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井上真理:念話

モニカ、従者。

ペトロナ、護衛の剣士。

エレナ、護衛の魔法使い。

ララ、魔法学の学者。

マノラ、社会学の学者。

クロエ、斥候の鳥人。


この国には親睦を深めるために来たって言うけれど、留学って感じかな。ふふ。そして、とてもファンタジーっぽいメンバーだと思った。

そういうことを夕方のオンライン面談でアリシアに教えてもらって、モニカが私の友達と同じ名前だから学校で仲良くできるといいね、ということを言って笑った。


‥‥今日は1日で2回もアリシアと出会えて、しかも実際に対面で会えて‥‥嬉しいな。アリシアの色が濃かった。

さて、夕食も食べたし、いい加減宿題をしよう。昨日、欠席することを伝えたら宿題をどっしりずっしり渡されたんだよね。いや、自宅待機の時と比べると少ないけれど。先生は宿題という言葉が好きみたいだ。

余韻に浸ってばかりじゃ進まない。宿題も1時間あれば終わる量だし、頑張ろう。


部屋の机に座って、なんとなく時計を見る。もう21時を回っている。


私の部屋はそんなに広くない。9畳程度をちょっと細長くした感じ。この家は私の一人っ子だけど、それでもこの狭さ。都会の家はえてしてそういうものらしい。

机の背後にベッドがある。ちらっと後ろを見てしまう。なんとなく、そこにアリシアがいるような気がした。いない。そりゃそうだよね。

さ、いつまでもアリシアのことを考えないで勉強勉強。


『真理さま』


ほら、雑念が入ってくるから幻聴も聞こえる。


『真理さま、聞こえますか』

「‥‥えっ、アリシアさん?」


‥‥まさか、聞こえるわけないよね。幻聴だよね。ただの幻聴だよね。


『えっ、本当に聞こえておられるのですか!?』


驚いているのは私のほうなのに、なぜか相手のほうが驚いているような口ぶりだった。

え、なに、ここ、アリシアがいるの?

いや、いるわけないでしょ、アリシアは病院だし、ここ多摩川挟んで神奈川だよ、新宿の病院まで距離あるよ。車や電車で1時間だよ。幻聴だよ、考えすぎだよ、気のせいだよ‥‥気のせいだよね?


『部屋で一人ですか?』

「はい、そうですけど‥‥どなたですか?」

『その前に、家に他に人は?』

「下の階にいます」


アリシアっぽい声は、私が普通にしゃべった声を拾っているようだった。

返事を聞くからに、明らかに私の言っていることがアリシアに伝わっている。

え、この部屋、スピーカーでもあるの? それともスマホの通話切り忘れた? ‥‥切り忘れてないよね絶対。一応スマホの画面確認したけど、アプリは起動していなかった。


『声が他に漏れないよう、口に手を当てて気を付けて喋ってくださいますか』

「はい」

『そして、わたくしはアリシアです。今日は昼前と夕方にお会いしましたね』

「アリシアさん‥‥うそ‥‥今、どこにいるのですか?」

『病院です。ベッドで寝ています』

「え、ではこの会話は一体‥」

『念話魔法です。遠隔でお話ができます』

「わあ、すごい‥アリシアさんの魔法、初めてです。赤荻さんから使う許可をもらえたのですね」

『いいえ、無断です』

「え?」

『無断なので、赤荻さまやご友人も含めて、絶対どなたにも言わないでほしいのです。真理さまとわたくし2人だけの秘密です』


私はびっくりしたけど‥‥アリシアのことだからきっと何か理由があるんだろう。

でもその無断通話の相手に私を選んでもらえて、ちょっと‥‥いや、かなり嬉しかった。


「アリシアさん、何かおしゃべりしますか?」

『はい、そのために連絡しました。ご迷惑でしたか?』

「いいえ、そんなことはないです。ふふふふ‥‥今日は対面で話して、映像で話して、魔法で話して‥‥ふふふ、アリシアさんでいっぱいです」

『嬉しいです‥っ、恥ずかしい‥』


そう言われて私も恥ずかしくなる。今までの会話と違って相手の顔は見えないけど、なぜか照れているアリシアの顔をすぐ思い浮かべてしまう。


「通話だけじゃ足りないですね、もっとアリシアさんとお話したかったです」

『ふふ、それもありますが‥』


と、アリシアの声が急にどもる。


『‥‥実を言うと、わたくしは日本政府から監視されております』

「えっ?」

『赤荻さまや他の職員とお話しているときはもちろん、部屋の中の一挙一動、そして仲間とタブレットで通話していると夕方お話しましたが、それすらおそらく盗聴されているので、仲間同士の情報交換は念話でしなければいけなかったのです』

「そんな‥」


知らなかった。アリシアがそんなことになっていたなんて。背筋が寒くなる。

まだ現実味が全く無いんだけど。ええ‥‥。日本がそんなことをやるなんて、全くイメージが沸かない。異世界人を周りから守るだけだと思っていたのに。そんな話はただの夢でしかなかったのだろう。


「‥‥‥‥え、ええと、私にできることはありますか?」

『ありがとうございます。ただ、最初にお願いした通り、絶対どなたにも相談なさらないでください。現状の改善のために無理に動くことは望みません。真理さまはわたくしの念話の相手をしてくださらないでしょうか。それだけでわたくしはこのうえなく嬉しいです。もちろん真理さまにご迷惑はおかけしません』

「はい、あの、私でよければ‥」


ってことは‥‥アリシアと本音で話せるってこと? というのと、私の友達が‥いや友達と言っていいか分からないくらい雲の上にいる人だと思うんだけど、身近には感じていたので、その人がそんなことになっているとは夢にも思わなかった‥‥という気持ちが混ざり合う。

ていうか、つい勢いでOKしてしまったけど、赤荻さんにばれたらどうなるのかな。私も叱られるのかな。


そんな私を見透かしたように‥‥。


『真理さまがわたくしの国のドレスを着てカーテシーをしているところを見たいです』


あ、これ、赤荻さんから止められていた約束の一種だ。

念話でこういうことを話せるという意味だ。今まで赤荻さん管理のもとで話していたから、すごく新鮮だった。私の意識はそっちに行ってしまう。


「はい、アリシアさんの国のドレスを着てみたいです。どのようなデザインですか?」


一度始めると止まらなくなってしまう。

今まで我慢していたものが全部流れてしまう。

いつかアリシアの国に行ってみたいな、でも迷惑じゃないかな。


‥‥自然と会話に没頭してしまい‥‥はっと宿題の存在に気付く。

それでもするするとアリシアの方に引っ張られていって‥‥


でももう限界だ。22時すぎ、私はお詫びを入れる。


「ごめんなさい、実はやることがありまして‥」

『あら、ごめんなさい、そろそろ終わりにしましょう』

「あの、その前に‥‥次はいつ話してくださいますか?」

『21時以降ならいつでも大丈夫です。で、あの、よろしければ、明日から毎日21時にお話しませんか?』

「はい、ぜひ!」

『それと‥‥明日のオンライン面談で、この会話はしていなかったことにしてください。少し頭がこんがらかるでしょうが、このことは本当に2人だけの秘密です』

「はい、頑張ります。ふふ」


そうじゃないとアリシアに迷惑かかるよね。私も分別はできていると思う。明日の約束をして、念話を終わらせた。

‥‥そういえば念話は1時間だった。今まで30分だけで時間を切っていて、1時間連続で話したことはないから‥‥すごい満足感がある。小さいアイスを食べ終わったときのような感覚は、今回に限っては無かった。


アリシア、また会いたい。

私はちらっとカーテンをめくった。真っ暗な夜景に、私の明るい顔が映っていた。

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