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ある勇者の後日談  作者: 鳥鼠 ゆき


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9/12

9内と外で

勇者はその功績により叙爵され、侯爵となっていた。

それに伴い、相応しい領地も与えられている。なんと言っても王女が降嫁する事が決まっていたのだ。折しも魔王との戦闘で領主が居なくなった土地も余っていた。

ただ、今後を考えてか、他国と接した場所は選ばれず、結果的に国土の中程、海岸を擁する地が選ばれる。王国の国土全体で、勇者の領地を抱え込むような形となっていた。


その上妨害も入る。

「いったいどう言うつもり、代官を辞めさせるなんて」


「横領していたから、その上領民に無理矢理性接待を迫った。貴方の紹介で雇った人員だから、クビにするだけに留めた」


「恩着せがましい、下賤なお前が算術など出来るわけないでしょう。文字だって真面に読めないんじゃなくて? 思い込みで疑いを掛けるなど、恥を知りなさい」


「いや、計算くらい出来ますよ。こっちの文字もいい加減覚えましたし」


「はぁ、お前平民よね」


「まぁそうですが」


「嘘を言うのは辞めなさい」


「はぁ、もう良いです。兎に角領地については俺がやりますから、王都で好きに過ごしていて下さい」


「……っ」


政は素人同然だった。

しかも色々な思惑があり決まった土地、広いが平凡な農耕をしているだけの土地だった。だが、信用の置けない役人を解雇し、決まりに則った徴税量に正すだけでそれなりの改善がなされた。

そして、誰も知らないことだったが、勇者は島国出身の日本人だった。海に泳いでいる物は取りあえず食べられるか検討してみる、そんな民族である。


「海の魔物は強くて中々漁が出来ない?」


「ええ、しかも海上での戦いは難易度が高く」


「そうですか……では鍛えましょう!」


その上脳筋でもあった。


あっと言う間に海は食料資源として使える様になった。


最初は水辺の民が漁に出られるように鍛え始めたのだが、次に農民も魔物と戦えるように鍛えた。自らが一から鍛えて魔王を倒したとあって、完全にノウハウが出来ていたのだ。

それを惜しみなく勇者は領民に注いでしまった。ついでに読み書きも教えた。


健康なこの世界の人間なら、効率よく鍛えればそれなりに戦える。実際例外はあるものの、それは概ね正しいので、上手くいってしまったのだ。


最初こそ、領主は多くの領民を徴兵する気かと戦々恐々とされたが、数ヶ月すると交代で若者が鍛えられて帰ってくるのでその声も直ぐに落ち着いた。

各村に自警団を作らせ、派遣された兵士や騎士と共に故郷を守らせる。村に居る農民は、次第に支配されるだけの農奴としての意識ではなくなり、自治民としての気持ちが芽生える。


そんな状態で10年運営されてきた領地に、ただの血筋だけがいい貴族の跡取りがやって来てどうにかなるわけがなかった。税を増やせばそこら中から抗議が出る。武力で黙らせることも出来ない、領民が強すぎるのだ。各村が連携して蜂起するぞと脅されれば、交渉に乗らない訳にもいかなかった。

そうこうしている間に――

「うちは前王の王弟殿下、公爵様に帰属します」


等と、勝手に領主を決める始末。何を民が勝手に主人を決めているのか、そんな事は許されない。


だが同時に他国からも激しい攻撃を受けていて、満足な軍を送ることが出来ない。多方面から攻撃を受け、拡大していた国土がそのまま足枷となっていた。

今蜂起されればそれこそ国の真ん中に独立国が出来る可能性すらあった、勿論他国はそれを喜ぶだろう。王国が傾いた後に勇者領がどうなるかは、解らないが。

しかしそうなった時には、王国は存在していない可能性すらある。


魔王を倒し、世界を救った国の何とも華々しくない終わりだ。


出来るだけ刺激せずにして、再支配するための武力を拡充するだけの時間稼ぎをするしかない。王国は、否、王はそのあてがない訳ではなかった。

それも勇者由来である事が、癪ではあるのだが背に腹はかえられない。そんな愚かな算段をしていた。


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