表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/45

井上真理:上下関係

このあとモニカ・エレナの面談があるんだけど、それぞれ別の面会室でやるらしい。ああそっか、この部屋はさっきアリシアが座っていたばかりだから、感染症とか考えると別の人を座らせることはできない。清掃の都合だと思う。

私はアリシアと同時に部屋を出て‥‥「あっ」と思わず声を漏らす。


私のような訪問者と、隔離病棟の患者は、入れる場所が完全に分けられている。

つまり面会室を出たあと、私の歩く廊下と、アリシアの歩く廊下は同じではない。部屋のドアが立ち並ぶ廊下で、ドアの反対側には透けない分厚い壁があるが、その合間に、非常口の標識とともに少しだけお互いの廊下が見える位置がある。もちろんガラスと陰圧管理対応のドアで区切られている。

でもその向こう側に‥‥スタッフ3名に囲まれたアリシアの姿が見える。

目が合う。どきっとするけど‥‥すれ違える時間はそんなに長くない。アリシアはすぐにこっと微笑んで、軽く会釈してくる。私も精一杯、私なりに会釈した。


ちらっと会えるとは思わなかった。突然すぎることで、心臓がどきどきしているのにすぐ気付く。

‥‥アリシアともっと話したいな。でも念話は‥‥。


   ◇


「真理様、お会いできて嬉しく思います」


アリシアから話を聞く限りモニカはもうちょっと軽めに話す子というイメージだったんだけど、初対面のモニカは私に深く頭を下げてきた。

獣耳もぴったり静止している。

目上の人に礼をしているかのように、手を股間に寄せて、深々と頭を下げてくる。

アリシアと同様の控えめな私服なのに、まるでメイド服を着ているように、芸術を感じるほどきれいな一礼だった。

学校でのダンス鑑賞で上品な礼を見たことはあったが‥‥やっぱり本物の城にいて本物の王族に仕えている人はレベルが違う。恐縮しないわけにはいかない。


「あっ、ありがとうございます‥‥あの、あのっ‥座りましょう?」

「真理様から先にお座りください」

「あのね、モニカさんっ‥その、日本では初対面の人に゙ここまで深く頭は下げないです。ほら私たち、同じ学校の生徒になる予定でしょう?」

「‥‥同じ学校の生徒ですとこのような礼はなさらないのですか?」

「はい。モニカさんはアリシアさんの従者ということですが、日本では従者という概念はほぼないので、変に思われてしまいます」

「‥‥‥‥そうですね、そういうことにいたしましょう」


モニカはどこか不服そうだったが、それ以降は普通に話してくれた。‥‥アリシアに比べるとすごく丁寧な子だと思った。なんとなく私を上に見ているような気がする。同じ学年同士で目上とか目下とかは違和感があるのでやめてほしいが、時間をかけて伝えていくしかないだろう。


「その耳は動かせますか?」


と聞いてみると、ぴょこぴょこ動かしてみせた。かわいい。思わずくすくす笑ってしまう。


「日本ではこれは面白いのですか?」

「かわいくて笑ってしまいました。この世界には獣人がいないので、可愛い耳が動いていると思わずほっこりしてしまうんです。かわいい友達がたくさんできると思いますよ」

「‥‥やはり殿下には多くの人が社交を求めるでしょうか?」

「‥‥ええと、学校では社交という言い方はしないです。友達付き合いとか、もっと軽い感じです。アリシアさんたちは異世界から来たので注目度が高いです。しかも別の学校ならまたしも、私たちの学校は転移を目撃しているのでごまかしもききませんし、めいっぱい集まると思いますが、混乱が起きないよう私も頑張ってお手伝いしますね」

「‥‥あたしたちの方でなんとかします。あたし、こういうのには結構慣れているのです」

「ふふ、モニカさんのところにも結構集まりますよ。かわいい獣耳はとっても珍しいですから。しっぽはあります? ‥‥あるんですね、かわいい。触りたいなあ‥‥あ、失礼しました。モニカさん含めて全員が、ね、多分元の世界の王女くらい大変になるんじゃないかと思います」

「‥‥真理様にご負担をおかけするわけには‥」

「それも含めて友達ですから、遠慮はいらないですよ」

「友達だなんて、おこがましいです‥‥」

「モニカさんは大袈裟ですよー。もっと気楽でいいです」


モニカは恐縮していた。文化の違いもあるからなんとなく話がずれている感じはしたけど、少しでも打ち解けれるといいな。


   ◇


モニカの次はエレナだった。アリシアと同じ人間族で、見た目は人間と全く同じだった。


「あ、あのっ、真理様、お初にお目にかかります。第一魔法師団副団長、ならびにアリシア王女殿下の護衛を務めております、マルドナド侯爵家長女エレナと申します。本日は貴重なご機会をいただけましたこと恐悦至極に存じます」

「あっ、は、はいっ、私は宿河原高校2年4組でっ、学級委員長を務めさせていただいております、井上真理と申します、っ」


あまりに挨拶が丁寧すぎたので私も思わず反応してしまう。先週アリシアに見せてもらったカーテシーを申し訳程度に真似してしまったけど、全然似てなかったと思う。アリシアは絶対頭下げてなかったと思うし、そしてアリシアもエレナももっと上品だったから。


「とりあえず座りましょう」

「真理様からお先に」

「そういうわけにはいきません。あの、異世界では初対面の人に゙かなり丁寧に接する習慣はあるかもしれませんけど、同じ学校の同級生になるのですから、対等な友達のつもりでもっと気軽にお願いします」


なんかモニカの時も同じ説明をしていたような気がする。

気を取り直して。


「苗字をお持ちなのですね、初めて聞きました」

「苗字というか、私の場合は家名です。マルドナド侯爵の令嬢でございます」

「えっと‥私は爵位を持っていないただの井上です」


日本でも明治時代には爵位があったと聞いたことはあるけど、いま爵位を名乗られても困る。こういうことって現実にあるんだなあ‥‥程度の衝撃だった。

でも今の日本に身分制がないことを伝えないのは学級委員長としてちょっとまずい、と思い直した。だって赤荻さんからこの面談をお願いされたときは、アリシア以外の子にも学級委員長として会ってほしいという話だったから。


「あの、初対面の方にとても言いづらいのですが、その‥‥学校では爵位は仲のいい友達にだけ教えたほうがいいと思います」

「なぜですか?」

「偉そうに見えてしまうからです。最初は異世界にある貴族制度はいったんなかったことにして、みなさんと同じ一般の人ですよって感じをできるだけ出すと仲良くなりやすいと思います、あ、ごめんなさい、せっかくの面談なのに説明とかアドバイスばかりになってしまって‥‥」

「なぜ異世界の人に゙家名を名乗る必要があるのですか?」

「え?」


沈黙が走る。エレナはいたって真顔だった。私は目が点になった。さっき私に名乗ってたばかりだよねそれ、どうしてそんな質問になるの。‥‥‥‥私以外の生徒に名乗らないんだったら問題ないよね、切り替えよう、うん、そうしよう。私は現実から目を背けて、話題を変えてみることにした。

‥‥エレナもモニカほどではないけど低姿勢だった。異世界人は姿勢が低いのかなあ。引率しているアリシアに合わせているのかなあ。いい人たちでよかった。


   ◇


面談を終えて廊下に戻って少し待つと‥‥赤荻さんが頭を抱えながら歩いてきた。何か悩みがあるらしいが、どうせ仕事絡みのことだし聞かないほうがいい。


「‥‥はぁ、真理ちゃんなんてことをやらかしてくれたんだ‥」


え、私? 私のせい? え、え? 全く心当たりはないんだけど、むしろ変なことをしたのは向こうの方で。変って言ったけどあの人達は異世界の文化に合わせているだけで、そこまでやばいことでもないよね。私もこの世界の人達と仲良くなれるようフォローしたし。会話にまずい点でもあった? ていうか親戚モードになってる?


「‥赤荻さん?」

「‥あっ、失礼いたしました」


すぐビジネススマイルに変わる。私は必死で失笑を我慢する。

朝の悩みはまだ続いてるけれど、3人と話すうちに少しは落ち着いたみたい。アリシアだけでなく残りの2人もいい人でよかった。大変なアリシアのことを支えてほしい。

私にできることがあったら力になりたいと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ