第59話 たすくの正体(3)
「黒髪!?」
「せ……精霊……」
「本当にいたのか」
突如彼らの前に姿を現した《たすく》に、5人は腰を抜かした。
「ちっさ……。え、何、精霊ってこんな小さいの?」
《たすく》を見ながら、レンナルトは思わずつぶやいた。
『小さくないよ!』
《たすく》は、レンナルトのつぶやきに頬を膨らませた。
怒っている《たすく》に、今度はエリーアスが「かわいい……」とつぶやいた。
『かわいいって……。僕は子どもじゃないんだぞ』
エリーアスの言葉にも心外だと言わんばかりに主張をしていた。
ルーファスは、無言でじっと《たすく》を見ている。
《たすく》もそんなルーファスをじっと見返した。
『ルーファス、僕が大きい男の人だと思ってたでしょ?』
《たすく》が《知ってるよ》と言わんばかりに笑った。
「え!?」
ルーファスは内心を言い当てられ、目を見開いた。
『僕がイザベルと一緒にいるから、ずっと気にしてたでしょ』
「なっ……」
「《たすく》!? 何言ってるのよ」
動揺して黙り込むルーファスに、イザベルは助け舟を出した。
(そんなこと言ったら、気にするじゃない……)
『だって。僕聞こえるもん』
「それはそうかもしれないけど……」
イザベルは戸惑いながらも同意した。
「聞こえるって……一体……何が?」
ルーファスは嫌な予感がしながら《たすく》を見た。
『何って……。思っていることだよ。心の声が聞こえるの』
《たすく》は、当たり前のようにルーファスに答えた。
「え……え……ええええええええ!?」」
ルーファスが顔を赤らめ絶叫した。
「こ、こ、こ、こ、こ……」
動揺して言葉が出て来ないルーファスに代わり、ディオンが《たすく》に訊ねた。
「心の声が聞こえるって、どういうこと、なのかな?」
ディオンの質問に、ルーファスは大きく頷いた。
『どういうことって、そのままの意味だよ。ルーファスは、言っていることと、心の声が違うから、イザベルも困ってたよ』
「こま、困るって……それは、その、つまり――」
『うん。そう。僕、たまにイザベルにルーファスが考えていること、教えてあげてたよ』
《たすく》のカミングアウトに、ルーファスは完全に腰を抜かし、顔を覆った。
「……《たすく》、ちょっとあんまりそういうこと……」
イザベルはルーファスがショックを受ける様子を見て、《たすく》を窘めた。
(なんでも正直に伝えればいいものじゃないから……)
《そのなの?》
(うん。ルーファス様、きっと《たすく》に本心を全て知られているって思って、ショックを受けているわ)
《そうなのか……》
イザベルと《たすく》は二人だけで脳内でやり取りをしていた。
そんな二人の様子をハンスは興味津々に眺めていた。
ハンスは《たすく》の姿を360度から確認していた。
「君たちはもしかして、脳内で会話が?」
「え!?」
「もしかして、“契約”している、とか?」
『そうだよ』
ハンスは《たすく》の答えに目を開いた。
「すごい……。まさか、本当に契約しているとは……。一体どうして。どうして君はイザベルと契約を? どこで出会ったんだ?」
質問が尽きないように、ぐいぐいと《たすく》に近付いた。
《たすく》は無遠慮なハンスから逃げるように、イザベルの後ろに隠れた。
「飛んだ。そして、隠れた」
ハンスは《たすく》の動きを実況していた。
『飛ぶよ、僕は精霊なんだから。羽根だって飾りじゃないし』
「黒髪の精霊は、書物でも読んだことがない」
ハンスのつぶやきに、今度はイザベルが驚いた。
「え!? そうなんですか?」
戸惑うイザベルにエリーアスが「精霊は属性によって髪や瞳の色が変わると言われているんだ」と教えた。
「そうなんですね。じゃあ、《たすく》は土属性、とか?」
(土であれば、黒髪になるのもおかしくない気がする)
「いや、土ではない」
《たすく》より先にハンスが否定した。
「土属性の精霊であれば、黄土色っぽい髪色で、むしろ黄色に近いはず。少なくとも俺が読んだ書物にはそう書かれていた」
「え? そうなんですか?」
「ああ」
「じゃあ……」
(そう言われると《たすく》の黒髪って……)
『僕は何でもできるよ』
「何でも?」
『雨だって降らせたし、風も起こせたでしょ?』
「確かに」
イザベルがなんとなく納得していると、ハンスが再び瞠目していた。
「……全属性ってことか? そんなの王国の書物にも……。す、すごい。凄すぎる!!!」
ハンスは増々興奮しているようだった。
「待って。でも、それはさすがに……おかしくないか?」
興奮するハンスに、エリーアスが冷静に指摘した。
「精霊は基本的に一属性しか持たない。複数属性の精霊すら伝承上ほとんど存在しないのに、《たすく》は何でもできる?」
「確かに――……。あまりに例外過ぎるな」
エリーアスの指摘に、ディオンも考え込んでいるようだった。
「もう少し文献などを調べて」
「うーん」
エリーアスやディオンの指摘にも、ハンスの興奮は収まらないようだった。
「どちらにしても、すごい精霊であることには変わりない! もっと近くで見たい……」
獲物を狙うように《たすく》を見るハンスの興奮振りに、イザベルは自分の後ろに隠れる《たすく》の身を案じた。
(精霊がすごい存在だっていうのはなんとなく分かってはいたけど、ハンス様がここまで狂喜乱舞するとは……。しかも《たすく》も変わった精霊みたいだし。まさかとは思うけど、捕まえられたり……しないわよね)
「黒髪の精霊なんて、文献にも載っていない精霊にお目にかかれるとは……」
ハンスのテンションがどんどん上がるのと対照的に、ルーファスが元気を失っていった。
ぽんっ
ハンスの興奮振りが《たすく》も嫌だったのか、突然みんなの前から姿を消した。
ハンスが「あああっつ!!! なんでっ」と絶叫した。
『僕はイザベルのために姿を見せただけだもん。僕のことが分かったなら、もういいでしょ』
「そんな……折角会えたのに……」
《たすく》はそう言うと、その後はいつも通り、その姿も声もイザベルにだけ聞こえるものとなった。
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