11魔術が使えない
山の恵みを戴いて、ただのんびりと過ごす。
太陽が昇って沈むのを眺め、星が巡るのをただ観察する。雨が降ったら近くの洞窟に潜って過ごし、気が向いたら森林を彷徨く。
強そうな魔物にもたまに会うが、目が合うと脱兎の如く逃げられる。以前なら少々手こずった様な気がする魔物もそうなので、度々首を傾げることになる。
名もない神霊は今の自分は生まれたばかりで、どう見ても弱そう、良い獲物だと思わないのかと、不思議でたまらなかった。
「神様、神様、山の神様お伺いしたいことがあるのですが」
木々の間を歩いていると、いいところで山神の姿を認めて声を掛ける。
日々疑問は尽きないが、何時でも山神が見付かる訳ではないのだ。見付けた時は逃すわけには行かない。
「何か?」
「あの、魔術ってありましたよね?」
「…………」
「あ、俺変な事言ってしまって、えっと」
「魔術はある。人の術だ」
「あるんだ、ですね。あ、でも使えなかったんですが?」
「魔術は人の術だ。神霊は神術を使う」
「なるほど、ではもう魔術は使えないって事なんですか」
「いや、使い方を知っていれば使えるだろう」
「……でも、使えなかったんですよ。曖昧な記憶で使おうとしたからでしょうか」
出来れば色々教えて欲しい。
その神術というのも教えて貰いたいと思った。と言うより教えて貰えるものだと思った。だが、スンとした様な表情をする山神にそうではないのかと、名もない神霊はたじろぐ。
眷属でもない、仕えているわけでもない者にそこまでする義理はないと言われてしまえば、その通りだろう。
「何もする必要はないと言わなかっただろうか」
「あ、はい」
「赤子が危ないことをするな」
「あ、え、……はい」
あ、違ったと彼は直ぐに解った。
言われてみれば生まれてまだ、二月も経っていないのだ。魔術も神術も危ないので、使っては駄目と言う事らしいと知れる。
「神霊の赤子などただ居るだけでいいのだ」
「そうなんですか……でも暇で、何かしたいです」
「……はぁ仕方ない、ならば神力の練り方だけ、教えてやろう」
山神は、渋々とう言う体でそう言ってくれた。
「本当ですか! ありがとうございます!」
その日から一日一回、数時間の神力についてのレクチャーが始まった。
修行や鍛錬と言うよりも、瞑想とかをして魔力のコントロールを行う。そう、そうしている内に魔力の使い方は直ぐに思い出した。
ただ、魔術については、やはり使えない。
聞けば、神霊は司る属性以外は直接操ることが出来ないと教えられる。山神は自分の領域では全て操ることが出来るそうで、気にしたことはない様だった。
「選択が狭まることで、前とは比べられない程の魔力が使えるのか……いえ、前のことはあまり、覚えていないけれど」
火も水も土も風も……主要四属性は使用出来ない様で、頭を悩ませることになる。
「雷……毒も駄目そうだ。ううーん、思い出しても使えそうな魔術がない」
「何故そう戦う術を求める。子供など遊んで過ごしていればいいのだ」
山神にはそう言われ、何か他にないのかと聞かれたが、何も思い浮かばなかった。もしかしたら自分は戦いばかりの、存在だったのかも知れないと少し悲しくなった。
「ならば何か見付けなさい」
「そうは言われましても……うーん」
今していて戦いと関係ない楽しい事と言われて考えると、花畑で昼寝をしたり、小さな魔物達がじゃれ合っているのを眺めたりだった。
それも全て能動的ではない。
「俺は空っぽの、つまらない奴だったのかも知れないな……」
焚火用の枝を拾って、彷徨きながら考える。足元に有ったいい感じの木の棒、足で跳ね上げ掴み取った。すると、無意識に剣を構える様に持つ。
ぶわりと記憶が過ぎる。幼少の頃から始め、ずっと続けて来た剣道とこの地に移ってから教えて貰った剣術の。
どうにも彼は剣術が好きだったらしい。




