12遭遇
剣術が好きだと言ったら、山神は渋い顔をしたが、好きならすきにしなさいと言われてしまった。
決して殺し合いが好きなのではなく、勝ったり負けたり、競ったりが楽しいのであって……と続けたが。
「格好いい技とか出来たら、格好いいじゃないですか?」
「……解らん」
どうにも理解は得られなかったらしい。
理解は得られなかったが、止められもしなかった。だから暇に飽かせてナイフでいい感じの木の棒を削って木刀を作り、振るって過ごした。
神力も何となく解ってくる。その過程で、自身の属性も判明した。
「光と闇か……中二病かな……中二って何だっけ、んー??」
記憶の方はまだ朧気で、この世界ではない、何処か遠くで学生をしていたらしき光景が度々思い出される程度だった。
ただ、思い出すと悲しい気分になるので、無理に引き出す気にもならない。流れに任せれば良いかと考えていた。
日付の感覚が薄くなっていたが、そんな風にのんびり過ごして居たところ、それは起こった。
「う、うあぁああ!!」
「助けてくれー誰かぁ、神様ぁああ!!」
薄暗い山林の中に、悲鳴が響いた。
名もない神霊は、そこで初めてこの世界の人間を見たわけでは無い。たまに山の下層、山林の中に冒険者や近くの村の住人が、狩りや採集に来ているのを影から見たことがあったから。
その時に、魔物と戦っている姿も見ていた。
通常、その命のやり取りに介入しようと思ったことは無い。人側が劣勢でも、ハラハラしつつも手は出さなかった。まぁまだ人が魔物に一方的に食われているところに遭遇していなかったので、その時どうするかは彼自身も解っていなかったが。
ただ、これは違うと咄嗟に思った。
相手は確かに魔物だったが――
「あ、ああっ!」
「魔王の残り香だ!!」
それは普通の魔物では無かった。
鹿の様な魔物だった。たぶん元は……。その姿は肉腫で痛々しく膨れ上がり、所々毛皮が剥がれ堕ちている。角は異常に大きく凶悪な形になり、金属質になっていた。必要の無いところに目玉が出来、本来の瞳は濁って意思を失っているらしい。
それからこれが特徴として大事だが、開いた肉の隙間にケーブルの様な物が走り、所々機械的なパーツが見えている。それは命が同化され、改造されている示唆だった。
「無理だ」
「ってったい、撤退だ!」
「早く、俺がっ」
冒険者は怯えながらも何とか応戦し、生き延びようとしていた。だが、力が足りず剣は効かず。角で刺された盾は取り込まれてしまう。
「うぐぅ!」
そして盾を構えている冒険者まで、その触手の様なケーブル肉芽が伸びてくる。
「!?」
だがその瞬間だった、一瞬で間合いに入った名もなき神霊がその魔の手をナイフで切り裂いた。そして流れる様に魔物を蹴り飛ばし、冒険者達から距離を取らせる。
「こ、子供!?」
この魔物だけは自分が倒さなければならない。そういう相手である事を、何も解らないが感じるのだ。
「キェェエエエン!!」
肉腫の瞳、全てが此方を凝視する。
頭を下げて、角の先を定めて突っ込んでくる。それを飛び越える様に首を落す。ただ、それでも止まらず、首を失ったまま走り抜け。飛び跳ねる様に踵を返すと、再度此方に向かってくる。
ただ、その様子にも神霊は慣れたもの。地面に転がっていた剣を拾い、構え直す。
「可哀想に、いま楽にしてやる」
伸ばされる触手を切り裂き、魔物の身体を両断する。そうして現れた禍々しい核を一突きに割砕く。
すると見る間に肉腫は萎み、ケーブルや機械はだたの鉄くずにと変わっていった。
「まだこんなのが残っていたのか……」




