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異世界の王女と婚約した私を、日本政府が離してくれない  作者: KMY
第1節 救いの聖女を求めて
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井上真理:なんてことない日常

私――井上いのうえ真理まりは、神奈川県川崎市多摩区にある、神奈川県立宿河原(しゅくがわら)高等学校の2年4組で、学級委員長を務めている。

南武線の宿河原駅から徒歩8分。多摩川がしっかりくっきりはっきり見える。この高校では屋上が立入禁止である代わりに3階テラスが整備されていて、そこからの見晴らしもいい。


「真理ー!」


早めに登校して教室で教科書を読んでいると、後ろから親友が抱きついてくる。

この親友は岡村おかむら咲希さき。真っ黒で肩にかかるほどの髪の毛を持った私と違って、彼女は短髪。寝癖なのか定かではないけど、髪のあちこちがぴょこぴょこ跳ねている。


今は5月中旬。ゴールデンウィークも終わったばかりの、5月12日火曜日。半袖純白のカッターシャツやポロシャツを身に着けた生徒たちが半数くらいいる季節だ。咲希ももう半袖になっているが、私はまだ長袖のシャツ。


「ああー眼鏡かけてるー!」

「いつもかけてるでしょ」

「本を読む時以外は外してるでしょ。ふふ~ん、真理って知性的だね」

「そ、そうかしら。ふふ」


と、にやけてみせる。


「そうだ、来週はもう球技大会でしょ、咲希、ゆうべも夜遅くまで練習してたの?」

「してたしてた! 頭にボールがぶつかってもう大変!」


私の机に手を当てながらぴょんぴょんとんでいる。元気が有り余りすぎているくらいの子だ。有り余るのもどうかと思うけど、この子は見ていて楽しい。そして、いつも私のそばにいてくれる。

なんてことのない、日常。


   ◇


高校は1コマ50か60分で、1日6コマが普通‥‥そんな話を聞いたことがある。でもこの高校では1コマ70分で、1日5コマになっている。

2時間目は10時10分開始、11時20分終了。

真っ白の壁に苔茶色の机と緑の黒板という、美術部の友人に言わせればコントラストの効いた教室で、私の父でもある井上(たすく)先生が数学の教鞭をとっている。

家庭では明るく優しいが、授業では真剣。たとえ私相手でも、難しい質問を容赦なく投げ込んでくる。


「はい、2の50乗は常用対数を用いて解きます」

「やってみなさい」

「はい」


黒板まで来て、白いチョークですらすらと計算式を書く。そばに父がいると意識することはほとんどない。先生として平等に見てくれるのが、居心地がよかった。そんな父は太っても痩せてもなく、背の高さは成年男性の中では標準的。メガネをかけるところは私も遺伝しているかもしれない。


「よろしい。正解だ」

「はい」


私が席に戻っている途中から、先生の説明が始まる。


「いま真理が‥‥井上が書いた通り、桁数やおおよその数字なら常用対数でも計算できる‥‥」


クラスから笑い声が漏れる。私の父はそこまで自分の娘に対してドライにはなれないらしい。私は平静を装って椅子に座る。

そして、すらすらとノートに文字を書き進める。


「‥‥‥‥ん?」


この教室では、左側‥‥南側に窓があり、光が差し込む。でも私の手元が急に真っ暗になった気がする。

はっとして上を見る。

周囲から椅子ががたたと床をこする音が聞こえてくる。


「きゃあっ!」


その少女は‥‥そのまま、どっかりと私の机の上に腰掛ける。

なに、上から人が落ちてきた?

どういうこと?


混乱していてよく分からなかったが‥‥少なくとも金髪の外国人風の女の子で、着ているものはこの学校の制服ではない、ということはすぐ理解した。

幻覚? 気のせい? 夢? ‥‥と思ったけど、周りからの音を聞くと、そうでもないかもしれない。


「誰この人」

「え、7人いるぞ!」

「なにっ?」


敵か味方かすら分からない7人組が一度に現れて、私の目の前に座っているのはその1人らしい。教室は混乱しているが、私はその少女から目が離せない。

一概に外国人は美人だと聞いていたが、この少女はかわいらしく、ぷりっとした薄いピンク色の唇に、つぶらな瞳。瞳の色は逆光でよく見えないが、少なくとも黒ではないようだった。

そしてさらさらした長い金髪が、風を照らすように、孔雀のように美しく舞い、輝いていた。

甘く上品な匂いがこちらまで漂ってくる。

その姿を見るだけで心臓の鼓動が上がってくるのを感じる。

時が止まったように感じる。

私の体に電流が流れたように感じる。


「生徒たち、全員外に出なさい!」


先生の声が響くけど、私は体が金縛りにあったかのように動かない。

それだけに、この金髪の子の姿をもう少し眺めていたかった。


「‥驚かせて申し訳ありません」


しゃべった?

口が動いても人形のような顔立ちが崩れることはなく、むしろ小ぶりの口にあわせてかわいらしく動いていた。


「敵意はありません。わたくしは異世界から来たアリシアと申します。どうかわたくしとお友達になっていただけませんか?」


夢のようだった。

こんな子と友達になれるなら‥‥と、美しい見た目に意識を持っていかれそうになる。


「井上、逃げろ!」


そんな怒鳴り声が聞こえ、先生がここまで駆け込んでくるので‥‥「っ、は、はい」と、私はよろけるように椅子を立つ。腕を掴まれては考える暇もない。


「あっ、待って‥お待ち下さい!」


後ろから、アリシアという少女の声が聞こえる。でも私には、先生を止めるとか、そういうことまでは頭が回らなかった。ただ言われるがままに、教室から引っ張り出された。

そして‥‥。


「男男男男男男男男男男男男男男ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!」


などと叫びながら、アリシアの仲間らしい少女が、同級生の小林こばやし俊樹としきに馬乗りになっているのが、ちらと見えた。

この高校では、前後にある引き戸の窓からしか中を伺えない構造になっている。廊下へ引っ張り出された時に振り返ると‥‥その窓にはもう多くの生徒が食いついていた。


「君たち、ドアから離れなさい。今すぐグラウンドに行って! 廊下は走るな、落ち着け!」


騒ぎを聞きつけた隣の教室から先生が飛び出してきて井上先生に確認し、すぐ教室に首だけ突っ込んで指示を飛ばし、自身はまた隣の教室へ駆け出す。

そのころには、小林がよろけるように廊下へ戻ってきた。冬服だったが上着の片袖が外れていて、ズボンもどこかしわが多いように見えた。


そのまま全校生徒は、私たち2年4組の教室を避けるように廊下を駆け、グラウンドへ集まりだした。不審者が来た時と同じ対応だった。‥‥あのアリシアという少女、見たところ敵意はなさそうだったけど、それでも不審者扱いするのだろうか。少し心にわだかまりがこみあげてくる。

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