岡村咲希:こっそり手伝う
わたし――岡村咲希は、とある木曜日の夜に電話をもらった。
「え、手のひらサイズの石6個と、できるだけ大きいコピー用紙のパック?」
『お願いっ!』
「それくらいなら大丈夫! コピー用紙は今からコンビニ行ってくるね! 石はわたしの家の庭からとってくる! 明日学校でいい?」
『うん、あの、言いにくいんだけど、できれば誰かに見られても怪しまれないような渡し方がいい‥‥』
「分かった、そういえば明日芸術あったよね。スケッチブック忘れたから代わりに登校中にコンビニ寄るって感じはどう? それくらい堂々としてれば逆に怪しまれないんじゃない? 問題は石だけど、下校の時にこっそり1個ずつかばんに入れるね」
『ありがとう、恩に着る!』
そんなものを一体何に使うかは分からないけど、多分アリシア絡みだと思う。わたしでなければ絶対不信がられてたよ。真理はわたしという友達を持って運が良いと思う。‥‥あ、調子乗っちゃったか、てへへ。
しかし、そんなものすらわたしに頼らないと手に入れられない状態ってことは‥‥おそらく真理も、自身が監視されていることに薄々気づいているんだろうなあと思う。政府が絡んでる時点で相当やばいと思うんだけど、やばいものに首を突っ込んじゃったね。ふふふ。
わたしの電話も盗聴されてるのかなあ‥‥いや多分やらないけど。こうして電話をかけてきたってことは、電話はまだ盗聴されてないのかな。いや、もうされてる可能性もあるし、今度言っておかないと。ああ、それとなくね。
でもなあ、アリシアってどういう子だったんだろう。異世界人、うろ覚えだけど、4人か5人くらいいた気がする。他の人とも会ったのかな。あの様子だと毎日会ってるようなんだよね、いつも同じ時間に帰るし。
‥‥獣人っぽい人がいたよね。耳としっぽが生えて動いていた。本当に異世界なんだなあ。
いやまだ異世界人ってのは半信半疑なんだけど、政府が絡んでくるってことはそういうことなんだよねえ。
◇
この宿河原高校の時間割はA・B・Cの3種類ある。1コマ70分だけどそれじゃあ小回りがきかなくて授業の種類が限られる。だから週によって時間割を変えることで種類を確保している。
今週の時間割はC。つまり芸術がある。芸術は美術・音楽の選択制なんだけど、わたしと真理は同じ美術を選択している。だからこうして真理と一緒に堂々と美術の授業のための買い物ができるってわけ。
「ぴぇえ‥‥もにかも美術に行きたいよぉ~‥‥」
コンビニの中で萌仁花がわたしの腕を掴んでいると、「ごめん、待たせたね!」と、大きなレジ袋をぶら下げた真理がやってくる。
と、わたしより先に萌仁花が飛びかかる。
「真理様ぁ、もにかと代わってくださぁい! 誠心誠意お仕えしますからぁ!」
「えっモニカ? ‥‥あっ、萌仁花かあ」
そうやって真理は萌仁花の頭を撫でるんだけど‥‥今のセリフちょっと違和感するなあ。萌仁花が口調を変えただけであの態度だよね。なるほど、異世界人の中にモニカって名前の子がいるのかなあ‥‥女の勘ってやつよ。
そんなことよりわたしも私服警官に説明しなければいけない。コンビニを出たあたりで「もうスケッチブック忘れるって珍しいね」と言いながらぽんと肩を叩く。
時はもう6月中旬。コンビニの中はクーラーが気持ちよく、外に出るとぷわっと熱風を感じる季節。大きなレジ袋をぶら下げて、「しょうがないもん、部屋探してもなかったんだから」と真理は嘘をいとも本当らしく言い返す。
「探す場所が間違っていたんじゃない?」
「うーん、あそこにあると思ったんだけど、勘違いかなあ」
そうやって首をひねりながらレジ袋の中を覗き込んで、また顔を上げる。
強い風が真理の髪の毛を揺らして、鼻にくっつける。
「暑いし急ごう」
「そうだね」
早足で学校に向かった。
◇
異世界人が来た頃から、真理はどこかウキウキしていた。ふわふわすぎて逆に怪しい感じもあったけど、最近はそれも落ち着いてきた。
だからわたしは、美術の授業が終わった頃にこっそり耳打ちで隣の席の真理に聞いてみる。
「ねえ、真理」
「うん?」
「最近恋してる?」
「んんっ!? いや、そんなことはないよ」
真理は慌てる癖もあったけど、以前と比べると落ち着いていると思う。だからこそ、わたしはいたずらしたくなる。
こっそり小声で耳打ちする。
「真理の欠点は思ってることがすぐ表情や行動に出やすいところだから、もうちょっと気を付けたほうがいいよ。隠し事が難しくなるからね」
「‥‥善処します」
「よろしい」
なぜとも聞かず、真理は頷いた。
「それで好きな子は誰?」
「っ、そ、そんなのいないよ、あはは」
「顔に書いてる。ふっふ~ん。男? 女?」
「ノーコメントでっ」
‥‥どうしてそこで選択肢に女が出るのかは突っ込まないんだ。
「‥気を付けてね。相手にも迷惑かかるから」
「‥‥‥‥前から思ってたけど、咲希はもう気づいてるよね」
「しっ」
授業終了後、生徒たちが動き始めてこちゃこちゃしているところだ。誰が聞いているかも分からない。わたしは人差し指を一本突き立てた。
「わたし、ちょっと昔にスパイ映画を見ていた時期があってね‥‥気持ちはわかるけど、ことがことだからもっと慎重にしないと相手に迷惑がかかるよ。ただの色恋じゃ済まないんだからね」
真理にもある程度は伝わったようで、こくんとつばを飲んでいる。
「‥‥分かった」
しゅんと落ち込んでいるけど‥‥「甘いね」とわたしは言った。
「今のは、何の話? ってとぼけるところだよ。もっとやばいことに関わってるって自覚を持って。真理は危機感がなさすぎるよ」
「‥‥うん」
友達らしからぬ真面目な話をしてしまったけど、真理がこくんと頷いていたので良しとする。
「‥‥じゃあ今日の昼休み、ちょっとした特訓しようね」
「え、特訓?」




