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ある勇者の後日談  作者: 鳥鼠 ゆき


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6/12

6微睡み

そのまま振り返らずに進んで行く山神に、彼はついて行く。

固く凍り付いた雪と、ゴツゴツとした岩場だというのに、裸足でも苦にはならない。浮遊するように移動する白い老爺を、見失うこともなかった。


「あの、しんれいって何ですか?」


「神なる霊体だ」


「……はぁ」

質問には応えてくれるが、さっぱり理解が出来ない。むしろ謎が増えるばかりだと思った。然りとて何でもかんでも聞くわけには行かないだろうなとも、考えた。それと良い感じに問いを考えなければ、望んだ答えが得られそうにない事も。


「ん、しんれい、神なる霊で神霊で…………貴方は山の神様……つまり貴方は俺の父親って事ですか?」


「違う」


「あ、違うんですか。すみません……じゃ、じゃあお仕えする神様って事ですか?」


「違う」

山神は言葉少なに否定するが、特に気を悪くした風でも無い。事実だけを淡々と告げているようだった。むしろいっそ全てのことに素っ気ない。彼の相手をしてくれているだけでも、もしかすれば希有なことなのかもしれない。


「お前はもっと高位の御方の加護を受ける身、覚えていなくとも眷属である」


「そうなんですか?」


「この山の神である我が従えることは出来ない」


「そうですか……」

ならば如何したら良いんだろうと、彼は戸惑う。加護もそれを与えてくれていると言う相手も覚えていない、眷属というなら其方に属して、何かするべきなのではないかと思うのだが、それも解らなかった。

生まれたばかりで生まれた意味に行き詰まっていた。


「えっと……あ、この辺は暖かいですね」


「ここが暖かいのではない、山頂が寒いのだ」

困惑しながら進んでいて、気が付くと木々が茂る場所まで降りてきていた。他に誰か人が居れば、驚異的な速度で中腹まで下ったのだと解るのだが、山神も名もなき神霊も基準がないためどちらも何も思わない。

そうして降りて、青々とした下草と苔むす岩の崖横へと山神は彼を連れてくる。崖の一部からは湧水が湧き出ていて、小さな泉を作り出していた。


「この辺りに居ると良い」


「は、え?」


「眷属が生まれたことに気付けば、迎えが来るだろう」


それだけ言って、去って行こうとする山神にハッと気付いて引き留める。


「ちょっちょっちょっと待って下さい。迎えが来るって、それまで何をすれば、如何すればいいですか?」


「お前は生まれたばかりの赤子だ、赤子のすべき事は解るだろう」


「赤子、の仕事は……泣くことですか!?」


慌てて彼がそう答えると、凍り付いた崖のようだった山神が、一瞬固まってから視線を彷徨わせた。どうやら困らせてしまったらしいと気付いたが、何が駄目だったのか、いまいち理解が及ばない。それが生まれたばかりだからなのか、未だに頭に靄が掛っているからなのかも判断が出来なかった。


「……食べて寝て、好きに、穏やかに過ごしなさい。今のお前に他にするべき事など何も無い」


「……あーああ、なるほどです」

まだ生まれたばかり、小さい自分のする事は、食べて寝て大きくなる事かと彼は納得した。確かにその通りだと、納得して水辺にぺたりと座り込んだ。


「必要なことがあれば声を掛けなさい」


「はい……あ、……魚を捕って食べてもいいですか?」

チラリと泉の中で泳ぐ小魚を見やれば、山神は問題は無いと頷いた。神の山に住む生き物なので、止められるかもと内心緊張していたのだが、大丈夫らしい。

殺生はするなとかも無い様だった。


「好きにしたら良い、山の生き物は山の生き物を捕って生きている」


「解りましたありがとうございます」

そう言うと、山神は当面自分のすべき事は終えたと、背を向けて煙が散るように消えてしまった。


「…………」


一人になり、取りあえずマントを被り、ぼんやりとそのまま膝を抱いた。何もする事が無いというのは、何とも手持ち無沙汰だった。全く本人は失ってしまった記憶ではあるが、常に何かしらするべき事を求められて、それを熟す事で生きてきたのだ。


「そうか、何もやることがない……」

そのままパタリと横になると、ウトウトとしてしまう。暇だ、それに何の憂いも今はなかった。

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