アリシア:魔法の使用ルール
「みなさん、こんばんは。今夜の会議を始めます」
わたくし――アリシアは、いつも通りタブレットに向き合って話し始めます。タブレットにはすでにわたくし含め7人が集まっております。‥‥が、ペトロナは露骨に不満そうな顔をしています。水晶玉の説明のことをまだ引きずっているのですよね。ですが日本とうまく付き合えば1年後の予定に合わせて貸与してもらえる可能性が上がりますので、過激派にはもうちょっとおとなしくしてほしいものです。
「まず、退院を来週の火曜日に控えていますが、魔法の使用条件について赤荻さまから伝えていただきましたので、共有しますね」
といっても使用条件は多かったので、わたくしは用意していたメモを読み上げます。
無断使用の禁止。
使用は事前申請、承認制。ただし緊急時は事後報告でも可。
使用場所は指定区域に限定。政府施設、研究施設、学校のごく一部の区域のみ。
屋外・不特定環境での使用禁止。
使用者は、アリシア・エレナのみ。ただ今後、当面はマノンとペトロナを除く5名に拡張する余地はある。
第三者への指導・付与の禁止。
他人の身体や精神に作用する魔法の禁止。
転移・召喚・物質生成など高リスク魔法の研究以外での禁止。
許可があっても検証目的の使用は立会い必須。
結果および効果の説明義務。
「わたくしたちの日常生活に大きく影響しますが、みなさんには絶対に全てを守っていただきたいと思います。後日、ルールの写しを配布します」
こちらとしては水晶玉、そして聖女の故郷を人質代わりにとられているのです。あまり強く出ることはできません。
我が王国のために、ここは耐えるときです。
『‥容認できん』
「ペトロナ、ここは日本です。わたくしたちは国交のない国から客人として迎えていただいている立場です。ですので日本の主権下において、日本のルールを守るのは当然のことです」
映像越しに見るわたくしの顔は‥‥悲しそうでした。
今にも泣きたいくらい。
なのでペトロナはそろそろ黙ってください。本当に泣きそうですから。
ペトロナが何か言い出したタイミングで、モニカが唐突に手を挙げて大声を発します。
『暑くなっても体温調節の魔法は禁止ですか?』
「屋外や一部施設以外では使用禁止なので、寝泊まりするところ以外では避けたほうがいいかもしれません。翻訳魔法は特別に許可いただいていますが、他に必要な魔法があったらこちらで整理しますので、教えてください」
『定期的に使う魔法は最初の一回だけ申請すればいいですか?』
「全く同じ条件で毎日同じ時刻に使うなら構わないと聞いています。例えば用途、目的、時刻、周囲の状況が同一でも、場所が違ったら再申請が必要です」
‥‥だめですよね。弱気になっているところを見せてはいけません。
あくまで平常心です。
◇
会議が終わった後‥‥すぐモニカから念話が来ます。
『殿下、ご気分は悪くないですか?』
「ありがとう、モニカ。見苦しいところを見せてしまいましたね」
『いいえ。あたしもあの時、病院に持ち物を回収される時に抵抗すればよかったと後悔しています。おそらくみんなも殿下と同じ気持ちです』
「‥‥ありがとうございます」
‥‥ぽろぽろ涙をこぼしても相手に見えないのは、念話のいいところです。
ほんとにわたくしってば。
日本の文化を受け入れようと綺麗事を言って、いざ来てみれば‥‥最初に帰還手段を取り上げられて、それを人質に生活の自由を奪われて、不便な生活を強いられることになって。研究されることになって。監視されて、自由なんてなくて。しかも本も杖もまだ返ってきてなくて。
一部は交渉してなんとか返してもらうことになっていますが、一番大切なものを掴まれてしまっては。
これまでわたくしが外国に行くときは、いつもお母様同伴でした。お母様が難しい顔をなさっているのをよく見ていたので頑張って慰めたものでしたが‥‥
今はわたくしがリーダーです。そして敵地の中です。頼れる人はいません。わたくしがくしげたら、他のみなさんにも影響します。
ここで折れることはできません。必ず、粘り強く。
わたくしは次の王になるのですから。
‥‥あまり泣きすぎて涙声を真理に聞かせたくありません。
今日の王女としての仕事は終わりです。楽しいことだけを考えましょう。




