第27話 男たちの本音
男たちはロザリンとエリーアスの二人を、笑顔で見送っていた。
二人が施設の中へ完全に入ったのを見送ると、ルーファスとレンナルトは思い切りハァとため息をついた。
「あー、ようやく行った」
「レンナルト、そういう言い方はやめろ」
さすがのディオンは、二人と違いあからさまな表情の変化はなかったが、声のトーンに疲れが見て取れた。イザベルは、養護院の子どもたちと一緒に遊んでいるアニヤの様子を見ていた。
(アニヤちゃんは、みんなと仲良くやっていそうね)
《僕、アニヤの様子見てようか?》
《たすく》はそう言うと、子どもたちの方へ飛んで行った。
畑の外では、レンナルトがうんざりしたような顔をしていた。
「だってさ、俺なんか学園でもずっと一緒なんだぜ。さすがに疲れるって」
「要人をお守りするのは名誉なことだ」
「そうだろうけどさぁ」
レンナルトは、ディオンの指摘に口を尖らせていた。
(え、なんか……この感じ。ロザリンって……)
《みんな疲れているんだね~》
「二人は、授業中は逃げられるんだからいいよな!」
「逃げるとかそういう話ではない。学年が違うんだから仕方がないだろう」
「ディオンは王太子なんだから、学年とか超えて一緒にいてやれよ」
「そんな特別ルールがまかり通るわけがないだろう」
「まかり通るだろう。王太子なんだから」
よほどストレスが溜まっていたのか、レンナルトの愚痴が止まらなかった。
レンナルトは、ジゼルをパッと見るとジゼルの手をグイッと引いた。
「きゃっ」
驚いたジゼルは、ストレスが溜まりに溜まった様子のレンナルトの胸に抱かれた。
ジゼルは公衆の面前での抱擁に顔を赤らめていた。
「レ、レンナルト様……あの――」
「何やってるんだ。レンナルト」
ルーファスが呆れてため息をつくと、「充電だよ、充電!」と吠えた。
「ジゼル……寂しい思いをさせてすまない」
「レンナルト様……――」
「ジゼルを忘れているわけじゃないんだけど……仕事なんだ」
「分かっています。聖女様の護衛なんて、名誉なことですし」
「学園内だけの護衛って話だったんだよ、最初は」
そういうとレンナルトはディオンを睨んだ。
「それがもう一日中……。ジゼルと話す時間もない。――……休みの日くらい別の護衛でも良いだろう」
「聖女がお望みなんだ。レンナルト」
「だからそれがさ……」
レンナルトは明らかに不満そうだった。
レンナルトの腕の中で顔を赤らめるジゼルに、イリーナは目を細めていた。
レンナルトの軽口を窘めていたディオンも、そんなイリーナの頬をそっと撫でた。
「……ディオン様」
イリーナを見つめるディオンの目は、少し切ない目をしていた。
「イリーナ、口さがないことを言うものもいるかもしれないが……」
「分かっていますわ」
イリーナは自分の頬を撫でるディオンの手に自分の手を重ねて微笑んだ。
「ディオン様は王太子殿下ですもの。国の益になることを優先するのは当然ですわ」
先ほどの不安を感じさせない強い笑顔をイリーナは見せた。
そんな彼女の心の内を知ってか知らずか、ディオンは愛おしげに彼女を見つめていた。
(やっぱり――ゲームとは関係性が違う……。それとも、ゲームスタート時はこんなものだということ?)
ジゼルとレンナルトも、イリーナとディオンも、漸く会えた束の間の時間に癒されているように思える。
(この様子を見る限り、攻略対象者にとって、ロザリンとの時間はまだ癒しの時間じゃないって言うことよね……?)
イザベルは二組のカップルを観察していた。
そして、自分の隣にいるルーファスに視線を向けた。
――バチッ。
思い切り目が合って、ルーファスは気まずそうに目を逸らした。
(まあ、気まずいわよね。同じ政略結婚だと言っても、ルーファス様と私は……彼らとは違うし――……)
「――……なんで、畑なんて、始めたんですか?」
ルーファスは、気まずさを隠すように話しかけた。畑を始めた理由を聞く彼は、先ほど畑の真ん中で質問されたときのような責める感じはない。
「え? あ、ああ……子どもたちとしたら、楽しいかと思って。クッキー作りも楽しんでくれたので……」
「ヴァルハルド帝国では畑を?」
「――いえ、そうではありませんけど」
「では、どうやってこんな知識を?」
「――その……本、とかで?」
(前世で家庭菜園の本を読んだり動画を見たりしていたから、全くの嘘ではないわ)
「本?」
ルーファスは驚いた顔をした。
本だけでこんなことをできるものか、不思議がっているようではあったが、それ以上は何も聞いて来なかった。
「あなたは、不思議な人ですね」
(畑はやめろ、とか言うわけじゃないんだ……)
イザベルを見るルーファスは、穏やかな笑みを浮かべた。
――ドクンッ。
(なんで、そんな顔――)
その笑顔を見た瞬間、イザベルの鼓動は強く高鳴った。
――ドクドクドクドクドクドク……。
「そう……かしら?」
「イリーナもあなたと出会って楽しそうだ」
「だ、だったら、嬉しいですわ」
イザベルは異常な胸の高鳴りを感じながらも、平静を装って社交用の笑顔を浮かべた。
「イザベル」
ルーファスは、穏やかな表情のままイザベルを見ていた。
――ドキリ。
(ああ、もう何一々ドキドキしているのよ、私)
「どうか、しました? ルーファス様」
なんとか平静を装っているが、ルーファスの瞳を見つめると明らかに強く胸が高鳴るのを感じた。
(あーもう、私、何を考えているの!? 私の目標は婚約解消なのよ、婚約解消。なんでルーファス様にドキドキしなきゃいけないのよ)
「今日は、このあと王宮に戻ります」
「そう、ですか」
「ロザリンの護衛も続くだろうし、そのことでディオンとも話が合って」
「そう、ですか。毎日お忙しそうですね」
「ええ、あなたとの時間も取れなくて申し訳ありません」
「そんな――……気にしないでください。皆さんお忙しいのは知っていますし。イリーナ様も、ジゼル様もいますから、楽しく過ごしているんですよ」
イザベルが笑顔を見せると、ルーファスは少し口を尖らせた。
「……それは、そうなんでしょうけど。」
ルーファスが、イザベルの顔に付いた泥を優しい手つきで落とした。
「――え……」
(なっ……なんで、ルーファス様が、私の顔に……)
イザベルは驚いて慌ててルーファスから身を離した。
《イザベル~、子どもたち畑も掘り起こせたみたいだよ》
《たすく》がアニヤと一緒にゆっくりとこちらへ飛んで来た。
「かっ、顔……汚れていました!?」
「ええ」
「失礼いたしました。今日も、その、みっともない恰好で……」
「――別に」
《ルーファス、どんな格好でも可愛いって。僕もそう思うよ!》
(――え!?)
「それで……あまり、あなたと最近時間が取れていませんでしたので」
ルーファスは、動揺していたイザベルの顔をじっと見つめた。
「今夜、王宮に泊まりますので、離宮で少し話せませんか?」
「――え?」
「あまり、遅くならないようにしますので……」
「で、でも……お話なら、今でも――」
ルーファスはチラッと周囲に目をやった。
「ここでは――その……」
(みんな、自分たちの世界に浸っているように見えるから、気にしなくても大丈夫そうだけど)
「聖女たちもいつ戻るか分かりませんし、とにかく、離宮にお邪魔しますので」
《ルーファスの耳が赤くなっている!》
(一体、何の話だって言うの?)
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