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井上真理:念話のない夜

翌日、金曜日。公私混合モードの赤荻さんから電話をもらったことをアリシアに伝え、しばらく念話を休もうと言われた次の日。


お父さんに言われた通り、萌仁花と一緒に朝早く学校に来た。机の中にある腐った食べ物を回収するのにも都合がよかった。人が少ないうちに、ビニールを巻いた手を机の中に突っ込んで、においを拡散しないように回収。においを防いでるのがビニールだけなので不安だけど、かばんから目を離すのも怖いので制服のポケットに入れる。‥‥アリシアってほうれん草のおひたしを食べているんだ。苦いけどちゃんと食べられているのかな。それとも特別な味付けでもしてるのかな。食べてみたいけどやめておく。


約束通り生徒指導室に行ってみた。指導の教員が腕を組んで待っていたが、私の顔を見るとすぐ「座りなさい」とソファーを指差す。

ここって生徒が叱られる場所ってイメージがあったんだけど、今回は本当にただの情報共有だけらしい。


「あのね‥‥例の話のは知ってるよね」

「はい」


けっこうぼかして言ってくるなあ。


「順調に行けば22日になりそうなんだ。まだ確定ではないけどね。学校としてもいろいろ考えてる途中なんだけど、無理にとは言わないけどね、最初に話してあげられる? お願いできないかな?」

「はい。そのつもりです」


最初に声をかけるもなにも、生徒全員がわーっと集まるほうが不安なんだけど。


「‥‥すみません、逆に生徒が集まりすぎてしまったらどうしますか?」

「そこは学校のほうでうまいことやるよ。井上は無理に何かしなくてもいいよ。最初に声をかけてくれるだけでいいから」

「‥はい、分かりました」


22日。そうか、22日か。こうして具体的な数字が出てくると、けっこう現実味が出てくる。

アリシア、本当にこの学校に来るんだ。

ふふ、早く会いたいなあ。


   ◇


さて、生ゴミ‥‥ではなくて、これはただの、ほうれん草のおひたしを1日程度常温に放置して腐ったもの。これにアリシアの魔力が強く入っているらしいんだけど、目には見えないなあ。いたって普通の食べ物に見える。あ、ビニールあけたらにおいはすごそうだけど。

ましまし見てるけど、ここはもう私の家だから大丈夫。‥‥アリシアとのオンライン面談は終わったし、夕食は下だから、夕食の前にこするってどうかな。部屋に戻った時ににおいすごそう。ええい、もういいや。

こすってこすって‥‥。


そっか、今夜はアリシアとの念話、ないんだね。たったそれだけでさみしくなるなあ。でも大丈夫。しっかりアリシアからお願いされてこれをやっているから。

‥‥やっぱりアリシアの声が聞きたいなあ。


そういえばオンライン面談も対面も、全部音声はスピーカー越しだった。対面も空間は完全に遮断されていたからね。警察の面会室とはわけがちがって、音声は機械越しになってしまう。だからあれが‥‥あの念話が、アリシアの本当の声なんだ。

そう思うと、最後の念話からもう1日経っているはずなのに耳がくすぐったくなってしまう。


食事が終わったら階段をかけて部屋に戻る。案の定においがあった。私はそれをラップに包んで捨てて、置いた場所を水拭きする。えっとこの場合、強くこすってもいいのかな。しみがついちゃうけど‥‥‥‥一応放置しようか。

さて、と私は、机の端っこにできたその跡を見ながら自然と笑顔になっていた。

ここに贈り物が来るって言うけどいつ来るのかな。楽しみだな。

今くる? ‥‥なわけないか。明日かあさってだよね。


‥‥最初に来たのは月曜日の朝だった。小さいものだったけど、ベッドから起きた時にすぐ机の上に乗ってるのに気づいた。この前もらったのと同じ、チョコっぽい何かの甘いお菓子だった。

アリシア、念話はお休みになっちゃったけど私のことをまだ見てくれるんだなあ。私からお返しができなくて申し訳ないけど‥‥なにか考えないとね。そう思いながら笑顔で2回目のそれを頬張った。

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