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ある勇者の後日談  作者: 鳥鼠 ゆき


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5/12

5上昇流転

流転輪廻の理は、生を生のまま留めず。死を死のまま留めない。

完成されたものも何時かは壊れ、別たれたものも何時かは巡り逢う。新たなものに生まれ変わる。


雪を被る霊峰。

常ならば雲を纏う山頂は、奇跡のように晴れ渡り、地平の彼方まで見下ろせる。

連なる山々、霧を纏う樹海続く平野、街道が走るその先に広がる村や街。鳥の群れが、編隊を組んで青空を渡っていく。


パリ……ピシッ……。


陽光指す中、罅が走る音がする。


突き立つ剣の前、まるで白い卵のような塊の、内側から音がした。ノックするように叩かれる。やがて放射状に亀裂が入り、一部が崩れ落ちると崩壊は一気に起こった。


「あっ……出れた」


殻から出て来たのは、黒髪の少年だった。初めて明るいところに出て来たとばかりに、目を瞬かせる。翳した自身の手の小ささに驚き。身体にも違和感を覚えた、自分はこんなに小さかったかと。

それに――

「ここは、どこだろう。俺は……何だっけ?」


霞が掛ったように、何も思い出せない。

強い風が吹いた。突き抜けるような青空が、彼の頭上に広がっていた。


「……?」

黒い円らな瞳を瞬かせ、首を傾げる。目の前に突き刺さった剣には見覚えがある。が、何かが引っ掛かった様に頭から出て来ない。もう少しのような気がするのに。

ただ、この剣にはもう触らない方が良いという気持ちがした。自分が振るうものではないのだろうと。


立ち上がると、ずるりと腰から色々な物が落ちる。

今の自分には大きなズボンとベルト、腰袋が二つ。肩からずり落ちたのは薄いマントだった。


「んん~?」

これは彼の物だったのかもしれないが、今の彼には合わない物だった。辛うじて身に付けられているのは、白いシャツとベストだが、シャツの裾が足首当たりまで来ている。袖は手の先が捲っても中々出て来ない程余っていた。


仕方なく腰の部分でベルトを絞り、腰袋を何とか据え付ける。マントは後で何かに使えるかもと畳んで手に持った。


「靴はないな」

雪に埋まっているのかもしれないが、掘り出したところでサイズが合わない。

ただ、何処に身に付けていたのか、鞘に入ったナイフを拾い上げ、ベルトに差した。


何も解らないはずなのに、この知識は何処から来るのだろうと考える。もしかしたら、色々やっている間に、思い出すかもしれない。そう、また浮かんだ知識でも、記憶喪失は時間経過でそのうち自然に治るものと頭に過ぎる。



「吾子よ、今日生まれ出でたのか」


そんな事をやっていると突然声を掛けられた、彼が振り向けば白い長い髪に同じく長い髭を靡かせる。ローブ姿の老人がそこに立っていた。

自身もそうだが、凡そ最高峰の山頂に居るような出で立ちではない。それでいて、寒さも疲れも感じさせずただそこに在る様子は、徒人ではないと感じさせた。


「えっと、はい今出て来ました。……あなたは?」


「我はこの山の神」


「神、さまですか」

老人、山神の発言には流石に驚いてしまうが、そう言われて納得してしまう様な存在感があった。そしてそれを納得してしまうと、一気に頼りたい気持ちが湧いてしまった。

なんと言っても、現在彼は自分のことさえ解らない状態なのだ。


「……申し訳ありませんが、少し質問してもいいですか?」


「なにか?」


「えっと、ここは何処でしょう、俺は誰でしょうか、何も解らないのですが」


「解らなくて宜しい、お前は今生まれたばかりなのだから」


「え」

彼は驚いたが、そう言えばそんな事を言っていたと、気が付く。

では、忘れたのではなく。初めから何も無いのかと、少し否、大分がっかりした。


「吾子よ名もなき神霊よ。ついてきなさい」

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