表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/45

赤荻誠二:当該集団内の序列に組み込まれる

はぁ、小職――赤荻誠二は鬱だよ。面倒だよ。会議なんて行きたくないよ。真理ちゃんの報告これ以上聞きたくないよ。頼むからやめてね、うん。ていうか今日は小職も真理ちゃんのこと報告しなければいけないんだけどね。


うん、対面面談の時に真理ちゃんが戸惑っていたのは知ってるけどね、小職が知りたいよ。どうして異世界人たちが真理ちゃんを敬っているわけ。そりゃアリシアと仲良くしてるからってのはわかるんだけど、それにしては丁寧すぎない。小職にも他の政府関係者にも一度もやってこなかったよあれ。しかも家名だよ。家名あるのも貴族ってのも小職たち政府関係者は初めて知ったんだけどね。なんで小職たち差し置いて最初に真理ちゃんに名乗っちゃうのさ。そんなことしたら真理ちゃんがどうなるか理解してる? ああ、異世界の人には分からないのか? もしかして。

あのね、外交って知ってる? 日本政府としてはあの人たちとのちゃんとしたパイプを持ちたいわけ。で、小職や職員たちが頑張って仲良くなろうとしてるわけ。今までは真理ちゃんを使ってパイプを増やそうってスタンスだったの。今まではね、真理ちゃんはあくまで『お友達』という位置づけだったの。だから日本としての込み入った話は真理ちゃんからは出さない。まあそれでも日本唯一で政府としてもとても貴重な存在ってのは変わらないんだけどね。

それ差し置いて異世界人が真理ちゃんだけ特別扱いしちゃうってことなの。真理ちゃんが異世界の半ば公的な窓口になっちゃうってわけ。小職たち日本政府は真理ちゃんを通さないと思うように交渉できない可能性も出てきちゃうわけ。相手は魔法という未知の軍事力を保有しているだけでなく、日本、ひいては世界の発展につながる魔法技術を持ってるし、しかもこれ異世界人がおそらく初めて地球に転移してきたわけでしょ。日本がそれに関する先行者利益を持ってるわけ。今もアメリカをはじめ諸外国から照会がばしばし来てるんだよね。だから異世界との外交は、そこらへんの地球国家との外交とはわけが違う。それと繋がる唯一のパイプになられちゃあ、政府としてはもう真理ちゃんのこと保護を通り越してね、うん、そのね、なんていうかな。そういう扱いをしなきちゃいけないわけ。ランクアップするの。


ああー、無断念話するなら気をつけろってリスクおかして連絡した意味全然ないじゃん。もちろん今の真理ちゃんは、小職たちから観測している範囲内では何も悪くないというのは理解してるんだけどね。無断念話で一体何話してたの? 一体アリシアに何話したらこんなことになるわけ? こっちが聞きたいよ、全部聞きたいよ、はぁまったく。


現実に、異世界人が真理ちゃんをああいう扱い方をしたせいで、外交上の影響はもう出始めている。あ、未承認国家だからウィーン条約に基づく特権、いわゆる外交特権とかアリシアたちは持ってないんで、あくまで準外交っていうけどね。

だってあのあと小職、異世界人たちに苗字や家名についてヒアリングしたの。苗字があるなら戸籍や学校でもそれ使いたいじゃん。王族はもともと持ってないようだし、平民だという2人はすぐ教えてくれたけれど、貴族はどうやっても教えてくれなかった。教える意味がない、この世界の人に゙貴族の礼は不要、との一点張りで。いやそれは(中世ヨーロッパ? の価値観として)分からないでもないんだけどさ、ここは現代日本だよ。教えてくれたっていいじゃない。

ということでお願いした相手が真理ちゃんなの。わかる。昨日日曜日、どうせ今後面会する予定だったからと緊急で行った残り4人の異世界人との面談は、真理ちゃんという未成年国民がはじめて、政府にお願い(事実上の要請)されて、政府にとって必要な情報を取りに行った瞬間なの。これ、どれだけ重大な話なのか分かる? 倫理的に完全アウトだし露見したら説明できないよ? 政府が未成年使うの創作では当たり前のようにやってるけど現実でやったらすごくやばいから。

いや苗字という情報自体はそこまで重要ではない。でも、他の情報も同じ調子だったらすごく困る。真理ちゃんが国家機密に関わりかねないから、まあ現段階ではまだ様子見だけどね、政府としても真理ちゃんが将来は国家公務員になるよう誘導しなくちゃいけなくなるかもしれない。そうすれば上司と部下、組織の一員として指示できるからね。で、こっちの味方として取り込む。真理ちゃんは『外交の駒』になるから日本政府でコントロールできる状態にしなくちゃいけないの。だから真理ちゃんにはあんまりアリシアに情が入りすぎても日本政府としては困るの。

もちろん小職も嫌だけど、それはあくまで真理ちゃんが監視されるかもという方向なんだよね。だからこの前こっそり電話したわけだけど‥‥本当は念話をやめてほしいけど、真理ちゃん楽しそうにしてるのを思い出して電話するギリギリのところで、念話するなら隠れてやれっていう方向に傾いてしまって‥‥それであんな電話になってしまったんだけど、ストーカーとか言われるとね。つらいところねこれ。


小職の認識というか漠然とした想像で言うんだけどさ、


真理ちゃん、日本政府と異世界人の間で取り合いが始まってない?


確かに異世界人にとって無断念話で何でも話せる真理ちゃんは日本を知るうえで重要な情報源だ。だから取り込もうとするのは当然の行動で、念話もその一環‥‥という考え方もできる。でもこれ素直に報告すると真理ちゃんの監視が増えるんだよなあ‥‥日本政府の利益と真理ちゃんのプライバシーで板挟みなんだよ。誰か胃薬わけてくれよ。


無断念話(会議の中ではまだ強い疑惑止まり)・小職による情報漏洩の件も絡むからさすがに同僚にも相談できない。「ああ真理ちゃんが、俺の真理ちゃんがあああ」と、喫煙室の中でテーブルを叩いてごまかすしかない。


「元気出せって、ほらビール」

「それオレンジジュースだろ、まったく、言うなあ」


小職はそれをラッパ飲みした。


   ◇


「文科省です。研究チームのうち言語分野においては、異世界言語の解析を継続しております。文法は地球上の既存言語との類似点も確認されておりますが不明瞭な点も多く、引き続き時間を要する見込みです。魔法分野ではエレナ協力のもと物体加熱魔法の観測を進めていますが、現行の設備では対象の温度変化以外の有意なデータが得られておらず解析は限定的です。退院後は大学などの設備での検証が必要と考えております。あわせて社会分野ではマノラに対する聞き取りを開始しています」

「警察庁です。クロエの飛行について厚労省と協議の上、健康面での大きな懸念はないとの評価を踏まえ、短時間の実施に向けて関係省庁と調整を進めております。場所は区民体育館の屋内を想定しており、警備および検証体制の準備を進めております」


まあ当然だけどこの世界にないものが突然現れたってことは研究や監視の対象になるんだよね。と当たり前に思ってたんだけど、身内が関わりそうになったら急に苦痛になるのは人間のエゴってものだと思う。まあ顔に出したらクビになるから平然としているね。


「内閣官房の赤荻です。異世界人の家名について続報です。爵位・家名を有する人を4名確認しました。関係者と協議の上日曜日にヒアリングを行い、各自の呼称を整理しております。現在、児童相談所において関連情報の更新手続きを進めており、数日以内に反映される見込みです。学校編入には影響しません」


関係者と協議の上って、この関係者に真理ちゃんが含まれるんだよね。未成年だから政府としては存在をぼかすしかない。未成年未成年言ってるけど、未成年を使って情報を集めること自体がグレーなんだよね。だから議事録に残しちゃいけない。

‥‥でも、ここにいる大抵の人は井上が関わっていることに気付いてる。案の定、どんどん手を挙げてくる。


「外務省です。井上が当該集団内の序列に組み込まれている可能性、ならびに接触経路の偏在について留意が必要と考えております。今後の接触のあり方について一定の整理をお願いするとともに、必要に応じて当方からの関与も検討させてください」

「警察庁です。ヒアリングの件について、特定の一般国民に情報が集中する状況は好ましくありません。当方としては先週の報告を踏まえ井上の警備計画の見直しを進めております。また無断念話の可能性もふまえ監視体制強化を検討しておりますが、対象は未成年であることから慎重な検討が必要です。現時点で把握可能な範囲での行動分析を強化しています」


未成年の関与はもちろんのこととして、その人ばかりに機密情報を集めたくないのはこっちも同じだ。ていうか小職個人も同じだ。

真理ちゃんのことはもうちょっと優しく扱ってほしいけど、政府としてそういうわけにはいかない。


‥‥でも真理ちゃんまたアリシアと念話するかもしれないから、念のため釘をさし‥‥わずかでもいいから配慮してもらおう。


「内閣官房の赤荻です。ご指摘の点は重々承知しておりますが、対象が未成年の一般国民であることを踏まえ、バランスを取り慎重に対応していただければと思います」


こんな言い方で監視が緩むとは思わないけど、少しは足枷になるといいなあ。なるといいなあ。なったらいいなぁ。はぁ。本当にただの一般国民だったらどれだけよかったことか。小職の親戚なんだよね。ちくしょう。胃薬の錠剤びん1個分を一気飲みしたい。


さて、次は‥‥新居の報告か。異世界人が退院したあとに住む場所ね。久地駅から歩いて12分の、多摩川に隣接した5階建てマンションってことは決まってる。このマンションは構造上、ひとつの階段やエレベーターに全住民がアクセスするわけではない。

このうち2階と3階の角部屋を借りた。どちらも4LDKで、4人と3人に分かれて住むことになる。しかも4階と5階はエレベーターで行けるから、鉢合わせするとすれば1~3階の人だけか‥‥うん。階段の出入り口にさえ気をつければ遭遇リスクはけっこう小さいという判断をした。

駐車場は確かにある。ただ今回借りる角部屋の真下、つまり同じ階段で到達できる1階部分に車の出入りできる場所がある。ここを使って車に乗ることもできるから、機密性も保持できる。

マンションの南側に直接面した道路はない。他の家がマンションに直接隣接してる。反対側は川。人に゙見られるリスクはさほど大きくない。

物件借りるだけでここまで考えなくちゃいけない。異世界人の取り扱いって大変なんだよ、まったく。特に今回、獣人と鳥人がいる。獣人は秋葉原で変装する人もいるし女子高生の痛い趣味でごまかせるけど、鳥人は翼が隠せないんだよね。どうしようかなあ。


で、アリシアたちはここから徒歩で久地駅まで行って、そこから電車で宿河原駅で下りて登校することになる。いや実は高校も多摩川沿いにあるんで、徒歩で直接高校へ行ったほうが早いんだけど、警備上の理由であえて人の多い場所を通ることになっている。意外に思われるかもしれないが、人が多いと警備員を置いても不自然ではないと思われるし、人混みに紛れてマスコミから逃げられるし、尾行もまけるし家を特定されるリスクも下がるし、久慈駅と宿河原駅は南武線以外の電車、乗り換えがないから導線もシンプル。行けるっちゃ行ける。


「厚労省です。編入に向けた異世界人居住先について報告いたします。住居付近に別途物件を確保し、生活支援員ならびに警備の詰め所として整備を進めております。現時点で体制整備は概ね完了しており、リハーサル訓練も実施済です。いつでも受け入れ可能な状態になっております」


住処はもう押さえてるけど詰め所が同じマンションからとれなかったから、近隣の物件を探してもらった。これは変装すればなんとでもなるから基本どこでもいい。ここを事務所代わりにして異世界人の行動を監視したり、生活支援したりする。異世界人って病院内にあったトイレやシャワーはともかく、コンロとかテレビとか使ったことがないんだよね。

‥‥でもここで小職は言いたいことがある。


「内閣官房の赤荻です。異世界人は水晶玉の件や病室での監視体制により一定のストレスを感じており、不信感も見られます。今後の関係維持の観点から、居住先における室内監視については一定の配慮が必要ではないかと考えております」


うん、小職としては真理ちゃんを守りたいわけよ。でも小職は真理ちゃんの親戚だから、直接言及すると角が立つ。だから異世界人の名前を使って真理ちゃんに配慮してもらうわけ。なんでかって? 念話は最低するだろうし、なんなら病院の先生から報告のあった転移魔法使う予感しかしないんだよね。どうやるかは謎だけど。ていうかそもそも念話もなぜできたか謎だけど。はぁメカニズム教えてくれよ。

あ、警察庁の担当者が手を挙げた。


「警察庁です。異世界人には外部との念話の可能性が指摘されており、現時点で監視緩和は慎重であるべきと考えます」

「赤荻です。念話魔法の存在についてはすでに共有されており、一定の協力も得られる余地があると認識しております。当該能力の把握・分析を進めることも有効ではないかと考えております」

「警察庁です。現時点でもすでに外部への情報漏洩の可能性が否定できず、事態が差し迫っているおそれがあります。研究進展を待つ前提での対応は現実的ではないと考えます」


‥‥おじさん頑張ってみたけどだめみたい。真理ちゃん頼むから頑張ってくれ‥‥。ああ胃薬、やっぱり1瓶追加で。え、オーバードーズ? 小説の中だからいいんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ