第49話 賭け
先ほどまでの可憐な少女の仮面が崩れ、ロザリンはニタリと獲物を捕らえた肉食獣のような鋭い瞳で笑った。
「――好感度って……」
自分の声が震えていることに、声を発して初めて気付いた。
恐怖ではない。怒りだった。
前世の記憶が甦って、この国に来て、たったの3カ月だ。
しかし、その3カ月間で、彼らがただの“攻略対象者”ではないことに、イザベルは気が付いていた。
「好感度、分かるでしょう? あなたも転生者だって、分かっているのよ。この世界が『ハート学園で恋して』の世界だって分かっているんでしょ?」
ロザリンは、イザベルに何も隠そうとしていないようだった。
じっと見つめるロザリンの瞳は強かで、既にイザベルを仕留めにかかっていた。
(……言い逃れしたって仕方ない――)
イザベルは、こくんと頷いた。
「――やっぱりね! おかしいと思ったのよ。悪役令嬢たちがゲーム通りに邪魔して来ないし。イベントもうまくいかないし。攻略対象者の好感度も上がっている感じもないし。あなたが全部仕組んでいたんでしょう?」
イザベルは、首を振った。
「嘘つかないでよ!」
「嘘なんてつかないわ」
「じゃあ、なんで――……」
「私がしたのは、処刑されないために、スパイ任務をさぼったことくらい」
「そんなわけ――」
「他の悪役令嬢も、攻略対象者も、自分の意思で動いているだけ」
《僕が変な魔法にかからないように守ったけどね!》
ロザリンはイザベルの言葉に唇をかんだ。
「ここは確かにゲームの世界かもしれないけど、彼らにも“意思”がある。何もかも、ゲーム通りに動くわけじゃない。そういう意味では、私たちが前にいた世界と何も変わらないわ」
(だって、私は“攻略対象者”じゃないルーファスに触れ、彼に心を動かされた。彼が私にくれた言葉も、行動も、イベントを攻略したからじゃない……)
「――何よ、偉そうに……」
「そういうことじゃ……」
「ここは間違いなく、ゲームの世界じゃない! 魔法だって使えるし、あんなイケメンたちがチヤホヤしてくれるし……――」
ロザリンは、自分の言葉で、自分を励ましているようだった。
全てを否定するような瞳で、イザベルを見た。
「あなたは悪役なんかになったから終わっているんだろうけど、私はこのゲームのヒロインなのよ」
「――……」
「ルーファスにちょっと大事にされていたから勘違いしたんじゃない?」
ロザリンは歪んだ笑顔を浮かべて、イザベルを見下した。
「でも、今は違う――。ルーファスを選ぶ。あなたじゃないわ」
ロザリンの言葉に、イザベルの胸はザワザワした。
ここは「ゲームの世界」でもあるけど、それだけではない。
そう思っているけれど、「ゲームの強制力」を心の底で恐れていた。
「……図星、なんでしょ?」
ロザリンはクスクスと嘲笑った。
「――そんなこと!」
「だったら……試してみる?」
「――試す?」
「ルーファスが、どっちの味方になるか」
「――は?」
「ゲームのキャラは、自分の意思で動くんでしょ?」
「それは……」
《もう構わない方がいいよ》
(――そうね)
「そんなことを試す必要はありません」
イザベルは、ロザリンの挑発的な視線を冷静に見返した。
ロザリンは眉根を寄せ「悪役令嬢のくせに……」と小さく呟いた。
《たすく》が促すままに、ロザリンの提案は無視して化粧室を出ようとしたときだった。
「逃げるつもり?」
ロザリンがイザベルの腕に手を伸ばした。
その瞬間、ロザリンの腕からふわっと柔らかな光が見えた気がした。
《危ない!》
《たすく》がロザリンに手を掴まれる前に、強い風が吹いた。
イザベルは化粧室で吹くはずのない“局所的な強風”に身構えたが。
が、ロザリンは、《たすく》が放った風に吹き飛ばされ、壁に身体を打ち付けた。
「きゃあっ!!!」
――ドンッ!
ロザリンの叫び声に反応して、ルーファス、ディオン、レンナルト、カーターが駆けつけた。
「――……イザ、ベル」
ルーファスは、倒れたロザリンの前に立つイザベルを見た。
「いっ……たー」
倒れているロザリンに、ルーファスは手を差し出した。
その手を掴む前に、ロザリンは勝ち誇ったような目をイザベルに向けた。
「ルーファス、ありがとう」
「いや、大丈夫か? 怪我は? どうしてこんなことに?」
ロザリンは眉根を寄せて、上目遣いにルーファスを見た。
「私が悪いの……。イザベル様が怒るようなことを言ってしまったんだと思うの」
「――え? イザベル?」
「私は怪我もしてないし、イザベル様を責めないで……」
ロザリンの言葉に、4人の視線がイザベルに集中した。
《イザベル、ごめん。僕、やり過ぎた? あの子変な魔法使おうとしていたから、僕、イザベルを守ろうと思って……》
(《たすく》いいの。気にしないで。守ってくれてありがとう)
《でも――》
イザベルは、ロザリンに静かに頭を下げた。
(――違う)
ルーファスは、イザベルが謝るべきではないことを分かっていた。
けれど――。
(まだだ――……)
ルーファスの目配せの意味を、カーターは理解し小さく頷いていた。
「ロザリン様、大変失礼いたしました」
「そんな……私が……――」
ロザリンはわざとらしく、ルーファスの腕に縋りながら、イザベルを見た。
その口元が、ほんの僅かに吊り上がる。
――勝った。
そう言いたげな笑みだった。
お読みいただきありがとうございました!
「面白い」と思っていただけましたら、ぜひ「ブクマの追加」や「リアクション」、「感想」、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援いただけますと嬉しいです!
皆さんの応援で執筆のモチベーションがアップします!!!
どうぞよろしくお願いいたします。




