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第67話 ヴァルハルドの夜会

『え? あれが、イザベル嬢!? 前と全然違うじゃないか』

『ヴァルハルドの女狐も、セレフィードのボンボンを落とせないようじゃ何のために婚約したのか分からんな』

『いや何、あの清楚な顔立ちで、魅惑的な身体だ。セレフィードの坊主を誑し込むのなんて簡単だろう』

『それにしても前よりそそるな。一度で良いから相手してもらえないだろうか』


(……紳士が聞いて呆れる。この国の紳士どもを八つ裂きにしていいだろうか……)


ルーファスは予定通りイザベルを放置して、会場の隅に紛れていた。

すると、ルーファスの存在に気が付かず、イザベルの姿を舐めまわすように見る男たちの多さに驚愕していた。以前ハンスにお見舞いした氷の槍を放つ勢いで、ルーファスは噂話に興じる男たちを見た。


(ヴァルハルドの女狐なんて変なあだ名をつけられて……。彼女がこの国でどう扱われて来たのか、目に浮かぶようだ)


ルーファスは血管が切れそうなくらい目を血走らせていた。

遠くからイザベルを見ると、慣れた様子で優雅にほほ笑む彼女が男たちに囲まれて談笑していた。


(前の……厚化粧にするように、ドリスに言えば良かった……)


ルーファスは、イザベルの愛らしい見た目に吸い寄せられるように次から次へと現れる男たちに憎悪した。


(婚約式のときも思ったが、イザベルのドレスは露出度が高すぎる。だから私がドレスを用意したのに……)


不仲設定なのに、婚約者の色のドレスなんておかしいと言われ、今回の夜会はイザベルが以前から着用していたタイプのものを着ていた。


『ルーファスさぁ、さっきからここで隠れんぼして楽しいの?』


《たすく》は、会場の隅で殺気立ったオーラを放つルーファスのもとへ来た。

姿は消していたが、ルーファスにだけ聞こえるように耳元でそっと囁いた。


「たすく!? なんで俺のところに……」

『イザベルの周り、男の人だらけでなんか嫌なんだもん。イザベルも会場見て来て良いって言うし』

「なんか嫌なんだもんじゃない。君が離れている間に、主人に危機が迫ったらどうするんだ!? きちんと傍で護衛をしろ!」

『護衛って……。ルーファス勘違いしているみたいだけど、僕は精霊で、騎士とかじゃないんだよ。それにイザベルのことは言われなくても、ちゃんと守るよ。あの男の人たちは大丈夫。イザベルとただお話しするだけで楽しい人たちだけだから』


(イザベルとただ話すだけで楽しい?)


「そんな男がいるか!」


思わず声を張ってしまったルーファスに、周囲の人間は妙なものを見る目を向けた。


(しまった。変な男になってしまった……。仕方ない)


ルーファスは取り返すように、先ほどまでの怪しい空気感を一掃し、貴公子然とした微笑みを浮かべた。ルーファスの微笑に、怪しんでいた令嬢たちの目の色が変わった。


(しまった。やり過ぎたか……)

『何やってるの? ルーファス』

「仕方ないだろう……」


ルーファスは観念して、会場の隅で隠れるのをやめて歩き出した。

すると、会場の女性たちがチラチラとルーファスに視線を送って来るのが分かった。


(あー……面倒くさいが……仕方ない……)


ルーファスは観念して、セレフィード王国の貴公子として、女性たちと接する決意をした。当たり障りない互いの国の話をしていると、婚約者と不仲だと思った令嬢がフォートレル侯爵家の話を始めた。


「レープ卿のお相手も、オフェリア様でしたら良かったですのに」

「オフェリア様?」

「お会いしていません? イザベル様の妹君ですわ。本当に可憐な方で……」

「あら、イザベル様も久しぶりにお会いしたら、雰囲気が変わられて素敵だったわ」

「でもレープ卿がいらっしゃるのに、あんなに男性を侍らせて。あら、私ったら。つい失礼なことを……」


(わざとだろうが……)と内心で毒付きながら、ルーファスはニコッと笑顔を浮かべた。


「気になさらないでください。その通りですから。それに彼女と私の婚約は、飽くまで国同士の問題ですから……」


不仲説に信憑を持たせるように、ルーファスは冷たい感じに言い放った。


「おお! レープ卿ではないか!」


女性達と話をしていると、しゃがれた声の男性がルーファスに声をかけた。

声の方を向くと、シルエットだけでも体格が良いのが分かる。

少し癖のある白銀の髪をセンターに分け、後ろに撫でつけている。


(この男が……)


彼を見ると怯えたようにスッと道が開いた。


(夜会服よりも甲冑の方が似合いそうだな)


「フォートレル侯爵」


壮年の男性は、イザベルの父・戦闘狂で知られるフォートレル侯爵だった。


「会えて良かった」


フォートレル侯爵は、ルーファスは見るとまるで本当に喜んでいるように目尻に皺を寄せて笑った。

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