第83話 反撃
ヘイデンを蹴倒したルーファスの足の縄の拘束が、パラリとほどけていた。
急にルーファスに蹴り上げられたヘイデンは、頭を強く打ち付けバタリと床に倒れ込んだ。
「イザベル、助かりました」
イザベルは慌てて立ち上がると、短剣を握りルーファスの腕の拘束を解いた。
手も自由になったルーファスは、イザベルを自分の後ろに隠すように守った。
先ほど、ヘイデンに突進した際の狙いはヘイデンを倒すことではなかった。
イザベルとヘイデンでは体格差があり過ぎる。
まともに戦って倒せるわけがない。
イザベルの目的は、ヘイデンと見せかけてルーファスの縄を解くことだった。
ヘイデンに自分が拘束されるのは予想がついた。ヘイデンに拘束され、もみ合った隙を狙ってルーファスの縄を解くことさえできれば、なんとか道が開けるのではないかと考えたのだ。そして、その作戦はなんとか成功した。
オフェリアは、イザベルを庇うようにして立つルーファスにため息をついた。
「ルーファス様、そんなことなさっても無駄ですわ。魔法は使えないわけですし、体術や剣がいくらお強くたって、侯爵家の私兵が何名いると思っているのですか?」
イーデンは部屋の外で待機していた私兵に声をかけた。
部屋へと屈強な男たちがぞろぞろと入って来る。
ルーファスの背に隠されたイザベルは客間の窓を開錠した。
「あら、お姉さま。窓から飛び降りるつもり?」
オフェリアはイザベルの行動を目ざとく見つけて、鼻で笑った。
「ここから飛び降りたら、それこそ一巻の終わりではなくて?」
オフェリアが言うように、ここから飛び降りでもしたら、良くて重傷だろう。
「誰が飛び降りると言ったの?」
イザベルは思い切り窓を開け放つと、窓から一気に野鳥が舞い込んだ。フォートレル侯爵家の裏手の森をねぐらにする野鳥たちだ。羽根を広げると優に1メートルはある。次々と現れる野鳥にとっては広い客間もあっという間に狭く感じるほどだった。
《イザベル、お待たせ!》
野鳥たちと一緒に《たすく》がパタパタと現れた。
「何だ、こいつら!?」
突然現れた野鳥の攻撃に、私兵もオフェリアやイーデンも戸惑っていた。
その隙にイザベルは部屋中の窓を全開にした。
「なっ……何なの!? この鳥は!」
「すぐに追い払いなさい!」
部屋の中を不規則に低空飛行したり、鋭い嘴で頭や顔を突ついたりと、野鳥たちは次々とフォートレル侯爵家の人間への攻撃を続けた。
(とりあえず、私たちどころでは無さそうね)
野鳥相手には剣も体術も意味をなさない。
今が好機だ。ルーファスは「失礼」と声をかけると、ひょいっとイザベルの身体を荷物のように担いだ。イザベルは驚いたが、大人しくしているのが最良だと思い、従った。混乱の中、イザベルを担いだルーファスは《たすく》の案内に従い、部屋の外へと駆けだした。慌てた私兵が3人を追いかけたが、追いかけようとする野鳥たちが前方を塞ぐように現れ、最後まで追うことができなかった。
使用人の勝手口を使い、バタバタと屋敷を出ると《たすく》は風魔法を使うことができた。またも、ふわっと身体が浮かび上がったかと思うと、猛烈な突風が吹きイザベルはルーファスに担がれた体勢のまま屋敷の外へと運び出された。突風が止むと、従順に帰りを待っていてくれた馬がいた。
《完璧な作戦だったね! 森の野鳥もすぐに協力してくれて助かったよ!》
イザベルとルーファスは荒っぽい移動にボロボロ状態だったが、《たすく》はまたも自分の活躍を誇りに思ったようだった。イザベルは相変わらずの《たすく》と、ルーファスが戻って来た安堵から思わず笑いが漏れた。
「うん。本当。《たすく》ありがとう。完璧な作戦だったわ。ルーファス様も、良かったです。ありがとうございました」
「礼を言うのはこっちの方です。本当に助かりました」
イザベルはみんなと合流することになっていることを手短に話した。状況を理解したルーファスはひらりと馬にまたがると、イザベルを前方に乗せて国境沿いへ向かって走り出した。途中、アビーがいる療養所がある方角から煙が上がっているのが見えた。
(もう、みんなも逃げたかしら……)
イザベルは空に伸びる煙をじっと見つめた。
「大丈夫だ。あいつらなら、アビーも、ドリスも、間違いなく連れて来られる」
ルーファスはまるで《たすく》のように、イザベルの内心を読むとそう声をかけた。
イザベルは揺れる馬上で、深く頷いた。ルーファスの言葉で、不安が霧消していくのが分かった。背中で感じるルーファスの温もりに、イザベルは温かい気持ちになっていた。
(大丈夫。きっと、うまく……)
一方、フォートレル侯爵家の屋敷の中では、突然現れた野鳥たちにてんやわんやだった。
剣を振るおうにも、野鳥相手では上手く行かない。予測不能な飛行に、執拗に続く嘴の攻撃にオフェリアやイーデン、私兵はもちろん、使用人たちも悲鳴を上げながら逃げ回った。しまいには糞まで巻き散らかされるものだから、手に負えない。イーデンは一張羅のドレスが破かれ、糞をかけられていた。自慢の金装飾の髪飾りは、巣作りの道具にちょうど良かったのか執拗に野鳥たちに突かれていた。
オフェリアは早々にクローゼットの中で姿を隠していた。ギャーギャーとうるさい外と違い、薄暗がりの静かなクローゼットの中で、イザベルのことを思った。
(一体この野鳥は何なの。魔法じゃないってこと!? お姉さまのくせに生意気なことを考えてくれたわね。うまく逃げおおせたとでも思っているんでしょうけれど……。これで終わりではないわよ……)
暗がりのクローゼットの中では、魔力無効化の力を持つ指輪がキラリと嫌な光を放った。
お読みいただきありがとうございました!
「面白い」と思っていただけましたら、ぜひ「ブクマの追加」や「リアクション」、「感想」、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援いただけますと嬉しいです!
皆さんの応援で執筆のモチベーションがアップします!!!
どうぞよろしくお願いいたします。




