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第5話 魔法の授業、ツみました

「何あれ? なんで立っているの?」

「女狐様は魔力ゼロらしいよ。この授業見学だって」

「ゼロ? 貴族なのに?」


セレフィード王国では貴族が魔法を使うのは常識だ。イザベルが在籍する最高学年の魔法授業は実践メインで、易々と着いて行けるものではない。

ハート学園でもイザベルは同級生の悪意の視線に晒されていた。聞こえよがしに授業見学をするイザベルを見ながらヒソヒソと話している。


(こんなの、気にしていたって仕方ないわ。それよりも――)


「火よ、灯れ。《フレア》」


同級生たちは詠唱しながら、掌から炎を揺らめかしていた。


(すごい……。まさか、この目で魔法を見られる日が来るなんて――)


自在に炎魔法を操る同級生の姿を興味津々にイザベルは見ていた。


《イザベル、見てるだけ、楽しい?》

(――楽しいわ!)

《退屈しない?》

(しない! 魔法なんて初めてだから、ただ見てるだけでも楽しいの)


イザベルは同級生たちの練習姿を凝視していた。


《そうなんだ~。じゃあ、僕も見せてあげようか?》

(たすくもできるの?)

《もっちろ~ん、ほらっ》


たすくはパタパタと飛ぶと、イザベルの周囲の草木にポンッと次々と花を咲かせた。


「え! すごい!」

《ふふ~、そうでしょ!》


イザベルの声に反応して、同級生たちはイザベルの方を見た。イザベルの周囲だけ色とり

どりの花が急に咲いたのに首を傾げた。が、イザベルが笑って誤魔化していると不審な顔をしながらも練習に戻っていた。


(たすく、もういいよ。ありがとう)


これ以上たすくの魔法を見せてもらうと、さすがに誤魔化しきれない。イザベルはやる気満々の《たすく》を止めた。


《もっと、色々見せたかったのにぃ》

(今度見せてね)

《うん、分かった~》


イザベルは練習に勤しむ同級生グループにそっと近づいた。


「わ! な、なんですか!? 急に近づくと危ないですよ」


傍に近づいて来たイザベルに、同級生たちは驚いていた。


「本当に掌から出ているのね。すごいわ」


掌から揺らめく炎をマジマジと見つめ、イザベルは感嘆の声を上げた。

イザベルの素直な反応に、意外そうに目を見開いたあと、気を良くした同級生がイザベルに色々と説明してくれた。


「詠唱によって、魔法を出現させることができるんです。長く詠唱させることができるようになると、もっと大きな炎を出現させることもできます。魔導士に選ばれる人は、そういった魔法もそうですが、無詠唱もできる人もいるんですよ」


眼鏡をかけたスネ夫タイプの同級生が、早口に教えてくれた。


「へぇ~、すごいわ。手品みたい」


(これ本当にゲームの世界なんだ……)


「テジナ?」

「いえ、なんでもないわ。気にしないで」

「違う詠唱のものも見たいですか?」

「え? できるの?」

「炎魔法は得意ですから」


眼鏡くんは、すっかり得意になっていた。彼の周りにいるツインテールの真面目そうな女子生徒は「先生の指示以外のことはすべきではないわ」と注意していたが、眼鏡くんはその制止を聞く耳を持っていなかった。


「大丈夫なの?」

「ええ、もう何度かやったことはありますから」

「揺らめく熱よ、私の手のひらに集え。形を成し、走れ。《ファイアボルト》」


そう眼鏡くんが詠唱すると、先ほど掌に揺らめいていた炎とは違う、二回りは大きな火球が灯った。


「す、凄い!!! こんな炎を出せるなんて……」


イザベルの驚きに眼鏡くんはすっかり気分をよくしていた。が、急に立った火柱に教師が気付き「アンガス! また調子に乗っているのか!」という怒鳴り声が響いた。


(あ、眼鏡くんってアンガスって言うんだ)


眼鏡くんことアンガスくんは、教師の声に驚き火球がゆらっと大きく揺れた。ちりっと飛んだ火の粉が地面に置かれたプリントにパラパラとかかった。その瞬間、プリントから炎が燃え広がった。


「わあっ!」

「きゃあ!」

《あちゃ~》

「だから言ったじゃない」

「水魔法、水魔法!」

「僕は水魔法は苦手で」


急に広がった炎に驚きの声が上り、イザベルの傍らでも炎が立った。遠くで同級生に指導しながらイザベルを監視していたディオンは、炎が上がるや否や駆け寄って来た。


「イザベル様、大丈夫ですか?」


そう言って、ディオンが水魔法を使おうとした瞬間――。


《イザベル、僕に任せて!》


《たすく》が小さな手のひらを炎に向かってかざし、突然の雨を降らせた。

局所的な大雨に炎は消えたが、イザベルも、アンガスも、ディオンまでもがびしょ濡れになっていた。


「な、なんなんだ。この雨は……」

《ほら、すぐに消えたでしょ~》

(た……たすく――)

《ん? イザベル、驚いた? 僕も結構魔法使えるんだよ》

(それは……分かったから――もうちょっと、加減ってものを……)


「アンガス! 君はなんてことを……」


ディオンにわずかに遅れて現場に来た教師は目を三角にして、水浸しのアンガスを見た。


「す……すみません」

「先生! 私が悪いんです」


イザベルは慌てて教師に縋った。


「なんですか。イザベルさん」

「私がアンガスさんに、余計なことを言ってしまって……――。こんな間近で魔法を見たのは初めてで興奮してしまって、アンガスさんは私のために先ほどの魔法を――。すみません、こんなことになると思わず……。軽率でした」


イザベルは教師に慌てて頭を下げた。その様子を見て、庇われたアンガスも、様子を観察していたディオンも、驚いて目を見開いた。教師は頭を下げるイザベルを見て、徐々に怒りを鎮めて冷静な教師の顔に戻っていた。


「イザベルさん、魔法の実践授業は遊びではありません。彼らも魔法を完全に制御できるわけではありませんから、指示以外のことをしてはなりません」

「はい」

「アンガス、あなたはこの話は初めてではありませんね」

「――はい」

「あなたは自分の力を過信し過ぎる。それは事故につながる危険性があります」

「はい」

「――ところで、ディオン殿下、あの雨はあなたの魔法ですか?」

「いえ、私では……。先生ではないのですか?」

「私ではありません……。あんな局所的な大雨、魔法としか思えませんが、一体誰が……?」


不思議がっている教師の周囲を《たすく》が《僕の魔法だよ~》と言いながらご機嫌に飛び交っていた。雨に濡れたイザベルがくしゃみをすると、慌ててディオンが風魔法で制服を乾かしてくれた。


「殿下、まずはご自分の制服を」

《僕も乾かすよ~》


《たすく》がそう言うと、今度がイザベルの周囲に突然の突風が吹いた。謎の突風によって、今度はイザベルの髪がぐしゃぐしゃになった。


「な、なに!? 今度は突風?」

(た……たすく……!)

《あれ? なんか、違った?》


イザベルは鏡を見ずとも、自分の髪が重力に反して乱れていることを悟った。

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