第54話 暴発
「許さない、許さない、許さなさい……。私を認めない世界なんて――……」
その声は怒鳴り声なのに、どこか泣いているようにも聞こえた。
ロザリンの身体からまばゆい光がキラキラと現出した。
神殿で見た虹色に輝く光は神々しい美しさだったのに、いま彼女が纏う光は狂気が渦巻くような迫力があった。
澄み切った空色の瞳は、もうこの世界の何も映していないようにも見える。
ピンクベージュの髪は、怒りに逆立つように風に舞った。
「イザベル、危ない!」
《イザベル! 危ない!》
ロザリンが放つ光の矢がイザベルに向かってきた瞬間、ルーファスと《たすく》の声が重なった。
ルーファスは、その矢から守るようにイザベルを抱きかかえた。
《たすく》はイザベルの前で、ロザリンの力を必死に跳ね返している。
その小さな身体で、ロザリンから放たれる光を全て受け止めてくれていた。
「《たすく》……」
《たすく》の小さな身体も、光の矢を受け止めながらその力を消耗していた。
《大丈夫。心配しないで……。僕って強いんだよ……》
そう言う彼の小さくて丸い頬に、矢が掠める度に、胸が張り裂けるような思いになった。
光の矢の勢いで、立っているのすらつらい。
(あんな小さな身体で、この力を受け止め続けて大丈夫なわけない……)
イザベルは、ルーファスの腕から飛び出て《たすく》に語り掛けていた。
「イザベル! 危ない」
ルーファスが心配して、イザベルの腕を引いた。《たすく》を抱きしめたいのに、手が届かない。
(私の盾になんて、ならないで……――)
「《たすく》、もういい! もうやめて!」
《……まだ、大丈夫だよ……。僕は、イザベルを守るって言ったよ》
「いい! そんな約束守らなくていいから!」
自習室の四隅では、レンナルト、エリーアス、ディオン、ハンスがロザリンの力を抑え込んでいた。アンガスとカーターも彼らに加わり、必死にその力を受け止めている。誰一人余裕のある者はいない。全員が《たすく》と同じように、目に見えて消耗していた。
(これだけの力だもの。みんなが倒れたら、この学園ごと……いや都市ごと吹き飛ばされるのかもしれない……)
狂気に満ちたロザリンの瞳は、イザベルに向かっていた。
「何わけ分かんないこと言ってんのよ……」
ロザリンが《たすく》への呼びかけに反応するように、イザベルを睨んだ。
絶え間なく流れ出る光の矢は、終わることを知らないようだった。
「イザベル、後ろへ……――」
ルーファスがイザベルの身体をグイッと引き寄せた。
(みんな……こんなに――戦っているのに……。私だけ、守られているなんて……――そんなこと!)
「ロザリン! やめて! そんなことをしたら死んじゃう!」
イザベルは必死にロザリンに語り掛けた。
(彼女が転生者なんだって言うなら……――)
「みんなが死んじゃうのよ! あなたも彼らに癒されていたんじゃないの? だからこの世界に来て嬉しかったんじゃないの? ここは……ゲームだけど、ゲームじゃない! こんなことしたら……――」
「うるさい、うるさい、うるさいっ!! 偉そうに説教すんなっ!!! 私の言う通りにならないなら、こんな世界だっていらない。いらないのよ!!!」
その言葉に呼応するように、ロザリンの力がまた増したのを感じた。
《たすく》の身体はもうボロボロだった。いや――この部屋にいる誰もが、ボロボロの状態だった。
(これ以上、《たすく》に頼れない)
ロザリンの強大な力を前に、優秀な攻略対象者たちもかなり苦戦しているようだった。誰一人余裕のある人はいない。
(ここで諦めるわけには――……)
「ルーファス様……」
「ダメだ!」
ルーファスは懇願するように見たイザベルの腕を離さなかった。
ロザリンに放たれる矢から、ルーファスは全身で守ってくれていた。
「ルーファス様、私を……信じて」
瑠璃色の瞳が、私の懇願に迷っているように一瞬揺れた。
その瞬間、イザベルはルーファスの制止を思い切り振り切った。
「行くな」
そう叫んでいるように見えた。
それでも身体は止まらなかった。止められなかった。
イザベルはそのまま全力で走った。身体に光の矢が掠めるのが分かった。
それでも止めるわけに行かなかった。
イザベルは、光の中心に向かって思い切り飛び込んだ。
「イザベル!!!」
《イザベル!!!》
また、《たすく》とルーファスの声が重なった。
(ふふ――二人って、結構気が合うんじゃないかしら)
そんなことを考えていた。
光の中に身体を投げ出したとき、まるで世界がスローモーションになったみたいだった。
(――あのときと一緒だ)
考えるよりも先に身体が動いていた。ロザリンが、あのとき庇った子どもと同じに見えた。小さな、守るべき子どもだった。
(もしかしたら、この暴発をロザリンも止められずに困っているのかもしれない……。だって――まるで迷子になって、泣いているみたい。もし、そうだとしたらロザリンに必要なのは説得じゃない……)
光の中心にいたロザリンが、信じられないものを見るように目を見開いた。
「な……なに――!?」
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