第4話 ハート学園に転入します
(こ……これは――!!!)
イザベルは、ハート学園の制服に袖を通した。そして、興奮を抑えきれなくなっていた。《たすく》もイザベルの周りをパタパタと飛び回りながら褒めてくれていた。
(いや、これ着てテンション上げるなって言う方が無理って言うか――。攻略対象と関わる気は一切ないけど、やっぱり好きだったゲームの服装は気分が上がる。しかも、めちゃくちゃ似合ってる!)
イザベルは、ビジュアルは整っていた。
(ヒロインほどじゃないけど、イザベルだってきれいだし……。こんな風に女子高生の制服着るのも久しぶりだわ! 攻略対象者がうようよいるハート学園に転入するのは憂鬱だと思っていたけど、ゲームファンとしては制服も着られて、聖地巡りもできてって考えると、そんなに悪いことばかりじゃない気も……)
すっかり制服にテンションが上がったイザベルは、今日から始まる学園生活も悪くないような気もしていた。前世の記憶が戻ってからは、イザベルの不幸な生い立ちも割と客観的に思えていた。イザベルは鏡に映る自分の姿をマジマジと見つめた。
(手足も長いし、スタイルだっていい。化粧はケバいし縦ロールも趣味じゃないけど……でも悪くないわよね。ちょっとスカート短くしちゃおうかな~)
《イザベル、何しているの?》
「え? これはアレンジって言うの。女子高生がよくするの」
イザベルはスカートを折り曲げながら、久しぶりの女子高生気分を満喫していた。
◆◆◆
「婚約指輪を私が自分ではめても無反応、倒れた際は医師や私に頭を下げ、ファーストダンスに声をかけなくても何も言って来ない。極めつけは、ジゼル・グルー子爵令嬢を庇った」
ルーファスはディオンの執務室のソファに腰掛けながら、難しい顔をしていた。
「演技だと思うか?」
ディオンはルーファスに厳しい目を向けた。ルーファスは首を傾げたが「よく分からないが――あの侯爵の娘だ。信用できるとは……。何か狙いがあるのかも」と訝しんだ。
イザベルの父バーレント・フォートレルはヴァルハルド帝国の戦闘狂として知られている。そして、その娘イザベル・フォートレルといえば、他国にその名を轟かせるほどの“男好きの女狐”といわれている。
「私にベタベタしてくることはない」
「そうだな。昨夜ファーストダンスを誘ったときは顔を赤らめて、愛らしかったくらいだ。踊っている最中もちょっと見つめると戸惑った感じも……うん、悪くなかった」
ディオンがにやっと笑った姿を見て、ルーファスは鋭い視線を向けた。
「お前にはイリーナがいるだろう。何を言っているんだ」
「それとこれとは別だ」
「何が別だ。イリーナを泣かせるようなことをしたら、お前でも許さんぞ」
「そんなことするわけないだろう。初心な反応が意外だっただけだ。ちょっと褒めただけで……。お前だって思わなかったのか?」
ルーファスはディオンの問いかけに、一瞬固まった。
(思うも何も……――私には……そんな顔、微塵も見せなかったんだから思うはずがない。私と踊っているときは、つまらなさそうな顔しかしないし、身体だって寄せてくるどころか、離してくるし、二人きりになっても話しかけもしてこないし……)
思い出すと、ルーファスは段々イライラして来た。
「――全く思わない」
「ああ、そう。さすがはルーファス」
「私がヴァルハルドの女狐に篭絡されるなんて、あり得ない。最も嫌いなタイプだ」
(そうだ。あの派手な見た目も、昨夜のドレスなんてひどいものだ。あんなに胸の谷間が見えるようなはしたないドレスを着て……)
ルーファスは昨夜のイザベルの姿を思い出していた。
(そうだ。ああいう女性にはロクな目にあったことはない)
『私はヴァルハルド帝国とセレフィード王国との和平の役目を果たすためにこの国に来たの』
ジゼルを庇ったイザベルの姿も思い出し、何故か胸が高鳴るのを感じた。
「――?」
(まさか……。私が――あの女のことなんか……。お互いただの政略だと分かり切っているわけだし……)
「イザベル様のお支度が整ったようです」
使用人の報告を聞き、ディオンとルーファスが立ち上がった。イザベルを離宮まで迎えに行かなければならない。
(面倒だが、あとあとトラブルになることを考えると仕方ない)
ルーファスは重い腰をあげて、ディオンの後を着いて行った。
◆◆◆
「なんだ……その恰好は――」
《ルーファス、また怒ってる~》
ルーファスの敬語が初めて崩れた。
今日からハート学園に転入するイザベルを案内するため、ルーファスとディオンが迎えに来てくれた。ご機嫌に迎え入れたが、ルーファスは不機嫌な顔を隠さなかった。
「――え?」
(なんか、まずかった? ちゃんと制服着たよね? ゲームのヴィジュアル通りのイザベルになっているはずだけど……)
怒りに顔を赤らめたルーファスがドリスを呼びつけ、何事かを指示し、イザベルはドリスに連れられ部屋へと戻った。
「なんか、おかしい?」
イザベルは鏡に映った自分の姿を確認した。ドリスは無表情に「スカートの丈が短いそうです」と淡々と言った。
(スカート、丈……?)
イザベルは自分のスカート丈を確認した。イザベルのスカートは、ひざが少し見える程度だ。
(ゲームのヴィジュアルだったら、イザベルはもっと短いくらいなのに。なんでこんな程度で怒られなきゃいけないの)
《ルーファス、イザベルの足、見てたよ。目のやり場に困るって。やり場って砂場みたい?》
(砂場とやり場は違うわね。どこ見ていいか分からないってこと。でも、ルーファス様がそんなこと気にするわけ……)
《本当だよ。はしたないって。イザベル、はしたないって何?》
(ああ、そういうこと――。そうだ、あの人女性苦手だった。スカート丈が短いと品がないって思ったみたいね)
《そういうことなの? アレンジ、失敗?》
(そ、アレンジ失敗。ルーファス様って、生活指導の先生みたい)
《せいかつしどう? 何、それ?》
(説明が難しいわね……。とにかく、怖いってこと)
《そういうことか。ルーファスいっつも怒っていて怖いもんね》
イザベルは渋々スカート丈を直した。
お読みいただきありがとうございました!
「面白い」と思っていただけましたら、ぜひ「ブクマの追加」や
下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援いただけますと嬉しいです!
皆さんの応援で執筆のモチベーションがアップします!!!
どうぞよろしくお願いいたします。




