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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第九章 伊勢太守編(伊賀・大和攻略編)

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第百四十六話 竜田川二日目

夜の竜田川の川霧が薄く漂い、

焚火の赤い光が揺れていた。


秀政は地図を前に、鷺山と長政を呼び寄せた。


「明日はどうなると思う?」


鷺山が静かに答える。


「……頼廉はもはや退くかと。

 元よりこちらは兵が倍。


 狭所で兵を互角にして勝機を掴むつもりが、

 逆に押し込まれました」


長政も頷いた。


「私もそう思います。

 頼廉は名将とのこと。


 尚の事、割り切りも優れたるかと。

 “かかってくる振り”をしながら、

 安全に退く策を考えているかと」


秀政は二人を見た。


その目は、目の前ではなく先の戦を見ている。


「そうか。

 だが俺はそうは思わん」


鷺山と長政が顔を上げる。


秀政は、地図の一点を指で軽く叩いた。


「頼廉はな……並の知将ではない。

 あいつは、この戦国でも最上位の一人だ。

 筋の良いお前たちですら、そう考えるなら、

 奴は必ず裏をかいてくる」


二人の表情が変わる。

秀政は続けた。


「明日は――

 “こう来る”」


秀政が二人に何事かを説明する。


鷺山の目が見開かれ、

長政は息を呑んだ。


「……殿、それは……」


「確かにそれが一番芋粥には痛い」


「まあ、見ておれ」


秀政はそれ以上語らなかった。


焚火がぱちりと弾け、

夜は静かに更けていった。



同刻 本願寺陣営。


頼廉は、月明かりに照らされた林を見つめていた。


副将が近づき、声を潜める。


「頼廉様……。

 明日は、退かれますか?」


頼廉は首を横に振った。


「退かぬ」


副将が驚く。


「しかし……兵数は三倍。

 鬼兵は怪物。


 正面戦は……」


頼廉は薄く笑った。


「正面から戦うとは言っておらぬ」


そして、低く呟いた。


「芋粥の弱点は鬼兵以外だ。

 鬼兵は避ける。


 おそらく数合わせで連れてきた国人だけを刺す。


 刺して、刺して、刺し続ける。


 動き続け、まとわりつく蜂のようにな」


副将が息を呑む。


「……機動戦、ですか」


「そうだ」


頼廉は南の空を見た。


「南都から救援要請が来ている。

 無視はできぬ。


 だが芋粥と正面戦をする理由もない。


 ならば――

“削りながら南都へ向かう”。


 これが最善よ。


 伊勢の国人を使い捨てにしたと噂が立てば、

 奴の伊勢支配が崩れる。


 それは望むまい。

 そこで少しでも退く気配を見せるならば……。


 そこで突っ切って南都に合流だ」



副将が震える声で言った。


「頼廉様……。

 いけるでしょうか……」


頼廉は静かに頷いた。


「明日、仕掛ける。

 仏敵から逃げる訳にはいかぬ」


夜風が吹き、

頼廉の陣幕が揺れた。


秀政は“何か”を読んでいた。


頼廉は“逃げずに刺す”と決めていた。


互いの策は、まだ誰にも見えていない。

明日、頼廉が仕掛ける。



竜田川 二日目


夜明け前。


竜田川の川霧が薄く漂い、

芋粥軍の陣列が静かに整っていく。


だが、その姿は――

昨日とはまるで違っていた。



初戦、秀政はただ一つの事実を見逃さなかった。


頼廉が最後に狙ったのは“国人衆だけ”だった。

その瞬間、秀政は悟った。


「……明日、奴は鬼兵を避ける」


それ以上は語らず、夜のうちに必要な指示だけを出した。


何をしたのか、

鷺山も長政も知らない。


ただ、

翌朝の芋粥陣は“昨日と違う”

それだけが確かだった。



頼廉は夜明けと同時に物見を放った。


「鬼兵の位置を探れ。

 奴らのいる場所には絶対に近づくな」


物見は素早く散り、

程なくして戻ってきた。


「報告します!

 鬼兵、見当たりません!」


頼廉は眉をひそめた。


「……いない?

 そんなはずがあるか」


「はい。

 昨日の赤鬼・青鬼の姿はどこにも……

 前衛も後衛も、普通の兵ばかりで……」


頼廉はしばし沈黙した。


(……まさか、後方に下げたか?

 いや、あの秀政が鬼兵を温存する理由がない。


 ならば……)


だが結論は出ない。


「よい。

 鬼兵がいないなら、弱点だけを突く。

 昨日と同じだ」


本願寺軍は散開し、

竜田川の両岸を縫うように走り出した。


「頼廉様! 前方、敵兵!」


「よし、突け!

 鬼兵ではない、弱兵だ!」


僧兵たちが突撃する。


だが――

次の瞬間、

槍が弾かれ、

剣が折られ、

僧兵が次々と倒れていく。


頼廉は目を見開いた。


「……鬼兵だ」


副将が叫ぶ。


「頼廉様! こ奴等、左も鬼兵、右も鬼兵です!

 ――全く見分けがつきませぬ!」


「くそ……

 甲冑を脱いだか……!」


頼廉は悟った。


「……我らは甲冑で見分けをしていた。


 裏をかかれた」


昨日、国人衆を狙った自分の意図を、

秀政は完全に読んでいた。


鬼兵は――

ボロ胴丸を着て“弱兵に見える”ように偽装されていた。


逆に後方の農兵は戦う必要すらないため、鎧を着ていない。


頼廉は歯噛みした。


「……読まれた。

 完全に、読まれた……!」


一度、正面から当たらせた。


結果は――惨敗。

昨日の伏兵三百が蹂躙された時と同じ光景。


頼廉は拳を握りしめた。


「……駄目だ。勝てん。


 どれが鬼兵で、

 どれが弱兵かすら見分けがつかぬ」



副将が震える声で問う。


「頼廉様……どうされます……?」


頼廉は静かに言った。


「覚えておれ。

 今日は退く。


 これ以上やりあっても無駄だ。

 士気と練度が違いすぎる。

 犠牲を最小にしろ」


本願寺軍は、

南都にも本願寺にも向かえず、

ただひたすらに山道を使って撤退した。


南都との合流は叶わず。

松永との決戦も遠のいた。


本願寺が織田に敗れたという報は、

松永の士気を確実に押し上げる。


大和が織田に呑まれる危険が現実味を帯びる。


頼廉は最後に振り返り、

竜田川の向こうに立つ芋粥軍を見つめた。


「……おのれ芋粥。

 次は必ず仕留める」


風が吹き、

頼廉の陣幕が静かに揺れた。



「頼廉……危険な男よ。

 ここで討ち取るぞ。


 奴を本願寺に帰せば五年は決着が長引く」


秀政が勝ちを確信し、追撃を命じる。


潰走する本願寺を芋粥が追い立てた。


だが、その時、本願寺軍を庇うように一団が現れる。


その具足は不統一で、まるで野盗の様にも見えた。


「何奴?」


秀政が突如山間から現れた軍団に目を奪われる。


「あの旗印は……」


秀政の額に脂汗が浮かび、目が見開かれる。


「止まれ!

 小母衣、全力で前衛を止めよ!


 迂闊に争うな。


 あの旗印は長宗我部。


 最速で四国を統一し、最強の覇気をまとう――


 あれは一領具足、戦国最強の山岳部隊だ!」


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― 新着の感想 ―
初めて感想を書きます。 ここで長宗我部の参戦? てっきり大和国の次は本願寺&紀伊国だと思ってました。特に雑賀&根来衆の影に隠れながらも紀伊畠山家は松永(弾正が三好家臣の時から)とも繋がりがあるので。…
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