殿の胃が破れそう
これは、単純に戦果を華々しく上げると光秀に嫌われそうなやりづらいポジションでスタートかな? 関白か太政大臣かと風呂敷広げたのも、本能寺プラグが立っているようにもみえる不穏な空気。 本能寺は避けられない…
三介珍道中アゲイン?
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