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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第九章 伊勢太守編(伊賀・大和攻略編)

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第百四十五話 竜田川初日

芋粥家は、那古野時代より兵農分離を徹底している。


二十万石の大名として六千の常備兵を持つことは、

この時代としては限界に近いが、

政成とお悠の手腕によって、辛うじて成立している。


すなわち兵の質は、他家とは比べ物にならない。


だが、秀政はそこに過酷な能力主義を新たに植え付けた。


六千の内、三千を鬼兵とする。

すなわち、常備兵の半数が選抜兵である。


赤鬼兵、黒鬼兵、青鬼兵は各千。


赤鬼兵は秀政・長政直属の精鋭集団であり、

村瀬や比自山によって認められた一騎当千の武芸者集団である。


黒鬼兵は浅野が大将を務め、騎馬術、鉄砲術、砲術といった、

専門技能を持つ者や、浅野によって認められた、

冷静沈着、死をも恐れぬ不屈の精神を持つ精鋭集団である。


青鬼兵は鷺山が大将であり、戦場によって鍛え上げられた

勇猛果敢な好戦的な精鋭集団である。


毎年、村瀬や比自山、浅野、鷺山が、戦功や訓練状況の査定により、

六千名の常備兵から入れ替えを行う。


即ち、鬼甲冑自体が芋粥軍の中では羨望と競争の象徴である。


芋粥兵は二十石扶持である。


鬼兵になるだけで、それが五石上乗せされる。


鬼兵足軽頭や鬼兵足軽大将になるとさらに扶持が増える。

それゆえ鬼兵は、その地位に留まろうとはしない。



この竜田には赤鬼兵と青鬼兵を連れてきている。


黒鬼兵は伊勢の守備にあたり、大砲砲手として連れてきた者たちも、

今は大砲と共に伊勢に戻った。


今ここにいる鬼兵は――

血に飢えた超攻撃的な芋粥最強の二千だった。


秀政はその軍勢を見渡し、静かに言った。


「今日は軽く当たるだけだ。

 深追いはするな。被害を抑えよ」


鷺山が頷く。


「承知しております。

 敵も様子見でしょう」


長政は槍を握りしめ、前を見据えた。


「父上、私も前へ出ます」


「無茶はするな。

 今日は“探り”だ」


秀政はそう言ったが、

長政の目には迷いがなかった。



午前。


両軍は竜田川を挟んで軽く衝突した。


槍が交わり、矢が飛び、

だが双方とも深く踏み込まない。


被害はわずかで、互いに探り合いの様相が濃い。


だが、時が経つほど動きが加わる。


「探りと殿は言われたが……。

 俺の青鬼どもはそういう半端な戦いが苦手なのだ」


そう呟くと槍を構えたまま、横にいる日根野が制止するのを聞かずに、

前線まで駆け出た。


そして槍を突き合う最前線にくると馬上から叫ぶ。


「行け!

 芋粥の最精鋭どもよ!

 青鬼兵の恐ろしさを、

 僧兵どもに思い知らせてやれ!」


その声を聴いた青鬼兵の目の色が変わる。

大将たる鷺山の目の前で武功を上げれば、

鬼兵の立場も安泰。


「おぉ!!」


それまでとは明らかに違う鋭さで槍が突き出される。

多少の怪我を顧みない猛烈な攻め。


“探り合い”のはずが、見る見る敵兵を討ち倒していく。


「行けぇ!行けぇ!」


鷺山の声が戦場に鳴り響いた。



「若、前に出過ぎです」


竹内が長政を制する。

だが、長政は敵の顔が見えるところまで馬を進めていた。


じっと前線の戦いを見つめる。


傍に控える佐治が馬上から弓を放つ。

乱戦の中、弓で長政を狙おうとした僧兵がことごとく射抜かれていく。


「そうです、若。危険です!」


矢を放ちながらも佐治が叫ぶ。


「ならぬ、戦を知らずして将足りえるや」


瞬きもせずに長政は前線で赤鬼兵に突き崩される僧兵を見つめる。


一息ため息を吐いた後、竹内が呟いた。


「それはそうですが……。今回きりですよ。

 大将ってのは普通、後ろでズンとしているものです」


そこまで言うと大きく息を吸った。


「赤鬼兵!何をしておる!


 若がここまで体を張っておられるのに、

 お前達は日和見か!」


竹内の叫びを聞いて、赤鬼兵たちが一斉に長政を見る。

その瞬間、雄たけびと共に突き進んだ。


今までと動きが一段変わる。

次々と僧兵が突き崩されていく。



「強いな……。

 赤備えを倒したというのも偽りではなさそうだ。」


頼廉が渋い顔のまま呟く。


「中央の赤鬼に一番押されている。

 左翼の青鬼どももなかなかやる」


頼廉が伝令に伝える。


「中軍、崩れたふりをして後退せよ。

 東の林まで誘い込め。


 中軍に合わせて右翼も徐々に後退。

 ただし前衛は防御に徹しろ。

 青鬼どもには好きにさせるな」


(あの林には兵が伏せてある。

 赤鬼どもを林から急襲し、

 混乱したところで三方から押し包む。


 多少の犠牲は仕方ない。

 あの赤鬼からまずは潰す)



「敵中軍、崩れました。後退していきます!」


長政が馬上から敵を見据える。


(敵は崩れた。追うか?

 いや、崩れ切っておらぬ。

 整然後退している。

 罠か?)


長政は歯を食いしばった。


「赤鬼兵、敵を追撃せよ!」


長政が命じると赤鬼兵が追撃に転じた。

それと同時に敵中軍は完全に崩れて撤退し始める。


「追え!」


(敵右翼も鷺山に押されて退き始めたか……)


長政は自分でも不思議なほど冷静に戦場を見渡していた。



「敵中軍、撤退。若殿、追撃に転じました」


小母衣衆が本陣の秀政に報告する。

秀政の顔色が一気に転じた。


「まずい!罠だ!

 頼廉はそんなに脆くはない!

 長政に伝えよ。深追いするなと」


小母衣衆が再び駆け出した。



中軍の赤鬼兵は逃げる敵兵を斬り倒しながら追った。


長政も馬上からそれを見つめながら追う。


(まっすぐ逃げておらぬ……)


その先をみる。


(林か……)


鷺山が追い立てる敵右翼も、中央寄りに後退していた。


長政が叫んだ。


「赤鬼兵!あの林には警戒せよ!」


竹内も声を合わせて叫ぶ。


「あの林には警戒だ!」


赤鬼兵たちは追い立てながら頷いた。



林の奥。

頼廉は伏兵三百を潜ませていた。


(南都と共に松永に当たる前に

 消耗は防がねばならん……。


 地道であれど、これが効く)


赤鬼兵が林の傍を通過するのを見て、

伏兵隊の隊長は手を上げた。


「今だ! 襲え!」


伏兵が一斉に飛び出す。


だが――

そこにいたのは、

村瀬と比自山が鍛え上げた 赤鬼兵。


剣豪隊、豪槍隊。

芋粥軍の“超精鋭”。


奇襲を受けたはずの赤鬼兵は、

一歩も引かず、むしろ前へ踏み込んだ。


長政が叫ぶ。


「来ると分かっておった!


 奇襲など、我らには通じぬ!」


赤鬼兵が一斉に反撃した。


本願寺軍の突き出す槍は、いとも簡単にかわされ、

間合いを詰められる。


あるいは、それよりも早く槍を突き返されて、

先に貫かれる。


伏兵は一瞬で崩れ始める。


「な……何だこいつらは……!」


「押し返せん……!」


伏兵三百は、

奇襲を仕掛けたはずが逆に蹂躙される。



報告を受けた頼廉は歯噛みした。


(読まれていたか……!

 しかもあれは精鋭……!

 多度で突き崩せなかったあの厚い壁か)


伏兵側の被害は大きかった。


「まずい!中軍を戻せ。

 踏みとどまれ!

 このままでは右翼がやられる。


 右翼は急速撤退!囲まれるな!」


矢継ぎ早に頼廉の指示を伝令が運んだ。



奇襲を退け、赤鬼隊が再び敵中軍に向き直る。


長政が叫んだ。


「反転!我らはこのまま青鬼兵と挟撃して敵右翼を殲滅する!」


竹内が目を丸くする。

だが、すぐに我に返って叫んだ。


「赤鬼兵反転!青鬼と共に敵右翼を挟撃!」


規律が整った赤鬼兵はすぐに反転して、

今度は敵右翼に向けて突撃を開始。


敵中軍は混乱して動けない。


軍を指揮する者が隊にいるか、あるいは本陣にいるか。

この差が如実に出た。


長政の中軍と鷺山の左翼が一気に敵右翼に襲いかかる。



「長政!?」


秀政は遠目に軍の動きを見る。


「ふ、やりおる」


秀政は胸をなでおろした。



頼廉が目を見開く。


「そう来たか!?


 右翼はもうだめだ。本隊、中軍と左翼に合流し、

 敵右翼に突撃する。


 敵の弱点は右翼だ!」


頼廉は見抜いた。

この戦果のほとんどは赤鬼と青鬼によってなされ、

右翼、国人衆はどちらかというと本願寺左翼に押されていた。


「右翼はくれてやる。

 だが貴様らの右翼もいただくぞ」


頼廉は移動しながら鋒矢陣に切り替える。


一直線に芋粥右翼に向けて突き進んだ。



敵右翼は赤鬼、青鬼に挟撃されて散々に討たれていく。


小母衣衆の騎馬が秀政の元に走る。


「大変です。敵本隊、中軍、左翼が合流して、

 こちらの右翼に鋒矢陣で突撃を仕掛けてきます」


「まずい、あそこは数合わせだ。

 赤鬼、青鬼に伝令、右翼撃滅は十分だ!


 敵本隊を追え!」


小母衣衆が走る。


「……頼廉、転んでもただでは起きんか。

 国人に犠牲が出ると伊勢支配に支障をきたす。


 可能な限り救え……」



秀政の伝令を受けた赤鬼兵、青鬼兵はすぐに右翼救援に向かう。


鋒矢突撃の初撃により、右翼は多数の死傷者を出したが、

迫りくる鬼兵を警戒して、すぐに頼廉は引き下がった。



この竜田川の戦いは、敵右翼をほぼ壊滅させ六百を超える被害を与えた。


頼廉による最後の一噛みによって、右翼国人衆は三百近い被害を受けた。


総じてこの竜田川初戦は芋粥の大勝利といえた。

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― 新着の感想 ―
芋粥家に不足してる武将の枠に長政が名乗りを上げてくるとはなあ……長政の誰に言われるともなく自分の身を自分で立てようとする意気は、家中の特に武官に響きそうですね 案外、芋殿と村瀬で描き上げた鬼備前の絵姿…
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