第37話 エリーアスの訪問
「わあ! かわいい」
《キラキラだね》
「イザベルが喜んでくれて、アニヤも喜ぶよ」
イザベルの腕には、カラフルなガラス玉を組み合わせたブレスレットが輝いていた。
「最近、こういうものを作るのにはまっているみたいでね」
「女の子はこういうもの、好きですよね」
エリーアスが自分のジャケットをめくると、イザベルと同じガラス玉のブレスレットをしていた。イザベルのものはピンク系統で、エリーアスのものは彼の瞳と同じ紫系統の色味で作られていた。
「ほら、私も」
「お揃い」だというように、ブレスレットを見せた。
イザベルが言う前に、エリーアスの隣に座るロザリンが「かわいい!」と声をあげた。
エリーアスはそんなロザリンに「ありがとう」と微笑んだ。ルーファスはチラッと視線を動かしたが、黙ってお茶を一口飲んでいた。
「でも、どうしてアニヤちゃんがイザベル様に?」
「ああ、この前クッキーを一緒に作ってもらってね。そのお礼なんだ」
「クッキー? そうなんですか。私もお菓子作りは得意なんで、今度アニヤちゃんと作りたいです!」
「そうなんだ。じゃあ、アニヤにも言っておくね」
「はい!」
楽しそうな二人と対照的に、ルーファスはずっと腕組みをして黙っている。
(なんか――。この機嫌が悪い感じは、久しぶりかも)
《ルーファス、エリーアスと仲悪い?》
(うん。そうみたいね)
《どうして一緒に来たんだろうね》
(うーん)
何だかよく分からないが、エリーアスが離宮に寄る話をしたところ、何故かその場にいたロザリン、ルーファス、ディオンも一緒に来たらしい。
「大人数になっちゃってごめんね」とエリーアスは困ったように笑っていた。
(この押しの強さ――。ロザリン様は、エリーアス様ルートを狙っているのかしら?)
エリーアスを楽し気にするロザリンと目が合うと、イザベルは「ふふん」とでも言うように得意気な顔をした。
(なっ……なに? その顔――)
イザベルが違和感を抱いたロザリンの表情は、攻略対象者の誰も見なかったのか、気にしている者は一人もいない。
ロザリンは、イザベルにだけ、挑むような強い視線を向けていた。と、思うと急にエリーアスに上目遣いに接近した。
「さっきまで、エリーアスに魔法の訓練をしてもらっていたんですけど、エリーアスってとっても教えるのが上手ですよね!」
「え? そう言ってくれると嬉しいな。私は教師なんて初めてだから」
「ロザリンの素質も良いからじゃないかな。さすがは救国の聖女だと思ったよ」
ディオンがロザリンを持ち上げた。
「ふふ、ありがとうございます。ディオン様」
「ルーファスもそう思うだろう?」
「ああ――。今日はよく頑張っていたと思います」
「ありがとうございます! ルーファスにそう言ってもらえると、頑張れそう!」
ロザリンは、攻略対象者たちには愛らしいヒロインらしい笑顔を振りまいていた。
(さっきの顔はなんだったの? 幻覚……?)
《なんか、ロザリンから悪い気持ちを感じる》
《たすく》はロザリンの悪意を敏感に感じ取ったようだった。
「イザベル様も、エリーアスの魔法の授業は受けたんですか?」
「あ……私はまだなの」
「そうなんですか! じゃあ、受けるのが楽しみですね。私、魔法の制御の仕方がよく分からなかったんですけど、エリーアスに今日教えてもらったらすっごく上手になった気がして」
「君の場合は魔力量が膨大だから、制御の仕方が大変なんだよ」
「そうなんですね。イザベル様はどうなんです?」
「あ、私は、魔力はないので……――」
「え? ないって……魔力が?」
《知ってるのにわざと言ってるよ》
ロザリンはイザベルの発言に、驚いて目を見開いた。
「ごめんなさい。私何も知らなくて――」
ロザリンは慌てて口を塞ぐような仕草をして、申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「気にしないでください。この国では貴族なのに魔力がないなんて、思わないものね」
「はい……。でも、イザベル様はヴァルハルド帝国の方なんだから、気が付けば良かったのに。本当に失礼なことを――」
《イザベル、こいつ、僕がやっつけようか?》
(《たすく》、いいから。気にしないで)
《でもさ》
「イザベルは、魔力はないが、博識で驚かされることばかりだ」
今日はほとんど黙っていたルーファスの声だった。
彼はまっすぐロザリンを見つめていた。
ロザリンは予想外の彼の言葉に「え? あ、そうなんですね」と驚いているようだった。
「確かにそうだね。福祉社会学の授業のときも、熱心に聞いてくれて本当に勉強家だと思うよ」
エリーアスはルーファスの言葉に同意した。
ロザリンはルーファスとエリーアスの台詞に、少し居心地を悪そうにしているようだった。そのとき、彼女をフォローするようにディオンは「ロザリンも、魔法も、聖女教育も、よく頑張ってくれていると国王が褒めていたよ」と言った。その言葉に、ロザリンは居場所を取り戻したように安堵していた。
雲行きが怪しいと思ったのか、ロザリンはイザベルに「今度私にもいろいろ教えてくださいね!」と、笑顔を向けて来た。
その後も、会がお開きになるまで、ふたたびロザリンのペースで進んだ。
「え? ルーファス、一緒に帰らないんですか?」
何故か見送り側に立つルーファスに、ロザリンは引きつった笑顔を浮かべた。
「私は少しイザベルと相談することがあるから。引っ越しのことで」
「え? 引っ越し?」
ロザリンがそういうと、ルーファスがエリーアスを見て答えた。
「ああ。イザベルが今度公爵邸に引っ越しをすることになったので」
「……え?」
ロザリンの笑顔が固まった。
「そんなの……あり得ない」
と、小さく漏らした。彼女の驚きの声がイザベルと《たすく》には届いていた。
「ルーファスとイザベル様が……一緒に暮らすってこと、ですか?」
ロザリンは驚きで微かに震えていた。
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