8何も残っていない
「何をやっている、如何して犯罪者一人捕まえられないのだ」
「申し訳ありません」
国王の叱責に各騎士団の団長は頭を下げる。逃げ込んだと言われる北方が特に責められ、持っていたグラスを投げ付けられた。
王の子飼いの側近で固められた近衛騎士達は、そんな騎士たちを威を借る狐の様にこっそりと見下している。笑っている場合では無いだろうに、高位貴族のコネのみ、式典で華々しい飾りと化した近衛騎士は事態の深刻さを別っていないようだ。
「貴様らの下げられた頭など見ていたくない、一刻も早くマルコを連れて来い」
そう怒鳴りつけ、人払いをすると若き王は玉座にへたり込んだ。
「やっと目障りな奴を始末出来たと、そう思ったと言うのに」
ジョージは父王が歳を取ってから得た、一人息子だった。甘やかされて育てられ、下にも置かない扱いをされてきた。誰と比べられることもなく、将来は王になることが約束されていた。
そこに現れたのが、勇者マルコだった。初めは馬鹿にしていた、父は慈悲深いが愚かだとさえ思った。役立たずの加護無しの勇者を態々金を出して引き受けるなどと……。
しかし、それは見る間に覆されていった。
時間を掛けてでも育成した勇者は、他の無謀に突貫した勇者とは隔絶された実力を手に入れ。次々と魔王の部下達を下して行き、ついには魔王を打ち倒したのだ。
女神から民から、何より父王から認められた勇者が王子は妬ましかった。強さも功績も何も敵わなかった。今までは何も無く持ち上げられていても満足出来ていたはずなのに、同年代の勇者を見ると自分が血筋だけの馬鹿のように思えたのだ。
「新しい勇者があれ程役に立たないとは……」
それでいて、捕獲を命じているのは、姪の能力の無さによる。
「初夜さえ迎えていないとは、とんだ種なしだ」
一人目の娘、てっきりこの娘だけは勇者の血を引いているものだと思っていた。周囲もそう考えていたし、その為に勇者も跡取りとして認めているのだと。
婿を取らせる事になっていたが、元より立候補する家が後を絶たなかった。それは時を経る毎に増えていて、何故なら後年の勇者の姿に由来する。その事実にも、苦々しげに国王ジョージは歯噛みした。
奴は、勇者はどう見ても歳を取っているように見えなかったのだ。
召喚から20年、それだけ経っても十代半ば、ともすればこの世界だと十代前半に見える見掛けだった。
歳を取って見えにくい人種だと本人も説明していたが、よくよく聞けば平均の寿命自体がこの世界の人間の倍近くあるとの事。自身の家にその血を取り入れたいと考えるのは自然なことだ。
ジョージからすれば自分が長生き出来る訳ではないので、そこまでの興味はなかったが。だと言え、他家に渡すわけにも行かないので、自分の子供の誰かと結婚させて、後々王家に回収させようとは思っていた。だがそんな計画も無意味。
「愚かな妹め、血を回収する事が女の役目だろうに」
戦場の最前線に勇者として、姪を立たせようとした時それは判明することになった。多少腕が立つ程度の女騎士である娘が死んでしまうと、王に妹が泣きついたのだ。
「指一本触らせていないだと、誇らしく言いおって、それが誇れた事か」
いくらでも無体を働けるところ、すんなり諦めた所を見る限り、王女の魅力が足りなかったのだろう。それか若しくは、勇者が情けない腰抜けか。男色のけでもあるのか。
「本当に死んでいたら如何する。他国との戦争が……クソッ生きていても死んでも邪魔をしてくる」
仮面夫婦だったのだから、恋人は他に居たのではないかと王は捜索させた。あわよくば、其方で子供を作ってはいないかと期待して。ただ結婚してからはそう言う話はない様だった、仕方なく魔王の討伐時代まで遡って探させると、一応恋人が居たらしき話しは出て来た。
ただ同時に、敵幹部の討伐の報復としてこの国にまで魔王軍が攻め入った折り、街ごと焼き払われて死んでいることが判明する。それは15年も前の事、これではどうにもならない。
また旧勇者領も王の悩みの種であった。




