岡村咲希:特訓とホラー
「ねえ真理、好きな子いるんでしょ?」
「いっ、いないよ」
「はい、動揺した。アウト」
そんな特訓という名の遊びを、空き教室でやっていた。まあ、このくらいなら誰かに聞かれても大丈夫か。真理はそうでもなさそうだけど。
あ、萌仁花が来た。
「見つけた~、2人とも何してるの?」
「ちょっとした特訓かな」
「もにもにも混ぜて~」
「いいよー」
と、わたしは萌仁花に耳打ちする。
真理が「あの、萌仁花にはちょっと‥」と焦るけど、わたしが「萌仁花も知ってるから大丈夫!」と言うと「ええ‥‥」と黙ってしまった。
「そんなに私、分かりやすい‥?」
「分かりやすいというか、わたしたちの周りの様子も変わってたよ。何とは言わないけどね。それらと組み合わせたらすぐ分かるから」
「‥‥‥‥」
ここでわたしはもう一回耳打ちしてみる。
「来るんでしょ? ここに。編入として」
「っ、ち、違うよ?」
「はいアウト」
ドキッとしていた。もう、国家機密とアリシアを守るんだったらもっと覚悟を持ちなさいってば。
‥‥でも、ガマをかけてみたけど本当に編入してくるんだ。楽しみだなあ。真理とアリシアの恋が成就するところ見てみたいなあ。
「ほら、深呼吸。まだ時間あるから特訓続けるよ」
「ええ、勘弁してよ‥」
「好きな子のためだから諦めなさい」
「そんな‥‥」
萌仁花も「あきらめたまえ~」とか言いながら、真理に耳打ちをする。‥‥一見動揺してないように見えるけど、「顔が赤くなったからアウト」と告げておいた。
「もしわたしがスパイだったらどうするの。真理から情報抜き放題だよ」
「‥‥ごもっともです、ごめんなさい」
「謝る相手はわたしじゃないよ。分かったら特訓だよ特訓。そうだ、今度の日曜日会える? 今の真理見てると不安しかないから」
「‥‥ごめん、日曜日は予定があるの‥‥午前だけならどう?」
「おっけー」
そのまま予鈴が鳴るまで特訓を続けた。
でも多分この特訓も『見られている』んだろうなあ。コアなところは絶対自宅でやったほうがいい。
◇
‥‥と思っていたんだけど、日曜日の午前。わたしの自宅で。
「‥‥この2日間でどんな訓練をしてたの?」
萌仁花と2人でどれだけせっついても、真理はうんともずんともいかなかった。
動揺なんてほとんどしていない。少し拙いけど国家機密を守るなら最低限のところはできてるわね。
問題は、性格が2日という短時間で変わるはずがないところ。
「うん、いろいろね」
真理は落ち着きすぎている。静かに笑うだけで、全然動揺していない。
普通の人から見たら少し違和感があるだけで済むけど、わたしはつい2日前あれだけ散々いじめていたばかりだから、落差があまりに大きすぎる。
‥‥そういえば異世界人は転移してきたくらいだけど、その転移がもし魔法だとしたら、この真理も‥‥。
わたしは正直言って少し背筋が寒くなった。政府が異世界人だけでなく、それと仲良くしている真理のこともここまで執拗に監視している理由の一端が見えてしまったような気がする。
これはちょっとしたホラーだ。
「真理、体調悪くない?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
気のせいじゃない。大人びている。
‥‥すぐに「これはこれで逆に怪しいから、もうちょっと加減してって伝えといて」と耳打ちしておいた。
「伝えるって誰に?」
「‥‥自分で考えて。ジュースとってくるね」
「うん」
そう言ってわたしは立ち上がる‥‥萌仁花が「トイレー」と言って先に部屋を抜ける‥‥わたしが少し振り返った時の真理は、口を手で塞いで何かを話していた。
誰もいないのに、独り言。
わたしはもう一度背筋が震えるような気がした。
‥‥大丈夫。真理ならきっと大丈夫。




