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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十二章 伊勢太守編(秀政胃痛編)

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第百九十六話 妖の鉄砲兵

雑賀衆は明らかに動揺した。


彼らは一度戦場に立つと、

各々が隠れ、放ち、移動する。


一か所に止まらないため、鈴木佐太夫でさえ、

彼らの場所は把握できない。

そのため、彼らは戦場では、目的を達するまで、

独自で判断して行動する。


今も雑賀衆全員が同じ考えを持った。


(堺鉄砲衆以外にも鉄砲がいる!)


雑賀の狙撃手の中で一番若く身軽な者が、

ただ一人だけ動く。

他の者はじっと隠れたまま、芋粥の狙撃手の位置を探る。


何一つやり取りせずに、彼らは経験だけでそう動いた。


ターン。


雑賀が堺鉄砲衆の伍長を撃ち抜いた。

その若手は撃つと同時に身をかがめたまま、

素早く別の場所へ移動する。


常人では見分けのつかない忍びに似た動きだ。


タタターン。

ターン。

タターン。


それでも芋粥の狙撃隊は、

一斉にその若手に向けて銃撃を行った。


身を隠して移動していたにも関わらず、

複数弾命中して絶命する。


だが、音と煙で芋粥側の狙撃箇所は割れた。


雑賀衆は仇を討たんとして、一斉にそれらに銃口を向ける。


(さぁ、動け。

 動いた途端に蜂の巣よ)


瞬きすらせずに雑賀は煙の位置に目を凝らす。

人の動きはない。肉眼ではそこに人の影すら見えない。


(煙が残っている。

 そこから撃ったはずだ……。

 だが人の気配がない……もう動き終わったというのか)


しばらく静寂が流れる。


佐太夫は草陰に隠れながら焦っていた。


最初の銃撃で十人弱の雑賀衆が撃たれた。

完成した雑賀衆一人の命は農兵百人とは重さが違う。


強制的な撤退が頭によぎる。


佐太夫の傍にいた雑賀が隠れながら問いかけた。


「頭、どうしますか?

 敵にも、狙撃の達人が居るようです」


「うむ、敵の数も腕も、まだ測りかねる。

 退くことも視野に入れるが、もう少し探りたい」


タタターン。


タターン。


再び芋粥側から銃声が響く。


敵の位置を探ろうと少し身を乗り出し過ぎた雑賀衆が一斉に撃たれた。


再び数名が倒れる。

佐太夫の目に怒りが満ちる。


「おぉのれぇ!

 敵は動いていないだけやもしれん。

 隠れるのが上手いだけだ。


 その煙の位置を撃て!」


佐太夫の命を受けて、傍にいた雑賀衆が芋粥側の銃煙の傍を複数撃ち抜いた。


ターン。

ターン。

ターン。



「うぎゅっ!」


「ぎゃ!」


隠れていた白鬼狙撃手が撃ち抜かれて絶命する。


「あ、水菜!おぉのれ!よくも!」


隠れたまま、護衛役の白鬼がすぐに狙撃手へ切り替わる。



射撃後、移動して再び隠れた雑賀衆が、

先ほど撃ち抜いた草むらを見つめていた。


(手ごたえはあった。やはり動いてなかっただけか?)


ターン。


撃ち抜いた位置の近くから別の銃声と煙が上がる。


雑賀衆が頭を撃ち抜かれて崩れ落ちた。


驚いたのは雑賀衆だ。


一連の流れで芋粥側の鉄砲兵が動いた形跡が全くない。

それにも関わらず、別の近くの場所から反撃してきた。


狙撃とは一人で行うもの。

雑賀にとって、それは疑う余地のない常識だった。

ゆえに三人一組で役割を分けるという発想そのものが存在しない。


「か、頭。敵は妖だ。姿が見えませぬ、

 いや幽霊の類かもしれん。


 こちらの銃はすり抜ける。姿を隠して移動もする。

 これでは狙われるばかりですぞ」


さすがに鈴木佐太夫も顔をしかめる。


「妖の鉄砲兵か……。

 さすがの雑賀もそれでは分が悪いな」


タタターン。

タターン。


再び芋粥側から銃撃が行われて雑賀衆が倒れ伏していく。


タターン。

ターン。


雑賀も煙の立つ草むらに反撃するが、手ごたえはあれど動きがない。


ターン。


そうこうしていると再び、近くから反撃を受けて、

撃ち勝ったはずの雑賀衆が逆に撃ち抜かれた。


「間違いない、敵は妖だ。

 手応えはあれど倒れぬ。

 我らの弾はすり抜けたとしか思えぬ。

 しかも動きも透けて我らからは見えぬ。


 既にいくらやられた?」


「わかりませぬが、既に二十はやられたかもしれません」


「なんというか被害だ!

 妖には勝てん。

 退くぞ。撤退の笛を鳴らせ。


 これ以上犠牲を出すな」


ヒュー! ヒュー!


良く響く笛の音が戦場に響いた。

身を隠した雑賀衆が一斉に逃げに回る。


逃げに徹した雑賀を、

さすがの観測手でも追いきれなかった。



「退いたな。勝ったか。

 狙撃隊は念のため、まだ動くな


 堺鉄砲衆に残党狩りさせよ」


堺鉄砲衆が雑賀の潜んでいた箇所へ進み、

恨みを晴らさんばかりに、雑賀衆の止めを刺していく。


完全に敵の気配が消えたことを確認し、

堺鉄砲衆と鬼兵たちがようやく本陣に戻ってくる。


それを見て秀政が呟いた。


「状況が分からん。鬼兵の被害は出たのか?」


撃ち合いで鬼兵も確かに撃ち抜かれていた。

雑賀はそれを認識しなかっただけで。


この狙撃戦で白鬼四名、黒鬼二名が命を落とした。

だが雑賀衆も二十名近くを失った。


警告に来たはずの雑賀衆が、逆に警告を与えられたようなものだ。


織田にも狙撃の達人部隊がいると。


おそらくしばらくは再び襲いかかってくることはないだろう。

だが、信雄や秀政には早急にこの戦を終わらせたいという想いだけが募った。



そんな中、木本砦から火が上がる。

木本の旗が倒れ、織田の旗がはためいていた。


「林も見事、城を落としたか」


遠くに聞こえる勝鬨によって、信雄は安堵し腰が抜けて座り込んだ。


「ふぅ、戦とは恐ろしい物だな」

あとがき


雑賀の目から見た白鬼鉄砲兵です。

弾はすり抜け、姿は目に見えない。

妖が身近に(感じて)いた頃のこと。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
戦場の無慈悲さを三介様は理解できた これで仁政を布いてくれる方になったなのなら犠牲も報われるんだけど…
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