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井上真理:寄り添う

「おかえりー!」


今日のお父さんはいつもよりちょっと帰りが遅かった。でもってまもなく21時だから部屋に入らないといけない。


「ああ真理、あさっては早く来いって生徒指導が言ってたぞ」

「うん、分かった」


多分、編入の話だと思う。


「‥‥それと真理、楽しそうだな」

「えへへ、えっと‥通話が楽しくて」

「そうか、まあ、ほどほどにしときなよ」

「うん、木曜日と部活以外は学校に影響ないようにする」

「ああ、気を付けてな」


ああ、もう21時いってる。小走りで階段を登って自分の部屋に入ると同時に、今日の念話が始まる。


『真理さま‥!』


ドアが閉まったばかりだからちょっとあせったけど‥‥大丈夫だよね。いつも通り口を手で塞いで、慎重に声を絞って返事する。


「こんばんは。大丈夫ですか? 何があったのですか?」

『‥‥何でもありません』

「涙声になっています」

『‥‥‥‥っ』

「つらいことありましたか? 何でも言ってください、話を聞きますから」

『‥‥‥‥ありがとうございます』


アリシアの声が聞こえなくなったので、その間に私は‥‥窓のカーテンが開いていたので閉めてから、机の椅子に座る。そのころには、続きが来た。


『魔法の使用を厳しく制限されました。ですが日本には魔法が存在しないので、わたくしたちが勝手に使うと非常に目立って警備も大変になりますから‥‥』

「日本の言い分は考えなくてもいいですよ。それはさっきまでの異世界人同士の会議で話してたことでしょう? 私はアリシアさんの気持ちが聞きたいです」

『‥‥‥‥ありがとうございます』


そこからのアリシアの説明は‥‥聞くほどひどいと思った。


確かにアリシアが思っている通り、今の日本のど真ん中で魔法を使ったら誰構わず集まって、SNSで簡単に動画や情報が流れて、外国からも圧力がかかってきて、アリシアたちは研究対象としてあちこちへ連れ回されてしまう。

魔法を使わないのも大変だけど、使うともっと大変なことになる。日本の生活をよく知っている私からすれば、日本は大きな代償やリスクを避けたがっているんだと思う。そして、このルールはアリシアたちが日本でできる限り平穏な生活を送るためにもなると思う。

現代日本にとって魔法ってそれほど特別なものだから。

‥‥というのはおいおい伝えるとして。


「日常生活で息するように魔法を使っているのですね」

『‥‥はい』

「ちょっと不便かもしれないけど、日本には魔法の代わりになるものもあるかもしれませんから、教えてくださいね。どんな魔法が使いたいですか?」


私にできることは多くないけど、少しでもアリシアの助けになりたいと思う。

日本の道具についてひとつひとつ教える。

魔法より便利なものがあれば、そうでないものもあった。

でも一貫して‥‥魔法は道具を手元に用意しなくても、いつでもどこでも使えるという手軽さがある。

それが失われるのは、アリシアたちにとっては重いのだろう。

いつもは聞くことのなかった赤荻さんへの不満も飛び出る。

本当にいろいろ我慢していたんだな。


そして私も見張られている。

異世界人の転移は日本どころか地球全体にとって初めての経験かもしれない。

その当事者になるということは、想像を絶するほど大変だ。

私なんかが言うのはおこがましいけど、怖さを身を持って実感している。


アリシアのことを何でも知りたい。

今は少しでもアリシアの気持ちを理解したい。

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