10ごはんを食べよう
「ん……んー……」
伸びをして名もなき神霊は眼を開ける。
そこには変わらぬ様子の泉と小さな花が咲く草地が広がっていた。フワリと風に吹かれる。
どのくらい眠っていたのだろうか。数時間、若しくは数日かもしれない。時間の感覚が曖昧だった。
「でも、少しお腹が空いたかも」
起き上がり、泉の中を覗く。元気よく魚が泳いでいた。
「…………取りあえず捕まえるのは後にするか」
気を取り直して、森の中を歩く。シイ属の様な木の実が沢山あったので、拾い集め。山菜も幾つか摘まんで元の泉に戻った。
腰袋の中に、大きめの金属で出来たカップが有ったので、そこに木の実を入れて流水で良く洗う。
平らな岩の上に枯れ枝や枯草を集めて火を付けよう。っとして戸惑った。魔術が使えなかったのだ。いや、当然のように火の魔術を使おうとしたが、そもそも魔術って何だと考え直す。
「いや、魔術ってあったよな。なんかそんな記憶がある。でも使えない。いや魔術って何だよ漫画かゲームの話しか??」
「いや、漫画ってなんだ、ゲームも……えっと…………」
混乱していた。
しかしどちらにしても使えないなら、他の方法を考え無くてはならない。兎に角今は火が欲しいのだと。
「ええっと、確かエドが……あれは10日間サバイバルで……」
弓ぎり式でないと難しいと思っていたが、単純に棒をで擦るだけで火が付いた。乾燥している環境でも無さそうなので首を捻るが、彼自身は疑問の答えは得られなかった。単純に人間には難しい速度で棒を擦れると言う事に気が付かなかったようだ。
ただ、今重要なのは火が付いたと言う事。
「まあいいや、取りあえずこの木の実はちょっと炒るだけ美味しく食べれるやつ、のはず」
実際カップで火にかけて、ナイフで割って食べると美味しかった。山菜も焼いて食べる。調理器具も調味料も欲しい所だけれど悪くはない。
しかし、何よりもやはりタンパク質が食べたい。
チラリと泉を見やっていると、後ろから影が掛る。それは山神だった。
「取って食べないのか」
すきにしていいと、言っただろうと。
「そうなんですが……俺が、俺が取ると決めると、その魚は死ぬんですよね」
逃がしようがない。魚は必死に泳いで逃げるだろうが、自分が捕まえると決めたなら、捕まってしまう。そして食べられてしまうのだ。選んだら、死ぬのだ。確定された死の宣告。
「神霊になっても、生き物を殺して生きることからは逃げられないんですね」
「そうであろうな。しかし植物だとて命あるモノだぞ」
言われて気付く。植物の芽、一部である山菜は別にしても。木の実にだって極々薄いが小さな魂が宿っている。神霊の瞳でもって見れば、全てのものに霊魂が宿っているのだ。
そうだ既に奪っていた。声の小さい者の苦しみに気付かないとは、何とも自分勝手。名もなき神霊は恥じ入るように胸を押さえる。
「気にするな、我々とてこの世界で生きて消えゆくモノ」
「貴方はそうではない様に見えます」
「そんな事はない。我は山だが、昔は海の底であった、そして何時か風に吹かれ水に流され消えていくものだ。吾子よ、あの魚は何時かのお前で、お前は何時かの魚である。この世界にある限り、全ては同じもの、食べても死んでも生きても同じ仲間よ」
「…………良く解りません」
「では取るのを止めるか?」
「……いえ、感謝して戴きたいと思います」
「そうか、ならばそれでいい」
それから、名もなき神霊は二匹の良く生きた魚を選び捕まえる。出来るだけ苦しませない様にとしめて、枝に刺して焼いて食べた。
感謝して食べ、とても美味しいと思ったそうだ。




